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第九話『新しい生活』

☆★☆ 今は『四季庵』と呼ばれている離れについての説明 ☆★☆



 今は『四季庵』と呼ばれている我が家の『離れ』についての説明をしたい。


 この離れは、大正時代に、大地主でもあった我が野村家のご先祖様が『社交ダンス』を楽しむために建てたものらしい。


 だからなのか、かなりの広さと頑丈さを持った古臭い建物だ。


 1923年9月1日の大地震にも耐え抜いたこの離れは、当時難民となり果てた近所の人々の多くを受け入れ、畑の野菜と備蓄された米で、ここに避難した人々の命を余すことなく救ったと言う歴史と言うか過去を持っているそうだ。


 やがて時が過ぎ、この離れは、家業(のうか)の後を継げなかった者の住処になったり、働けなくなった老人の隠居先になったりと、時代に沿った役割をこなしながらも大切に守り続けられてきた。


 大地震の際にこの離れに救われた人たちの厚意で、増築や改築、補強なども成されたこの離れ、実は母屋よりもかなり広いし部屋数も多い。


 風呂場だってかなり広い。


 まぁ、今はジャガイモや大根の洗い場くらいの用途でしか使われていないが。


 トイレだって男性用小便器が6機もあり、洋式の便座も6機と、大人数を収容するのに十分なキャパシティを誇っている。


 但し、男女の区別がないのが難点だ。


 デパートとか学校ではない、個人が所有するただの離れだからだ。


 平屋であり、2階は無いが天井はかなり高い。


 その高い天井から、かつては豪華なシャンデリアがぶら下がり、キラキラと(まばゆ)い光でホールを優しく照らしていたらしいが、流石にそのシャンデリアだけは大地震の際に失われてしまったらしい。


 現在応接室として使っている、かつての客間の奥には4つの控室(今は個室)があり、その他にも8つの宿泊用の客室がホールの左右に繋がっている。


 第二次世界大戦後、この離れは一時村の『集会所』としても利用されていたが、個人所有の建物に依存し続ける訳にはいかないからと、町村合併の際に『集会所』としての役割は終えた。


 現在『四季庵』として利用されているのは、ダンスホールだった広間とトイレ、そして野菜を洗うための旧風呂場と台所、そして応接室だけである。


 その他の残り12の個室は、立ち入り禁止で今は開かずの間。


 冬二と冬子は、その中でも応接室を経由してしか入ることが出来ない開かずの間の個室(旧控室)の一つ(10畳ほどの洋室)に引っ越しをした。


 冬二と冬子の新生活が始まる……



☆★☆ 新生活準備 ☆★☆



 12月31日。快晴。


 ベッドの設置完了。


 テレビもアンテナも、レコーダーも接続完了。


 Blu-rayディスクたちの準備も良し。


 パソコンデスクにノートパソコンの配置完了。


 タワー型モバイルWi-Fi準備良し。


 クローゼット2基設置良し。


 衣類、寝具、掃除機、本棚、テーブル、椅子、食器棚、食器類も準備完了。


 冷蔵庫、洗濯機、洗濯洗剤、食器洗剤、スポンジ、石鹸、消毒用アルコール、バスタオル、小タオル、化粧水、保湿クリーム、ブラシ、整髪料、整髪水入りスプレー、歯ブラシ、歯磨き、コップ、洗面器……


 新生活の為の必要物品は一通りそろった!


「おにい…じゃなくて、冬二さん、なんか楽しいね?」


「ああ、めっちゃ楽しいな」


 一日があっという間に終わった。



☆★☆ 初夜 ☆★☆



 ちなみにこの新生活、『四季庵』は寝室としてしか利用しない予定だ。


 学校関連の物は母屋にある元々の俺の部屋に置いておき、学校から帰った際は『四季庵』ではなく母屋に帰宅する。


 じゃないと、カオスすぎるでしょう?


 まさか『四季庵』に帰宅するわけにはいかないよね。


 だって学童たちがびっくりするだろ?


 食事も母屋でする。


 朝起きたら、着替えをして母屋に行って朝ご飯を食べる。


 料理するのはいつも父さん。几帳面すぎるからかなり美味しく作ってくれる。


 弁当も父さんが作っているが、休みの日の昼は各々で勝手に準備する事になっている。


 昼だからと言って、父さんは畑から帰ってこないからな。


 夕飯とお風呂も母屋でする。


 寝る時はパジャマの上にコートを羽織って、母屋から離れ(四季庵)に移動する。


 ドアトゥードアで歩いて1分くらいかな?


 それでも今は冬。メチャメチャ寒い。


 俺と冬子ちゃんのベッドは離して置いてあったが……


 俺たちは、何故か当たり前のように一緒のベッドに入った。


 まあ、寒いからな。


 引っ越しした最初の夜は、こうやって、抱きしめ合って、お互いの体温で温め合って眠った。


 寝室に暖房設備を設置することを忘れていたよ。


 気付いた時はもう遅い。


 だからだろう、翌朝もぴったりと密着して、抱き合った状態で目が覚めた。


 それでも、俺たちは笑った。


「寒い、寒すぎる……今日は絶対にストーブを準備しなきゃな」


「うんっ!」


 朝ご飯を食べるために、俺たちは寒さに震えながらパジャマから普段着に着替えをして母屋に向かう。


 一応、着替え中は冬子ちゃんの方を見ないようにしているが、こんな生活が毎日続くことがどれだけ異常であるかと言う事に、俺たちはまだ、気が付いていなかった……





 

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