そんなこと言えないっ! (未完 草案のみ)
未完です。万が一、清書版を読みたい方がいましたらコメントいただければ仕上げます。
六月
学校の帰り道。
友達と二人で生き生きとした雑談をする。
どのくらい生き生きとしていたかと言うと、ラジオでそのまま放送できそうなくらいのちょっと凄いものだった。
弟と彼氏が仲良く歩いている。
学校の帰り道、ジュースを飲みながら彼氏と歩いている弟。
「あ、姉ちゃん」
二人とも甘党で食通という接点があるせいなのか、私の彼氏と一緒にいることが多くなった。
内気だった私が奇跡的にも彼と付き合えるようになったのは三年前。
慣れ染めは大いに省くけど、今はそんな彼氏のおかげで、私は少し変わったような変わらないような。
でも、付き合うことがきまって一件落着ということはなく、ちょっとしたすれ違いでケンカをしたりした。いや、ケンカというよりは私が一方的に愚痴と甘えを混ぜしたようなことを言ってリン君がそれをなだめる、というようなおのろけ話だけれど。
今だって、たまに「本当につきあっているんだろうか」って思ってしまうこともあったりして。
幸い、というべきなのか両親は恋愛に寛容で、父親に至っては両手両足の指では収まらないほどの人数と付き合っていたらしい。
異性と付き合うというのを家族に告げるのは、なんだか罪を白状するような気がしていたのだ。
恋愛なんて、選ばれた特定の人種にしかできないものだとばかり思っていたのに。
結局、恋愛に関して一番縮こまった考えを持っていたのは私だけだったようだ。
「ま、恋なんてのはケンカと仲直りの繰り返しなんだな。気長に付き合うことだな」
そう言って父親はポンと私の肩を叩いたのだった。
「兄貴がさ、クレープ買って行こうって寄り道してたんだ。ばったり会っちゃったね」
「ってかお前ら仲良すぎなんだよっ。デキてんじゃないかとマジで疑うよ」
おまけに彼氏のことを兄貴なんて呼んでるし、彼氏もそれを容認してるし。
「一緒に帰る?」
「いや、友達と一緒だからさ」
「」
「ご飯までには帰ってくるんだぞ」と言い残して弟は去る。
「いいねえマユは。彼氏はイケメンだし、弟さんもあんなカッコイイんだから」
「弟かぁ……」
ふっと考えてしまう。
ソウマは実の弟ではない。母親の、高校時代の先輩の子供だ。先輩は、なにか訳有りの妊娠で、出産を親族から反対されていた。結局、その先輩は病気で亡くなってしまったのだけど、そのときに私の母に結構ムリな約束を取り付けた。つまり、自分の子供、ソウマを引き取って育ててほしいと。母とその先輩は姉妹同然の仲だったらしく、母は躊躇いなく、約束通りに弟を預かったらしい。
弟というものを持ったことがない私にとって、オモチャのような存在だった。
ソウマ、当時十歳。小学校四年。
最初に会った時は、私や私の家族のことをなんだか警戒していて擦れた目をしていた。慣れてくるにつれて、次第に私に甘えてくるようになった。
「おねぇちゃーんっ」
と、純粋で、ときに可愛らしく……。
でもカッコイイなんて思ったことがない。
勝手にアイス食べちゃうし、使い終わったトイレットペーパーの芯とかも換えとかないし、生意気でむかつくヤツ。
昔はくしゃくしゃ頭の野生児みたいな少年だったヤツが、最近ではパーマなんかかけちゃったりして髪がウェーブしている。まあ、月一くらいで髪型を変えるから色々なんだけど。
学校で、彼氏とマイのドキドキな会話とか、一緒に昼を食べるとか。彼氏サイドのドキドキ。
屋上でお昼 初
「結構、風強いね」
「そのせいで、今日誰もいないよ」
一番風が弱そうな場所に座ってお弁当を食べ始める。
「その弁当、マユが詰めてるの?」
「いや、これはお母さんが」
「お母さん、料理得意なんだね。卵焼き一個もらっていい?」
「そんな特別美味しくないと思うよ」
「いや、うまいよ」
二人きりになってしまうと、やっぱりうまく話が続けられない。口下手特有の『間』みたいなものがあって、自分がつくづく口下手であることを認識させられる。
こういう『間』があってから最初に口を開くのは、リン君の方。
「今年から大会に出るんだ。規模の大きな大会だから、部活、これから忙しくなるんだ」
リン君はダンス部だ。演技とかではなくて心根が優しくて、とても寛容で、おまけにダンスまでできる。世界が正常なら、私みたいな女は遠目から眺めて憧れるくらいのことしかできない存在。世界は狂っているんでしょうか。
「え、いつまで?」
私は箸を止めて、聞いた。
「来年の3月くらいまでかなあ。義理の弟とも遊べる日が限られてくるな」
義理の弟って。とぼけて聞いてみる。
「え? 誰のことなの?」
「ソウマ」
当たり前みたいに返答する。
「リン君の弟じゃないんだからさ」
「もう、そんなようなもんだろ」
「鬱陶しくない? ウチの弟」
「そんなことないよ。ソウマはもう俺の弟だよ。俺、一人っ子だからさ、ちっちゃい頃からずっと弟が欲しかったんだよ。一緒にふざけたり悪戯したりできるだろ。やっと夢が叶ったかな」
「甘やかすと調子に乗るよ? 生意気言ってたらシメていいからね」
「生意気なくらいでちょうどいいんだ。俺は、マユとソウマと三人で仲良くやっていきたいんだよ」
リン君と屋上に二人でいる。
死ぬ時に思い出すとしたら、これかな。過去に戻れるなら、この瞬間かな。
「あのさ、マユ」
リン君が私の顔を見た。この顔は、大事なことを言う顔だ。だんだん、リン君のことが分かって来た気がする。
「え、なに?」
キス? いいよ。婚約? いいよ。
「……おでこに、ご飯粒ついてる」
「ソウマ、いる?」
勝手にドアを開ける。
いつもこんな感じだ。
ノックなんかすれば、逆に違和感というか変に気を遣っている感じがしてなんだが気持ちが悪い。
ソウマは鏡の前で何かやっていた。
顔の手入れでもしていたのだろう。
生意気に色気づきやがって。
「あ、姉さん。どうしたの?」
答える代わりにからかいの目で見る。
「ははーん、いっちょまえにぃー。好きな人でもできたのか?」
からかうつもりで聞いてみる。
「うん。そうだよ」
意外にあっさりと言ってのける。
「誰よ?」
それが、聞かなきゃよかったと後悔する一言になろうとは思いもよらなかった。
弟は、待っていましたと言わんばかりの表情でこう言った。
「姉ちゃん」
「えっ?」
思わず声が出てしまった。
「姉ちゃん」
聞き間違いだと思おうとしたのに、間髪入れず二回も言う。これで聞き間違いではないことが明らかになった。
「はあ?」
「姉さん、僕、姉さんのこと好きだよ」
「はあっ? なにいきなりキモイこと言ってんの? いきなり〝姉さん〟とか言うな」
「でも、血はつながってないし。結婚しようと思えばできるじゃん」
突然の弟、禁断の告白。
その後
で、意識。
でも最初は
ありえねえー。いや、ありえないよ。
弟と恋に落ちるなんて。
「でも血はつながってないし、結婚しようと思えばできるじゃん」
弟の言葉がよぎる。
七月
弟、姉の気を引く作戦開始。夏祭り
居間で一緒にテレビを見ている。
「お母さんは?」
「父さんとなんかの鑑賞会に行った。地区のやつ」
「せっかくのお祭りだよ? クラスの女子にも誘われてるんでしょ? 行かないの?」
「行かない。姉ちゃんと一緒にいる」
ソウマはあぐらをかいたままテレビに向かっている。
「いつもなら、リン君と一緒に屋台めぐりとか、やってもよさそうなのに」
「誘われたけど、今日は行かない」
妙にそっけない。目を合わせようともせず、テレビを眺めながら言う。その口元は拗ねているようにも見える。
「はあ? あんたどうしたの? リン君とケンカでもした?」
「そんなわけないじゃん。俺と兄貴がケンカなんてするわけないだろ」
「ねえ、昨日のこと、考えてくれた?」
「だいたい私はね、真田幸村とか伊達政宗みたいに強くてワイルドな人が好きなの。あんたみたいなひょろひょろなんて好きになるわけないじゃん」
「昔からあんたは感化されやすい方だったからさ、なんかそういう、変な映画でも見たんじゃないの? 一時の気の迷いだよ」
「なあ、俺と兄貴、どっちが好き?」
「はあ?」
「もしさ、雪山で食糧が二人分しかなくてさ、そんで俺と姉ちゃんと兄貴と三人で遭難しちゃった場合……」
どういう状況だよ、と思いつつも想像してしまう。
「一人分は姉ちゃんが食うとするじゃん。で、もう一人分は、俺と兄貴、どっちに食べさせる? つーまーりーさぁー、どっちに生きていて欲しい?」
そんなん選べるわけないじゃん。っていうか、彼氏選ぶに決まってるじゃん!
「……なにバカなことばっかり言って。もしそうなったら、私は要らないから二人に食糧あげるよ」
「やっぱりやさしいなー姉ちゃんは。その発想はなかったな」
「お祭り行きたいなー。でもみんな断っちゃったから一人じゃ行けないなー。どうしよー」
「あ、そっか。姉さんと一緒に行けばいいんだ」
私も、たまのお祭りくらいは行きたいし、豪快な花火を眺めつつタコ焼きやチョコバナナを堪能するくらいはしたい。
で、祭りに行くことに。
「」
「へへっ。やっぱり姉ちゃんといるときが一番楽しいや」
祭りのシーン。
友達と会う。
「あ、リン君」
「ちょうどよかった」
「はい姉ちゃん、あーんして」
リン君の前でそんなことをして?
「早く食ってよ、落ちる落ちる」
タコ焼きを食べさせたり?
「おバカ。あんたが適当に突っ走るから、道がわかんなくなっちゃったじゃん」
「ごめん……」
シュンとした顔のソウマ。
「だいたい、なんでこんなことしたの。私、今アタマにきてるからちょっと説明してくれる?」
「…………」
ソウマは黙ったまま真っ暗な闇に顔を背けている。
「ソウマ」
ちょっと怖い声を出した。
「……だって」
「だって、なによ」
「姉ちゃんと一緒にいたかったんだもん」
「は?」
「」
「姉ちゃん、俺の気持ち、全然分かってくれない。ホントに好きな人に目をつぶって他の女と付き合えっていうの?」
「ねえ、」
森の奥から小さな明かりが揺れながらこちらにやってくる。
「おーい、ソウマ! マユ!」
「リン君だ! おーい」
「全く。どこまで行っちゃうんだよ。探したよ」
「こらっ、あんたが張本人なんだからリン君に謝りな」
先ほどのシュンとした顔はどこへやら、ソウマはいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「ま、結果オーライ、ってことで」
アニキィー、と言いながらリン君のところへ走っていった。
マユ、ソウマとばったり。
どこで?
ソウマがクラスでモテているシーン。
滅多にこの階へは来ない。
今日は、生徒会の で静原という下級生に用事があった。
女子に囲まれていた。
ホントに『たらし』だな。
「あ、姉ちゃん!」
ソウマが走ってくる。
「ポニーテール可愛いよ。今日はもう帰るの?」
「恥ずかしいからそういうこと言わないで」
「もう帰るなら、一緒に帰ろう」
「」
さらに続く気を引く行為。
リン君がいつものようにマユの家へ。
親公認の彼氏、という立ち位置に収まったのだった。
「お邪魔しまーす」
「よう、リン坊。マユが首を長ーくして待ってたぞ」
「あ、おじさん」
「最近、ダンスの方はどうなんだ、よっ!」
リン君の背後に回ってお尻を叩いた。恥ずかしいからやめてえ。
「ははは、相変わらず締まりのあるケツだなあ。顔のいい男はケツも違う」
ああ、もう余計なことは言わなくていいから、早く引っこんでよ。恥ずかしい。
「みんな面白い。羨ましい家族像だな。喧嘩なんてしないでしょ?」
「じゃあ、どうすんの? あんた、リン君を裏切ることになるんだよ?」
「兄貴との関係は……壊したくないけど」
「でも、姉さんが好きだし……」
「あんたね、いい加減にしないとホントに怒るよ? 私をからかってそんな面白い?」
マユを押し倒すソウマ?
「じゃあ俺がどれだけ本気かってこと、教えてやるよ!」
強引なキス。
「え……」
予想だにしない展開に唖然。
ただ、見上げる天井がくっきりと白い。
って、弟になに迫られてんの? なんで唇奪われてんの?
反射的にソウマの頬を張った。申し訳ないと思うほど本気でひっぱたいた。
翌日の朝の登校
どうしよう。ちょっと時間ずらせばよかったかな。
顔合わせたら、なんか言った方がいいのかな。
「姉ちゃん。おはよっ」
ソウマは至って普通だ。演技とかではない感じだ。
ほっぺたに湿布を貼りつけている。
冷やしているんだろうか。
やっぱり、腫れたのかな。
「……腫れた?」
あんまり目を合わせないように、それから心配しているように聞こえないような感じを出して小声で聞いてみる。
「ううん。大丈夫」
大丈夫なら、そんな湿布なんか貼らないでしょ。
「痛い?」
ちょっと心配した。学校でからかわれないかな。
「心が、ちょっとね」
大げさにウインクして見せた。
なんだこいつ! 反省してねえな!
「ふーん。別にアンタが悪いんだから。そんなの自業自得だからね」
なんか、言い訳みたいになってしまっている。
「ほらほら、早くご飯食べちゃって。一緒に学校行くよ」
鞄を肩にかけて催促している。
「私、今日一人で行く。アンタ、先行きなよ」
すると、悪戯するときの表情で、
「だめだめ。俺はね、好きな人と一緒じゃなきゃ学校行かないのっ」
八月
慣れ染め、というものをやっぱり話しておいた方がいいと思う。
私とリン君が付き合えるようになった慣れ染め。
お宮掃除のときに少しだけ仲良くなって、若い人が自分とリン二人だけで、帰り道で思い切って告白。
そのときの私は、フラれること前提で、でも他の人にリン君を盗られるくらいなら、ここで後悔した方が少しはマシだと思った。
体が自分のものじゃないのかと疑うほど動きはぎこちなくなっていたし、顔もぐしゃぐしゃで、首筋から変な汗が出てた。
「あの、好きです。付き合ってください」
今思い出せば、本当に芸の無い告白の台詞。
中学生でも、もっと余裕のある告白のしかたをするだろうに。
あのときの声の出し方のみっともなさといったら……。
でも、気がつけば、こうやって付き合って彼氏彼女の関係になっている。
それはとても幸福なことなんだけど、今度は別の悩みが浮上。
第三勢力みたいなのが台頭してきたのだ。
弟。ソウマだ。
ソウマのキス事件を受けて、考えたマユ
「……よし」
「リン! おはよっ」
みたいに、彼氏との仲を深めて弟を遠ざける作戦
「私の彼氏はリンだけなの!」
「じゃあしょうがないな。俺は諦めるよ」
という展開を期待して
「リン君……」
実際は、
「おはよっ」
抱きつく。
「あ、おお。おはよ」
「姉ちゃん、おはよっ」
って、左腕に抱きついてくる奴がいる。
「なんであんた……。早起きして置いてきたはずなのに!」
三十分も早く家を出たのに。
「俺を置いてくなんてひどいよー。一人じゃ学校行けないよう」
「」
「だって、姉ちゃんの足音って、すぐ分かるんだもん。廊下を歩く音で姉ちゃんが起きたこと、すぐ分かったよ」
「今リン君とラブラブ登校してるんだけどさ、ちょっと離れてくれる?」
「えー。こうやって三人で行こうよ」
へー。とか、ふーん。とか
雑誌を読んでいる
ソウマ、なんとなく部屋に入ってきて、ドアを開けた。
つうか、ノックしてよ。
別に部屋に入るでもなく、ドアノブを掴んだまま、こっちを観察していた。
ソウマはなにか、事務的な用件があるような顔をして、
「『大好き』と『愛してる』って、どっちが強いんだろ。気持ち的に」
「そんなの考えたこともないよ」
って、あまりに普通な感じで話し始めたので、普通の感じで返してしまった。
「えっ? 考えたことないの? 彼氏いるのに」
「うん」
「自分の気持ちを一番強く伝えるには、どんなことを言ったらいいか、考えたことない? ちょっと考えてみたら?」
「愛してるっていうのは、人を好きになって、その次の段階って気がするけど……」
「ふーん。そっか」
ヤツは、ちょっと下を向いて、口元に手を当てた。
「……で、あんたなんなの? なにか用事?」
「あっそうそう。」
部屋に侵入してきた。
それから私に迫ってきて、
「姉ちゃん姉ちゃん。デートしよー」
「え、なんでアンタなんかと」
「まあ、いいでしょ。買い物とか、ウィンドウショッピングとか!」
まあいいや。私も欲しいものあるんだ。
「……デートはしないけど、買い物には行くよ」
街中を並んで歩く
弟、女の子とすれ違うたびにチラチラ見ている。
「へー。やっぱりアンタも男の子だねえ」
「なにが」
しらじらしく、とぼけるなって。
「だって自分と同じ年頃の子、見てたでしょ」
「うん。そうだよ」
「やっぱり姉さんのほうが綺麗だなーって思って」
「気色悪いこと言ってると叩くよ! グーで」
「それ殴るって言わない? グーで叩いたら猫パンチになっちゃうけど」
「ふーん」
「なによ」
「姉ちゃんって、女子のくせに、買い物に時間かかんないね」
「はあ?」
「女の子って、なに買うにしても時間かかるでしょ? 服だってさ、シマシマが黒か白か、とか、サイズがMかSかで相当迷うでしょ?」
「誰と比べてんのよ」
「もしかして、俺に気を遣ってる? いいんだよ? もっと時間かけても。俺は姉ちゃんといるときが一番楽しいんだからね」
「はあ?」
「もっと俺が困るようなこと、してよ? いたっ!」
「へえ。本気の猫パンチって結構痛いんだねえ」
九月
涼しくなってきたし、みんなでバーベキューをすることに
高校のみんなで クラスの人たちの集まりに誘われた。
あんまり仲良くない人もいる
みんなで楽しく盛り上がろう というコンセプトで始まった。
苦手なんだよな。
『みんなで』みんなでワイワイやるの好きじゃないし。
『楽しく』テンション低めな私が楽しめるかかなり不安。
『盛り上がろう』盛り上がること自体が既に苦手。
という、三大苦手ワードが入っている野外焼き肉に行かなくてはならなくなった。
本当は行きたくないんだけど、
『○○は来るけど、○○と○○って、あんま仲良くないんだよね。グループ的にさ、○○だけじゃ気まずいんだよね。ぜったい女子の中で二つに分かれちゃうじゃん。マユが間に入ってくれれば大丈夫だと思うんだけど。マユが来なかったら、もういっそ女子の参加は止めようかって。たぶんそうなったら男子も行くのやめるっぽい』
と、私が不参加だとバーベキューそのものが流れるという、心ある人間にはとてもとても断れない状況が発生してしまった。
どうしよう。行きたくない。ほんとに行きたくない。
私は少々考えた。
あ、そっか。ソウマを誘えばいいんだ。あいつなら女子ウケはいいし、『ついてきちゃった』とか言えばいいんだよ。とりあえずアイツをいじっていれば話は繋げるわけだし。
「ソウマー、バーベキュー行くんだけど、行く?」
「うん。行く行くー」
ちょろい。
反則技かもしれないけど、とりあえずOKということで。
十月
衣替え
衣替えの季節。朝が少し寒くなったので、今日からブレザーを着て登校することにする。
「うわあ、姉ちゃん超可愛いよ結婚して!」
後ろから声がする。
「無理に決まってるじゃん」
「ダメ。可愛すぎるもん」
「」
地区の体育会
バレーボール大会
人数足りずマユが誘う流れ
自分が出たくないから
とにかく、同じ地区の人間が集まりさえすればいいわけね。
「俺、バレー苦手。だって背低いんだもん。ネットの一番上まで手、届かないし」
「それに、バレーのルールよく知らないよ?」
「バレーだけじゃなくて、午後からはソフトボールもあるよ」
「賞品は?」
「洗剤とか米とかでしょ、たぶん。ほら、前から欲しがってたでしょ?」
「欲しくないよ。それより俺が欲しいのは……」
悪寒。なんか、嫌な感じがする。
「キス、かな?」
「キス? そんなんでいいの?」
「うん」
「ふーん。いいよ。じゃあ出るってことで?」
「うん」
尻尾を振る犬のようにはしゃいでいる。案外騙されやすいんだな。どうせ大会は来週だし、約束なんか忘れているに決まってる。
「じゃあ、先キスで」
「え?」
先キス? なにそれ。
「なにそれ」
「前払いってこと。今約束したでしょ?」
ぐっと顔を近づけてくる。その顔をはねのけて、
「ムリ。後キスでお願いします」
「もー、しょうがないなあ」
キスキス言って、キス魔か。こいつの脳内で何が起こっているのか。
夕暮れどきの浜辺にいる。絵に描いたみたいな光景。
夕日が大きくて、真っ赤に燃えて海に沈んでいく……。
ああ……。なんて綺麗なんだろ。
「姉さん」
振り返るとソウマがいた。
「なに?」
「俺のこと、好き?」
「うん、好き」
と私が答えると、ソウマは私を抱き寄せた。
「愛してるよ。姉さん」
私たちは、見つめ合ってから目を閉じて、唇を近づけた。
…………。
…………?
ぬわっ。
「うわ変な夢見た気持ち悪い夢見た!」
シャツが汗でぐっしょりだった。
これはさっそく、相当気持ち悪い夢を見てしまった。
アイツがキスキス言ってるから……。
早くなんとかしなくては神経が持たぬ……。
大会当日。
ソウマのヤツは結構頑張っている様子。おかげで私はバレーで恥をかかずに済む。
コートの一番後ろで、ボールに向かってダイブしている。
「アイツ、結構運動神経はいいんだよな」
誤解してマユをライバル視する女がでてくる
「ちょっと。ソウマ君の、義理のお姉さんですよね?」
「はあ。義理のお姉さんですけど。当然ですが血はつながっておりませぬが」
「私、ソウマ君と同じクラスの○○って言うんですけど」
「はあ……」
「ソウマ君にちょっかい出すのやめてもらえません? それに、義理とはいえ弟に手ェ出すのって、どうかと思うんですけど」
「え、急になに?」
「だから、私はソウマ君が好きなんです! だから邪魔とかしないでください」
「…………」
なにこの子。よく分からんけど、まあいいや。利用しよう。
「いいんじゃない。好きなら付き合っちゃいなよ。私、興味ないから」
「え? いいんですか?」
「いーよー。今日もう付き合っちゃいなよ。キスとかしてあげなよ」
「え、なんか意外。ソウマ君のお姉さんてオープンな感じの人だったんですね」
「じゃあ、義理のお姉さんとの約束ね」
ポカンとした顔をしていた。幸福すぎると人は阿呆になるのだろうか。
「え……。ホントにいいんですか? やった、ソウマ君のお姉さんからお許しいただいちゃった。ラッキー!」
嬉しそうに跳ねながら走って行った。
ばっかだねえ。
あんなに浮かれて馬鹿丸出しだねえホント。
「ウチの地区、優勝したんだよ」
「へえー」
「それもソウマ君が頑張ったからなんだって。知ってた? 帰ったら褒めてあげなきゃね」
「うーん」
「ねえーちゃーん」
首にタオルをかけて走ってくるヤツがいる。
「俺の最後の見た? あんなボール拾えるなんて凄くない?」
「ああ、そうだね。凄かったよ」
見てないけどね。
「じゃあ、約束のアレは?」
「アレ?」
やばい。しっかり覚えてた。
「ええーっと、ちょっと待って。ソウマ。あっ」
見れば、あの子がいる。
「おーい」
手を振って呼んだ。
「そうそう。ソウマのことが好きだっていう子がいてね、良い子だからアンタと付き合う許しをあげたの。同じクラスの子でしょ」
「ソウマ君、これからよろしくね」
ソウマは私と○○の顔を見てから、
「あー。残念だけど、俺と姉ちゃんってさ、」
いきなり抱きついてきた。
図々しく髪を撫でてくる。
「こういう関係だから」
「え……、マユさん、なんで抵抗しないんです? 私をからかったってことですか?」
「え、いや、違う」
「もういいです! ホントもういいです!」
って、走って体育館から出て行ってしまった。
「ちょっと、いつまでくっついてんの? 髪触んないでよ」
「だーめ。約束破った罰」
「キモい! 離れろ!」
突き飛ばしてから、
「あー。学校行ったら、あの子にちょっと謝っといてくれる?」
「えー、なんで俺が? 嫌われたらそれは逆に好都合じゃない?」
涼しい顔をして言う、こいつは悪魔だな。
十二月
「へえー。クリスマスに恋人同士で過ごす人って、実は少ないんだってえ」
「それがなに?」
また変な話題を持ってきた。
「つまり、クリスマスは俺と姉ちゃんで楽しくラブラブ過ごそうねってこと」
「なにがつまりなの? それに恋人じゃないでしょ。変なこと言ってないで彼女作りなよ」
「え? それって、遠回しに誘ってる?」
「大人しく恋愛アプリでも探してなよ」
「えー冷たいー」
「クリスマス一緒に過ごすならリン君と一緒に過ごすからね。まだ約束してないけど」
クリスマス、家で過ごすのではなく、
大晦日の過ごし方
「大晦日はさ、やっぱ家で過ごしたいよね。兄貴も呼んで、ずっとテレビ見てようよ」
「……別にいいよ」
「あれ、兄貴、寝ちゃってる」
「」
「あのさあ」
「なに?」
「この時間のテレビって退屈だよね」
やってるものといえば、UFOとか大食いとか売れない芸人がなんとなく勢いで笑いをとってるお笑いとか、そんなところ。
まあ、退屈といえば退屈。
「うーん」
「今年ってさ、なにがあったっけ」
唐突に言った。
「なにって。まあ、色々あったでしょ」
「一番思い出に残ってることは?」
「うーん」
しばらく考えてみた。
「あ、○○かな」
「え、あのことじゃないの?」
「あのことって、どのことよ」
「あのことはあのこと」
察しはつくけど、思い返したくない。
「あのことがどのことか知らないけど、今出てこないってことは記憶に残ってないんだと思うよ」
「あ、カウントダウン始まってるよ。なんかやんなよ」
「じゃあ俺、『この瞬間地球にいなかった』ってやろうかな」
「ベタすぎ。おもしろくないよ」
やることもないのでそのまま見ていると、
「せっかくなので、撮りまーす」
言って、スマホを用意して自分に向けている。
「さん、にい、いち……」
テレビの声とともにカウントダウンをして、ジャンプをするかと思いきや、
「と見せかけて」
飛びついてきた。
「ちょっ……」
ほっぺたをくっつけて、片手でスマホを構えた。
「ねえちゃん、だーいすき。今年も一緒にいようね」
シャッター音。こいつ、この瞬間を撮りやがった。
二月
この日が近づいてくると、日に日に気持ちが重くなる。
バレンタインデー
とりあえず彼氏と女友達用のチョコだけは用意したけど、ヤツの分は用意してない。用意するつもりなんて最初からなかったし。
チョコを抱えて帰ってくる弟
「ねー、姉ちゃん。今日ってなにかあったっけ?」
「なにが?」
「今日はなんの日?」
「えー。普通の日」
「今日はバレンタインでしょ?」
「あーそうだっけ」
「で、俺のは?」
「ない」
弟は泣きそうな顔になって、
「えー。俺、誰からもチョコもらってないのにぃ」
「じゃあその手に抱えてるちっちゃい箱はなんなんだね?」
すると弟は、
「いやー、せっかくもらったものは捨てるわけにはいかないし」
「じゃあそれで我慢しな」
「うう……」
恨めしそうな顔をして、二階に上がっていった。
もっと執拗に付きまとってくると思ったけど、意外とあっさりだった。
「ま、いっか」
とは言ったものの。
彼氏に相談。
「うーん。欲しいって言ってるんだから、あげたら?」
「じゃあ、俺が一緒に手伝ってあげるから、ソウマのチョコ作ろう」
なんでだよ。なんでそうなるんだよ。止めろよ!
寛容すぎるのが災いしてか、展開がおかしい。ずっとおかしい。妙な方向に行く。
トイレから戻る。
「ボールに残った水分は一滴も残さずしっかり拭くんだぞ。チョコと水は仲が悪いからな」
「ふうん、そうなんだ! 俺、チョコ作るの初めてー」
見間違いかと思ったけど、ちゃっかりエプロン姿になったソウマがいる。
「なんであんたがいんの?」
「てへ」
「てへじゃないし! 誰のチョコだよ」
「誰の?」
「そ、それは……」
仕方なく、三人でチョコを作ることになった。
……弟のチョコを。
「できた、と思う」
ソウマが言った。
「じゃあこれ、姉ちゃんに」
満面の笑みでチョコを渡す
「えー。うーん」
弟のために彼氏と作ったチョコを、なぜか私が受け取る事態。
もうだめだ。私の頭では理解できぬ。リアクションが追い付かない。
三月
四月
「そんなことより、光司大伯父さん、明日来るって」
「ええええ!」
この大伯父という人は、なんでもないときに突然やってきては、一週間ほど家に泊まり、何をするわけでもなく帰って行く。
お盆や正月はロクに挨拶にも来ないし、年賀状すらよこさない人なのに。
職業は陶芸家だとか。陶芸家って儲かるのかな。お年玉全然くれないから儲からないんだろう。
まあ、そういう職業ならいつでも来られるから自由な人なんだ。
光司大伯父さんが来ると聞いて、私はひどくびっくりした。
その訳は大伯父さんの性格。
あの人が来ると、いつも何か大きなことが起こる。
お父さんの父親だから不思議じゃないんだけど……。
リン君とばったり会っちゃったらどうしよう。
なにか、とんでもないことにならなきゃいいんだけど。
いや、絶対とんでもないことになる。
で、会ってしまう。
「こんにちは」
大伯父さんはメガネを外して、リン君の方へ視線を向けた。
「ん。ああ、彼氏?」
「は、はい」
睨むような視線で、じっとリン君を見つめている。
「お好み焼き、っていう食べ物あるでしょ。好き?」
大伯父さんはリン君に聞いた。
「え、まあ……」
答えるリン君。
なんで急にお好み焼き?
「よし。じゃ行こう。おい、勉。お好み焼きのうまいさ、そういう店あんだろ」
「いきなり言われても知らないよ。マユ、お前どっか知らないか?」
私もよく知らないので、スマホで検索。
「最寄りなら、○○屋と○○があるけど」
「今度は俺がやる」
と言いだした。
大伯父さんがひっくりかえすと、お好み焼きは半分に畳まれた状態で鉄板に着地した。
「へっただねえ。陶芸家なのに全然器用じゃないじゃん」
「陶芸家関係ない。逆に器用でしょう」
「器用じゃないよ。ねえ、リン君」
「え? これはこれで食べやすいかな、なんて」
リン君の微妙な笑い顔を見るのは、なかなか新鮮だ。
「いやあ君、ホント気に入った。もうこれ丸々一個あげる。ちょっとお姉さん、同じの一つちょうだい」
「いやあ、あの……」
リン君は、いびつなクレープみたいになったお好み焼きに手をつけるべきか困っている。
「兄貴さあ、こんな失敗版じゃなくて、新しいのが来たら上手に作ればいいでしょ。これは、そうだな、父さん食べてよ」
「なんで俺なんだよ。こんな失敗したヤツを俺が食うのかよ」
「失敗版じゃねえよ。味はちゃんとしてるよ」
大伯父さんは拗ねたように言った。
喧嘩しているうちに店員さんが新しいのを持ってきてくれた。
五月 で終わり予定
春になると、新しい服が欲しくなる。気持ちが軽くなるからかな。新しい服を着て、気持ちも軽やか。光あふれる外に出よう。
「で、どうしてあんたが来るのかな?」
冷笑で対応すると、ヤツがわざとらしく驚いて、
「あれ? おっかしいなァ。気づいたらスニーカー履いて姉ちゃんの隣にいました」
「なんだコイツ。別に私、図書館に行くだけだから」
「なに借りるの? ニーチェ?」
「ニーチェってなに書いた人よ?」
「さあ、適当に言ってみた」
「あんた図書カード持ってないでしょ? 来ても意味ないから帰れば」
「本なんか読まないよ。本を読む姉ちゃんを見に行くんだよ」
「残念だなー。ペットと変態は入館禁止なんだぁ。アイスでも買って家にいれば?」
この頃免疫がついてきたせいか、私の言葉に動じなくなっている。
ヤツは明るい表情で隣を歩きつつ、
「なんか、風があったかくなってきたね。そろそろ髪型変えようかなー。髪チェン髪チェン」
「坊主にすれば? 似合うと思うよ」
「俺が頭のカタチ悪いの知ってるでしょ? きっと人気ガタ落ちだよなあ」
「別に落ちればいいよ。一旦このへんで人生の懺悔とかしな」
「さらっと怖いこと言うなァ。あっ。人気が落ちたトコを狙うってコトね」
ふんわりと心地よい春風が吹き抜けた。一陣の風、っていうらしい。この心地よさをなにかで表現したくなるような気持ちになる。私は詩なんか書かないけど、詩を書く人の気持ちが分かるような気がする。
「春風が『黙れ』って言ってるよ」
「ねえ、どうしてLINEすぐ返してくんないの? 返してくれても『は?』とかだけ返すのやめて欲しいな。傷ついちゃうから」
「いつまでついてくるの?」
ジョギングコースとなっている河川の堤防まで来てもまだついてくる。
どうしよう。図書館でラブラブ攻撃されると迷惑なんだけど。
下手に拒絶すると図書館で騒ぐかもしれない。こいつの性格、傍若無人だから。条件付きで同行を許可しようか。
「静かにできる? 騒ぐと周りに迷惑かかるんだよ」
そう聞くと、
「大丈夫だよ。俺、常識人だし」
「はいはい。常識人常識人」
「壁ドンしてあげよっか」
「もう古いよ。壁ないし」
「いい天気だねえ。あ、見て、ハート型の雲っ」
「勝手にガールズトーク始めるなっての」
「」
「俺、姉さんのこと絶対諦めないからね。姉さんにはそれだけ魅力あるんだから、ね?」
ね? じゃねえよ。
「姉に色目使うな変態弟!」
「よしっ、今決めたから。私、どんなことがあってもあんたを弟としてしか見ないようにするから!」
「ふふふ」
「なによその笑い」
「嬉しいんだよ。それって俺に惹かれてるってことじゃん?」
「んなっ!」
生意気な弟の頭を叩いてやろうかと思ったけど、手が動かせなかった。