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第三話『変化する日常』

☆★☆ じいちゃんの過去 ☆★☆



 波乱に満ちた、正月を含む冬休みも終わり日常が帰って来た。


 三学期前半は何事もなく日々が過ぎ、じいちゃん主導の学童保育にも子供たちが慣れ始めて来た。


 学童たちはキャベツやホウレン草などの苗を貰い『四季庵』横の畑に植え付けなどの体験をした。


 三学期後半には雪子さんがどのように学童保育の子供たちと関わっていけるのかと、教育実習生のような感じで週に一回お試しで通う事になった。


 今まで務めていた仕事はすっぱりと辞めて、今は保育士の資格を取る為にも通信講座での勉強と、研修の受講に精を出しているそうだ。


 そう言えば、じいちゃんって学童保育をするのに何か、資格とか持ってるのかな?


「こう見えてもな、ワシは保育士と幼稚園教諭二種の免状を持っておるんじゃぞ?」


 じいちゃんが昔、畑から逃れるためにわざわざ県外に出てまで専門学校の保育科に通っていたとは。


「結局逃げきれずに畑に縛り付けられてしまったがの」


 ドンマイじいちゃん。



☆★☆ 看板と(のぼり) ☆★☆



 農業体験型学童施設『四季庵』


 丸太を縦に切ったような素朴な板に、『四季庵』と書かれた看板が届いた。


 材木店を営んでいるじいちゃんの古い友人に頼んで、安い廃材を再利用して作ってもらって出来た看板だ。


 だが、文字部分をわざわざ掘ってから黒いインクで文字が書かれているし、全体をニスのような何かでコーティングしており、結構本格的な完成度だ。


 それに合わせて(のぼり)も新調した。


 間もなく3年目に突入する我らが学童保育、なかなか貫録が出てきた感じがするぞ。



☆★☆ 新人挨拶 ☆★☆



「4月からここの先生になる『野村雪子』です。みなさんよろしくね」


 実習生としての初仕事は、3月17日の金曜日だ。


 次は24日、そして31日で最後。計3回を予定している。


「知ってるー! 冬子ちゃんのお母さんだ~」


 タツヤくんは何度か会ったことがあるようで、どうやら覚えていたようだ。


 でも、冬子ちゃんのお迎えは大体一番最後だったから、サキちゃんとハナちゃんは知らなかったようで


「え!?本当?」


 と、驚いていた。


 で、当の冬子ちゃんはと言えば……


 恥ずかしいのか、俯いて顔を真っ赤にしていた。



「じゃあ、もしかして『先生』は辞めちゃうの?」


 タツヤくんが俺に、寂しそうな表情で聞いた。


 その言葉に冬子ちゃんも反応して、俺に悲しい瞳を向ける。


 俺は


「えーと、もともと俺はここの職員じゃないんだ。たんなるお手伝いで、その、たまには遊びに来るよ。だから、えーと、遊びに来てもいいかな?」


 しどろもどろだ。


「毎日は来られないかもだけど、必ず遊びに来る。だからその時はよろしくね」


「「「やったー!」」」


 サキちゃんとハナちゃんも喜んでくれて俺は嬉しいよ。ただ、俺はちょっと泣きそうだけど……


 この様子をじいちゃんは黙って見まもっていた。



☆★☆ THE5人組と雪子先生 ☆★☆



 3月31日(金)


「……と言う訳で、明日からはこの『野村雪子』先生が俺の代わりになる」


 春休み、例のTHE5人組がやって来た為、俺は軽く説明をした。


「うわ、メッチャ美人。俺、話かけられないかも」


 だんだんわかって来た。


 シゲは女性が大好き。でも、照れくさくて自分からは話し掛けられない面倒なタイプ。


「え?僕は普通に話せるけど?」


 カズはマイペースで、誰とでもある程度までは気軽に仲良くできる八方美人タイプ。


 で、ツバサ、タケル、シロウの3人はまだまだ子供。


 ただ、ツバサはひょっとしたら『天然たらし』の素質の片鱗を見せ始めている。面白い。


「みんな、初めましてだけれど、よろしくね?」


「「「「「はーい!」」」」」


 それぞれ特徴が見えて来たけど、素直でノリが良い所は相変わらずだな。


「雪子先生、俺からもお願いします。こいつら、こう見えて結構素直で可愛いですから」


 俺は雪子先生に頭を下げる。そして


「おい、お前ら! 雪子先生にお願いしますだ! せーのッ」




「「「「「よろしくおねがいしまーっす!!」」」」」




 雪子先生……この『THE5人組』もよろしくね。



☆★☆ 野菜を貰える学童保育 ☆★☆



「あのーすみません」


 ある日、突然見知らぬ女性に声を掛けられた。


「はい? 何でしょう」


 俺はじいちゃんと同類で、こういった話し掛けを無視できない。


「この辺に『野菜をお土産に持たせてくれる学童保育』があると、噂で聞いたんですけれど」


 噂? 聞いたこと無いなぁ……でも


「あー、噂は知りませんが、心当たりはありますね。多分ウチです。寄っていきますか?」


「はい、お願いします」


 見知らぬ女性は俺についてくる。


『四季庵』に到着。


「じーちゃーん! おきゃくさーん!」


 学童たちが遊んでいる四季庵のホールを堂々と突っ切って、俺はじいちゃんがいるであろう応接室にその女性を通した。


「はい、いらっしゃいな。どんなご用件ですかね?」


「あの……野菜をお土産にする、えっと、学童保育が……」


「お~~っ! その噂を聞いてわざわざここまで? ささ、ささささっ、どうぞお掛けください」


 まさかじいちゃん? その噂、自分で流したんじゃないだろうな?


 でも、だとしても不思議じゃないし、それもじいちゃんらしいや。


 何となく、今年の新入生は多くなりそうだな、と俺は思った。





 

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