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第六話『アニキ スーパー ドライ』

☆★☆ 秋一 ☆★☆



 冬二の兄、秋一は感情の起伏が少ない。


 冷めていると言えば言えるし、人生を諦めているとも言えなくはない。


 その大きな理由は『農家の長男』と言う、逃れる事が出来ない事実。


 そして小さな理由は『女運の悪い一族の一員』と言う現実。


 秋一は、祖父を捨てた祖母も、父を捨てた母と義母をも憎むあまり、女性と言う女性の全てを自分にとって『役に立つか立たないか』だけで評価する、ドライな性格に成長していった。



☆★☆ 魅せられた秋一 ☆★☆



 衝撃を受けた。


 弟の冬二から聞いてはいたが、冬子ちゃんと言う学童は確かに、天使のように可愛らしかった。


 それに、冬子ちゃんのお母さんの雪子はもの凄い美人だった。


 言っておくが俺は、美人だから衝撃を受けたと言うわけでは無い。


 雪子さんは、(はかな)くて(もろ)そうに見えるが、這い上がろうと藻掻(もが)き、諦めが悪く、その上愛情深い一面を内に秘めていながらも、決してそれを女の武器にしない。


 地力の強さから俺に衝撃を感じさせてくれた。


 いつだったかは忘れたが、その強さを魅せつけられた俺は、いつの間にか彼女(ゆきこ)の姿を目で追うようになって行った。



☆★☆ 俺は誰だ? ☆★☆



 去年の大晦日、祖父に招かれた雪子さんと冬子ちゃんが母屋を訪れた。


 我が家に訪れた、これは初めての事だった。


 俺は雪子さんを見た瞬間に、ボウッと顔が熱くなって、その場にいられないくらいに動揺して、気が付いたら台所に逃げこんでしまっていた。


 俺が何故台所に逃げたのかは説明が出来ない。


 それだけ俺は動転していたのだろう。


 理屈では無かった。


 祖父が父と雪子さんに話があると言った。


 俺は、冬二と冬子ちゃんのようには追い出されはしなかったが、敢えてその場には顔を出さなかった。


 ただ、話が聞こえる位置で、隠れて聞いていた。


 俺が、今までの俺では無くなったと、初めて思った瞬間だった。



☆★☆ 狂った指標 ☆★☆



 雪子さんは、夫の浮気が原因で離婚した。


 その際の口論を冬子ちゃんの前にも拘わらず、感情的になってしまってやってしまった。


 その後、冬子ちゃんはお母さんである雪子さんに、全く懐かなくなってしまった。


 そんな冬子ちゃんの凍った心を融かしたのが弟の冬二だ。と言う話だった。


 また、経済的にもそろそろ限界が近くて、より良い職場を探している事を以前から祖父に相談していたらしく、祖父は『学童保育の正式な職員として迎えたい』と言っていた。


 俺は今まで、学童保育なんぞには全く興味も関心も無かったが、こんな境遇の雪子さんには同情を禁じえなかった。


 役に立つとか立たないとか、そんなレベルじゃない。


 相手の浮気が原因で、自分の生活が詰むなんて、どんな理不尽か?


 俺の中の生きるための指標が、少しだけ狂った事を感じた。



☆★☆ 冬二の部屋 ☆★☆



 急に冬二の意見が聞きたくなった。


 雪子さんはどんな女性で、どんな性格で、どのように娘と向き合っているのか?


 冬二は雪子さんの今の仕事についての話とかを聞いたりしているのか?


 冬二は雪子をどう思っているのか?


 俺が冬二を頼るなんて、生まれて初めての事だ。


 何故なら俺は、冬二より7つも年上で、いつも冬二の師匠を気取っていた。


 だが、農業と喧嘩の枠から一歩でも外にはみ出したら、冬二と俺とは同等……もしかしたら冬二の方が人生経験では俺を上回っているかもしれない。


 だって俺は農業と喧嘩にしか経験を特化させていない。


 ガキにも、犬にも、遊びにも、俺は今まで全く興味を向けなかった。


 冬二……俺を導いてくれ。


『コンコン』ガチャ。


「冬二ちょっといいか……」


 俺は冬二の部屋をノックしたぞ。


 ノックしてからドアを開けたぞ。


 ノックした瞬間にドアを開けた事は、ちょっとだけ悪かったとは思う。


 だけどな、


 冬二は、冬子ちゃんを抱きしめて頬ずりしていた。


 なんだこれ? こんなことしていいのか? おい、いいのか? これってもしかしたら犯罪じゃねーか?


 あ~、未成年の子供にみだらな? 冬二が? でも、そこまで愛し合ってて? う~んもうわけわからん。




「……自首するならついて行くぞ。今ならまだ間に合うから、な?」




 いや、間に合うだろうか? だが、たとえ間に合わなくても俺が弁護するし擁護する。


 だからまだ、きっと大丈夫だ!


「兄貴? 俺たちいつもこんな感じだからね? 自然にこうなる親子とか兄妹的な仲の良さだからね?」


 ちょっと疑問は残るが、今は納得してやろう。


 冬二だけじゃなくて、出来れば冬子ちゃんからも雪子さんの話を聞きたいからな。



☆★☆ 母子(ぼし)に願いを ☆★☆



 なるほど。冬二はあまり雪子さんとの会話はないようだ。


 だったら、冬子ちゃんが雪子さんをまだ恐れているのかを知りたい。


「冬子ちゃんはお母さんの事好き?」


 俺がそう聞くと「多分好き~」と、即答した。


 即答は良いが『多分』か……


 この『多分』に俺は冬子ちゃんの心の闇を感じた。


「お母さんは、お父さんの事を好きだと思う?」


 子供の冬子ちゃんに俺の気持ち……雪子さんを見るだけで何かが熱くなる心の裏側を気付かれないように気を付けた言葉で、気になる事を聞いてみた。


「お母さんはね、お父さんのことが大っ嫌いだから家から逃げたんだよ~」


 小学2年だったか……子供って言うのは素直だ。


 だからこそ嘘が少ない。


 どうやら前の夫に対する未練はなさそうだ。俺はそう判断した。


「ありがとう冬子ちゃん……お母さんがこれから先、幸せになれたらいいね」


 この問いかけで、冬子ちゃんが母雪子さんの幸せを願っているのかどうかを知りたかった。


「うんッ!」


 冬子ちゃんの満面の笑顔による即答。


 これで分かった。


 冬子ちゃんは母雪子さんの幸せを心から望んでいる。


 だったら、出来るのならば、俺の手で雪子さんを幸せにしてやりたい。


 ハッキリと自覚した。


 俺は雪子さんを好きなんだと。


 だが、俺は農家の長男で、父も祖父も、妻には全て逃げられている。


 俺は今日から、農家の嫁には何が必要なのかを考える。


 今までの女たちが逃げた理由を考える。


 そして、逃げる必要のない農家を作って見せる。


 冬二よ、俺は冬二の手で冬子ちゃんを幸せにして欲しい。


 そして俺は、俺の手で雪子さんを幸せにしてあげたい。


 俺はこの母子(ぼし)


 心からそう願った。



 


 



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