妻の服に名を付けよう
もしも著作権でひっかかったら、すぐに撤収します。
カレンダーの裏に落書きしたので数字が写ってます。
ラフスケッチなのはメンドウ(!)なのと、キッチリ描いたら問題になりそうだからです。(キッチリ描かなくても問題かもしれないが)
2023年 妻の服が何かに見えてしまった時のお話
妻のファッションが独特だ。
出会った頃から独特のファッションセンスだと感じていたのだが、一緒に暮らしてみると、買う服がかなり独特なのだった。
だが女性としてはこれが一般的で、私の目、あるいは男性から見た感覚とはまた違うものなのかもしれない。
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例えばこんな服がある。
生地はごわごわとしていて、もともと大きい作りの服をさらに大きく見せている。何より腕の部分がかなり太く、そこにはまるで取れたてのワカメのような大きなフリルがついている。
フリルの付いたカワイイ服……らしい
どこからどう見てもワカメだ。え? 見えない?
妻は女性だけあってフリルが好きなのだが、フリルがあるだけでボリューム感が倍増だ。上半身と下半身がアンバランスに思える。なのにニュースキャスターが同じような服を着ているのを見ると、こういうスタイルもアリなのだろう。
うん、私には良さが分からない。
ともかく、こういった服に私は親しみを込めて名前を付けている。名前が付けばそれが自分の持ち物でなくてもなんとなく愛着がわくものだ。
しかしその名前は総じて妻には不評だ。さて、この服に私が付けた名前が分かるだろうか。
あ、さすがに「ワカメ」とは言わないよ? しかし「ワカメ」が女性の名として通用することを考えると、そっちの方が良かったかもしれない。
名付けよう。
【ボディービルダー】
キレてるねッ!
袖の太さもそこについているフリルも全て上半身を大きく見せてしまい、どこからどう見てもマッチョにしか見えないではないか。なのに「ボディービルダー」と名付けたら妻にはもの凄く嫌がられてしまった。いや、気持ちは分からないでもないが、ボディービルダーのようだと思わないか? いや、あるいは「マッチョ」と言ったなら受け入れてくれたのだろうか。
だってどう見たって逆三角形だよね。この上半身のボリューム感。この服を見てボディービルダーを連想するのはごく普通のことだと思うのだが、はたして私の感覚がおかしいのだろうか。
オシャレさんにとってはこれが普通なのかもしれないが、どうにも私には奇異に思える。まあ、最先端のファッションがどう考えてもおかしく見えることを考えれば、そういうことなんだろう。
誰もがうらやむ超一流ファッション……らしい
コレが時代の最先端なら決して追うまい、と考えてしまう私は感性が鈍いのだろう。
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私が妻の持ち物に名前を付け始めたのはいつからだったろう。少なくとも結婚指輪には名前を付けた。
結婚指輪は日常的に身に着けるものなので、装飾はなく、引っかかりのないものが良いと考えていたが、妻が選んだそれはリングにたくさんの石が並んでいるものだった。
誰もがうらやむ結婚指輪……らしい
ごつい。
これをカワイイというデザイナーのセンスが意味不明だ。どう見ても私にはアレにしか見えない。
分かるだろうか。
名付けよう。
【メリケンサック】
いやだってこのゴツさ、どう見たってチカン撃退用の武器だろう。だからといって私を殴らないでほしいが、いやむしろそれ以外の何に見えるというのだ。
妻の指に光るメリケンサックを見るにつけ「絶対に怒らすまい」と心に誓うことを考えれば、これはこれで世の夫たちの反抗心を奪い、日本の離婚率を低下させるのに役立っているのかもしれない。
だってそうだろう。痛いだけではなく、殴られた時にポロリと石がこぼれようものなら、血眼になって探すことになるに違いない。むろん殴られた私が。そんなのはイヤだよ。
指輪メーカーが「スイートテンダイヤモンド」などと言っているが、もし結婚10年ごとに一つずつ指輪が増えていったなら、定年退職を迎える頃には恐ろしい戦闘力になっていることだろう。指輪メーカーめ、何を企んでいやがるのだ。
熟年離婚の際には気をつけねばならぬ。いや、するつもりはないが。
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まあいい、服の話に戻ろう。
例えば春用のカーディガンがある。黒い薄地のなんていうことのないありふれた服で、文句の付けようもない。
そのままであれば。
それなのになぜか服のあちこちに直径8センチもの毛玉がついている。ニット帽の上についているような毛玉のボンボンだ。何のために? と問われれば明らかにカワイイからなのだろうが、いやこれはカワイイと言っていいのだろうか。
ボンボンがカワイイカーディガン……らしい
このボンボン、取り外しが可能なのだがホックで付いているため、好きに場所を選べるわけではない。この位置固定だ。おそらく洗濯することを考え取り外し可能にしたのだろうが、いやその前にこれが何を連想させるか、考えなかったのだろうか。
私が連想したものといえば一つしかない。というかそれ以外に連想できない。
それ以外を想像する者がいたとしたら、それは天才と言って良いのではないだろうか。
名付けよう。
【修験者】
いや誰だってそう思うだろう。どう見たって修験者だろう。妻に「修験者」と言ったらやっぱり怒られてしまったが、あるいはカラス天狗の方が良かっただろうか。
カラス天狗
デザイナーは何故ボンボンをつけようと思った? そしてなぜこれがカワイイと思った?
まさか服のデザインチームの誰1人として、コレを見て「修験者じゃね?」と、声を上げる者はいなかったというのか。販売メーカーの誰一人として「修験者じゃね?」と思わなかったというのか。
んなわけない。絶対にない。
裸の王様か。それともこの服は修験者だろうがかわいくて、私の感覚がおかしいだけだというのか。
どうやらそうらしい。恐ろしいことに。
だってさ、世の中の一流ファッションがコレなんだぜ。
誰もがうらやむ超一流ファッション……らしい
まったく、自分の凡人が身に染みるぜ。
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同じように妻は黒のセーターを持っている。
しかしやっぱり妻が選ぶセーターには肩の部分に余計なヒラヒラがついていた。
肩のリボンがカワイイセーター……らしい
普通のセーターでいいじゃないか、どんだけフリルが好きなんだ。そのヒラヒラすぎるリボンは、あまりにも主張が激しすぎるだろう。なに? カワイイだと? 女性からしたらそうなのかもしれないが、男からするとそれは別のものに見えてしまう。
いやしかしこれは。
さすがにこの名前は誰が聞いてもかっこいいだろう。
名付けよう。
【北斗〇拳】
注)世紀末覇王なあの人に似ているかもしれないが別人
肩パッドとメリケンサックを装備した妻は、戦闘力が30は上がるに違いない。仮想敵は誰だ。私か。
とりあえずこのエッセイが妻に見つからないように注意しよう。
しかし有名な漫画のタイトルを名前に付けたからってそんなに怒らないでほしい。だって見えてしまうのだから仕方がないだろう。こんなに愛情を込めて名前をつけているのに、しかもカッコイイと思っているのに、妻が私の名付けに満足したことはなく、むしろ馬鹿にされたと思われるのは甚だ心外だ。
カッコイイ名前じゃないか。あれ? かっこ、良く、ないか?
だって「北」に「斗」に「拳」だよ? カッコイイ要素しかないじゃあないか。それとも何か「世紀末救世主」の方が良かったか?
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まだあるぞ。次はトップスだ。
いったいこんな服をどこで買うんだ。ラメの入った刺し子のような生地で作られたそれは、ダボッとしたつくりで腰の部分が絞られており、まるで帯を締めた柔道着のようにも見える。
裾のヒラヒラがカワイイトップス……らしい
おおこれはカッコイイ! 間違いなくカッコイイ! 思わず「柔道着」と言ってしまいたくなるが、もう過ちは犯すまい。個人的に道着は好きなのだが、女性に「柔道着」と言って喜ばれないであろうことは、さすがの私でも分かる。
でも、この名前ならかっこいいんじゃあないか? 全男子が一度は憧れるであろうアレ、あの名前なら妻も喜んでくれるに違いない。
名付けよう。
【ジェダイ〇騎士】
注)星の戦争を光の剣で戦うあの人たちを思わせるかもしれないが別人
これはどう見たってあの有名なSF映画に出てくる、これまた有名な騎士団のコスチュームだろう。なに、却下だと。おかしい。私がカッコイイと思って付けた名前がこうまで否定されるとは。
だってさ、男の子で(いやたとえ成人男子であったとしても)この名前を付けられて喜ばないものがいるだろうか。
うむ、女性の感覚というのはやはりよく分からんな。
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最後は毛編みのセーターだ。そのセーターの特徴は袖口にたくさんの毛糸のような飾りが付いている。このボリューム、デザインとしてはアリだが、果たしてこの上からコートの袖が通るのか不安になる。
まあ、この上からコートを着るなどとは想定されていないデザインなのだろう。
袖がカワイイセーター……らしい
しかしさすがにこれは誰が見てもそう思うに違いない。この名前が受け入れられなければ、私のセンスは壊滅的にダメということだ。
しかし、カワイイかと言われれば間違いなくかわいくない。
さあ、どうだ。
名付けよう。
【モップ】
「そうだね、掃除できそうだね」
う、受け入れられた、だと? 何故カッコイイ騎士団はダメでモップはいいんだ。何故カッコイイ漫画タイトルはダメでモップはいいんだ。
モップ。もっぷ。言われてみればカワイイ気がしないでもない。とくに「っぷ」のあたりが。やるな。
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このように多くの服に名前をつけ、慈しんでいるこの私だが、妻にその名を受け入れられることはかくも少ない。他にも「銀河鉄道」「ミツバチ」「漫画家」「赤ずきん」「アテナ神」など、妻のファッションには独特すぎるものが多いが、私が付ける名前は大抵却下されてしまう。
ついにお返しに私の服にも名前を付けられた。「ヒデキ」と「マタギ」だ。
ヒデキな服と&マタギな服
注)ギャランドゥなあの人に似ているかもしれないが別人
(イラストを描くにあたりいろいろと調べてみたのだが、こんな服は着ていなかった。ま、着そうなイメージということで)
納得の名前だった。
そう考えるとそこまで妻とのセンスが離れているとも思えないが、どうなのだろう。
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さて、男と女ではかくもファッションに対する感覚が異なるが、皆さんはいかがだろう。
おっと、今日もなにやら宅配便が届いているようだ。私は期待に胸を膨らませて妻の帰りを待つ。