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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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離宮

 一通りの話は済んだし、ザクト叔父上は無事、傷口もふさがったので、王宮に話を持って帰ることとなった。

「公国は仕事がはやくて助かります」

「いえ、ポーくんが頑張ってくれたからですよ。次は、テレビ電話ですね」

「僕の私情で、スズのことを調べてもらって、すみません」

 スズに憑いている妖精のことをアリスさんに調べてもらうこととなった。その間に、アリスさんからいただいた本や辞書で、僕はニッポンの言葉と文化を勉強することとなった。どこまで時間がかけられるかな?

 かなりの量の資料と本はカイトとロバートが持ってくれた。申し訳ない。

「次は、有意義な話が出来るように、僕も勉強します」

「子どもなんだから、遊びなさい」

「………」

 あえて、返事はしない。僕、離宮に幽閉されているけど、本当に扱いが酷いから。子どもみたいに遊んでたら、その日のごはんにありつけない。王太子なのに、おかしい。

 笑顔でごまかす僕を心配そうに見るアリスさん。きっと、僕を可哀想な子どもと思い込んでいるんだろうな。可哀想な子どもは、こんな敵国の前には立ちませんよ。間違えないで。

 そうして、僕は魔法で北の砦に戻り、そこから馬で離宮に戻ることとなった。離宮、いろいろと制約があって転送の魔法が使えないんだよね。

 スズは、生まれて初めての馬だから、かなりびびってた。僕の前に座って、馬の首にしがみついていた。落ちることはないけど、可愛いから、楽しかった。

 王宮の裏手につけば、ザクト叔父上と側近のスレイは王宮へ、僕とスズ、ロバート、カイトは離宮へ向かうこととなった。

 秘密の通路を通って、離宮に戻れば、なんと、珍しく、僕の母上であるアナスタシアが待ち構えていた。妖精に聞いたのだろう。

「おかえりなさい。アランは元気でしたか?」

「元気でしたよ。はい、お手紙です」

 北の砦を出る前に、アランに無理やり書いてもらった手紙を渡す。これで、部屋から出ていってくれるだろう。

 僕の予想通り、母上は手紙を受け取ると、いそいそと出ていった。僕には本当に興味がないんだな。僕もないけど。

 お互い様なので、気にせず、荷物を机に広げた。

「ポー、あの女の人、何?」

「僕の産みの母だ。僕には興味がないんだよ」

「え、お母さんなの!?」

 驚くスズ。どこを驚いているのかが、僕にはわからない。

「どうしましたか? 母上のこと、気になりますか?」

「親って、もっと子どもを抱きしめたりするものだよ」

「ああ、そういうことか」

 スズの経歴では、孤児院に居たことがあるので、普通の親子を知っているのだろう。 僕と母上の温度差に、驚いたのだ。

「僕も母上も、そういうのは興味がない。母上は、アランのことだけ。僕は……何だろう」

 しまった、興味があることって、何があるんだろう。わからない。

 スズは、なんだか、僕を可哀想な子どもみたいに見てきた。説明するのも面倒臭いので、そのままにした。そう思ってしまうのは、それが一般なんだ。僕がずれているのは、今に始まったことではない。

 ところが、カイトまで、僕を気の毒そうに見てきた。あれ? カイトは一般寄りなの?

「ポー様、荷物はこれで全てですが、今日はどうしますか?」

「カイトはもう帰って大丈夫だよ。ありがとう」

「それでは、失礼します」

 無駄なことは話さない出来た騎士は、さっさと離宮を出ていった。沈黙は大事だよね。

 いつもは僕とロバートの二人のところに、スズが増えたが、離宮は広い。僕は勝手知ったる離宮の台所に行けば、母上が気をきかせてくれたのか、食材が置かれていた。

「さて、今日のごはんを考えよう」

「え、どういうこと?」

 スズは調理もされていない食材を前に戸惑う。

「僕は、離宮に幽閉されているんだけど、原則、自給自足しないといけないんだ。そうしないと、僕は暇になるから」

 北の砦に居たほうが、人並みの生活だった。公国のとこなんか、味付けが良かったから、最高だったなー。

「私、作ろうか?」

 スズが食材を手にする。

「でも、公国の便利な道具がないよ」

「ベースキャンプでは、いつもやらされていた。竈があるから、出来るよ」

 そう言って、スズが料理を始めた。





 いい拾い物をした。本当に良かった。僕はスズの膝枕を堪能しながら、思った。

 あれから、スズが料理をしてくれたお陰で、人並みの食事が出来た。どうしよう、スズを手放せなくなった。あれだね、胃袋をつかまれちゃったよ。

 スズの扱いは、まだ、決まっていない。スズは子作り経験済みだから、本来なら、離宮に置いておけない。それ以前に、大事なことがある。

 僕はスズの膝枕が名残惜しいけど、起きた。

「ロバート、母上の所に行ってくる。スズと留守番していてくれ」

「わかりました。スズ様、公国のお菓子と本ですよ」

 スズが不安そうな顔をするので、ロバートが誤魔化すように、色々と持ってきた。でも、僕のことを心配そうに見てくる。あれだね、親子の情がない母上の所に行くのが心配なんだよね。

 でも、僕は行かないといけないので、スズを置いて、母上のところに行った。

 母上も、離宮で幽閉状態である。僕も母上も、離宮から抜け出せるのだが、あえてしないのが、母上である。母上は、王族として、離宮にいなければならないからだ。

 実は、僕も離宮から出てはいけない。だけど、母上がいるので、こっそり抜け出したのだ。

 母上の部屋にいけば、僕とは全く違う至れり尽くせりの待遇である。これ、僕も要求したい。

 母上は、アランの手紙を何度も何度も何度も読んでいるのだけど、僕が来て、不機嫌になる。アラン、母上と結婚してよ!!

「お邪魔してしまって、すみません」

「あの女はなんですか?」

 アランの手紙ではスズのことは誤魔化せていなかった。

「公国のメス猫です。僕が気に入ったので、飼いたいです。許可をください」

「公国ですって」

 ゆらりと母上の殺気があがる。予想していたけど、やっぱり大変そうだ。

「母上、スズは、公国の妖精憑きですが、虐待された可哀想な子なんです」

「でも、公国民ですよね。わかっているのですか。私の母は、公国の密偵に誘拐され、寿命を縮められたのですよ」

 お祖父様の力によって、異形へとかえられた公国の密偵たちは、お祖母様を誘拐した人たちだ。お祖母様は、目が見えない、足も不自由と、人の手がないと生きていけないか弱い人だった。それなのに、お祖父様の人質となると、密偵はお祖母様を誘拐し、酷い扱いをしたそうだ。助け出された時には、お祖母様は虫の息だったという。

 お祖母様の死に目を見た、お祖父様と母上は、公国をかなり恨んでいた。お祖父様は、王族なので、立場として飲み込んだのだろう。しかし、母上はそうではない。母上は、公国が滅びればいい、と今も思っている。

 スズが公国民である以上、許せるはずがない。

「母上、スズは猫として飼いたいのです。お願いですから、許可をください」

「人ではないと」

「はい、人ではありません。公国の猫です」

「私の前には出さないように。後は、何かありますか?」

「実は、スズは子作りの経験があります」

「お父様が許しません」

 そうなんだよね。お祖父様は、絶対だ。万が一にも、僕が子作りしちゃわないように、僕の周りの女性は全て処女で揃え、定期的に検査もしている。

 本当は、スズはまずい。かなり、慣れているし、僕と子作りしたそうに見てくる。今は僕が子どもだからいいけど、それなりの年齢になったら、そういうわけにはいかなくなるだろう。

「だから、僕は考えました」

 僕はスズを手放せない。スズから離れることはあっても、僕から離れることはない。

「僕が、子どもを作れない体になればいいんです。僕を去勢しましょう」

 しばらく、母上は呆然としていた。持っていたティーカップが傾き、中身がこぼれて、使用人や侍女たちが慌てていても、そのままだった。

 そして、ティーカップはお母様の手を離れ、床に落ちて割れた。母上は汚れた手で顔を覆った。

「誰か、お父様を連れてきて!?」

 悲鳴のような声をあげて、泣いた。

 母上が泣いたのは、初めて見たので、僕は動けなくなった。僕は何か間違いをおかしてしまったようだが、どこが間違っていたのか、その時は、よくわからなかった。

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