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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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スズの妖精

 カイトをいちいち戻すのは面倒なので、僕としばらく一緒に過ごすこととなった。ロバートと同室で過ごしているのだが、時々、外にタバコを吸いに出かけた。僕の護衛でないので、自由だ。服装も、公国側のものを着ている。服をかえれば、カイトは目立たなくなるので、きっと、適当な兵士と話して、情報収集しているのだろう。

 僕は、スズの妖精とお話していた。

『あなたは、何ですか?』

『芦屋の式神です』

 あしや、はたぶん苗字だ。王国では、苗字は珍しい。よほど古く、それなりの権力がない限り、貴族も持てないのだ。新しいところで、妖精に愛される男爵家を妖精男爵と呼ぶようになったほど、苗字は珍しい。

 ニホンゴの教科書では、苗字は珍しくないので、これが普通なのだろう。僕はメモをとるが、わかることは少ない。

 どうやら、この妖精は、血統で受け継がれているようだ。スズは、あしや家の血筋らしい。

 スズの妖精が着ている服装も一風変わっている。教科書で見られる服装とは違った。これは、アリスさんに聞いたほうがいい。男爵家のシリンに教えられた絵の描き方で、妖精の姿を簡単に描く。

「すごい! ポー、上手!!」

「見ないでください。恥ずかしい」

 スズは褒めてくれるけど、シリンには散々な評価である。僕の絵って、模写だから。

「ねえねえ、スズも描いて?」

「僕ではなく、もっと上手な人に描かせましょう」

「ポーがいい!!」

「はいはい、ぱぱっとね」

 ほんの数分で、スズを模写する。こういうのは、五分もかからない。渡すと、スズが目をキラキラさせた。

「すごい! 私だ!! 見せてくる!!!」

「え、誰に? あ、ロバート、スズについてって!!!」

 外に出ていっちゃったので、ロバートにスズの護衛をまかせた。

 僕はスズとは別行動である。妖精憑きの力を使えば、アリスさんのいる場所、わかるんだよね。単独行動はダメ、と言われちゃうけど、仕方がない。一人で部屋を出ると、誰かと話していたカイトに見つかった。

「殿下、単独はいけません。同行します」

 まさか、カイトが王国側の人間だとわからなかった公国の兵士は驚いていた。この、何にでも取り入ってしまえる才能はすごいよね。

 カイトは一度、部屋に戻り、帯剣して出てきた。

「どちらに行くのですか?」

「アリスさんの所に行きます。場所は妖精が教えてくれますから」

「便利ですね、それ」

「せっかくなので、ザクト叔父上の様子をこっそり見に行きましょう」

「大丈夫なんですか?」

 ザクト叔父上が公国側の治療を受けていることを心配するカイト。

「妖精が見張りについているので、大丈夫ですよ。今のところ、内も外も検査されて、昨日の夜にお腹をきったそうです」

「え、筒抜けじゃないですか。俺、さっき、そこの兵士に聞きましたが、殿下はどこで聞いたのですか?」

「もちろん、妖精ですよ。それにしても、カイト、情報収集が早すぎます」

「俺、いらないですね」

「妖精は、話さないこともあるので、カイトの力は必要ですよ」

 妖精は、嘘はつかないが、話さないことがある。そこの見極めが難しいのだ。

 妖精のお導きで、アリスさんのトコまで行けたのだが、会議中のところに入ってしまった。

「大変失礼しました。また、改めます」

「いえ、いいのですよ。入ってください」

 アリスさんが会議中なのに、席をすすめる。カイトは僕の後ろに黙って立った。何人かは、カイトのことがわかるようで、目をあわせないようにした。

「改めて、お礼とお詫びをお伝えします。兵士たちや密偵たちを助けてくださり、ありがとうございます。また、密偵や戦争のことは、お詫びしかありません」

 女性から言わせれば、僕はおとなしくなると思っている公国の男どもの顔がむかつく。アリスさんも、そんな扱いを受けていることを理解しているようだ。

「感謝と謝罪は、受け取りました。後で、アリスさんにはご協力をお願いしたいことがありますが、その前に、あなたがたのあくま憑きの身柄の譲渡をこの場で書類としてしたためてください」

 ちょうどよいので、スズの身柄を要求する。まだ、公国側なのは、何かと困る。

「急に言われても、まずは、名簿の確認をしなければ」

「御託はいい。名簿を持ってこい」

 命令するのになれた僕の言葉に、何人かは怒りを見せる。礼儀正しい相手には礼儀正しくするが、そうでない相手にはそれなりだ。

 兵士の何人かに命じて、大量の名簿が持ってこられた。

「人手が足りませんので、探してください」

 カイトが剣に手をかける。相手は銃という武器を持っているので、どちらが強いかわからないが、カイトの手を止める。

「こちら、入っていますよね? もし、入っていないようなら、カイトのお相手をしてもらおう」

「それで全部だ!」

 カイトの相手はいやらしい。僕は、ぜひ、一度、相手してもらいたいのに。カイトはというと、顔色一つかえない。冷たい目で、相手を見下ろす。まだまだ騎士としては現役だ。

 心配そうに僕を見るアリスさん。こんなの、ただの意地悪である。

 が、妖精憑きには、これ、逆効果なんだよね。僕は何もしていないのに、名簿が宙に浮き、勝手に開いた。それは、その場にいる面々のページだった。

「おっと失礼。妖精が悪戯しました」

 僕の後ろで妖精が笑っているが、その声が聞こえるのは、妖精憑きの僕だけだ。

 開いた本をそれぞれ見て、スズを見つけた。名簿のスズは、なんだか、死にそうな顔をしている。

「この子です。今すぐに要求します。僕の戦利品です」

 恐怖に真っ青になる面々。お前たちは公国側の領地にいるから、大丈夫なんて思っているが、それ、何の保障もないから。

 手続きは、アリスさんにも確認してもらい、無事、スズは僕のものとなった。





 アリスさんはまだ会議中なので、時間を改めて、次はザクト叔父上のところに行く。

 ザクト叔父上は、ベッドに横になって、天井を見ていた。監視の目がないところをこっそりと入る。

「ザクト叔父上、どうですか?」

「ポー、酷いっ! 俺はこんなに甥っ子に優しくしてるのに」

「ザクト叔父上、これも王族の仕事です。どうでしたか、治療は」

「今はものすごく痛い。けど、動かないといけないんだって。こんなに痛いのに、動けって、酷い」

「王国では安静だけど、公国は動くのですね。本で読んだ通りだ」

「知ってるなら、こんなことしなくても!?」

「本当は、僕が体験したかったんですが、健康だし、ケガしないし、で出来ないですから。ザクト叔父上、いいなー」

「よくないよ!!」

 叫んで、お腹をおさえて悶絶するザクト叔父上。傷、ふさがっていないから、痛いよね。可哀想。

 カイトはザクト叔父上を思いつめたように見つめる。あれ、カイトは男も女もいけるけど、ザクト叔父上が好みとか!?

「カイト、言いたいことがあるなら、言ったほうがいいよ」

 一応、上の人が許可しないと、話すに話せないよね。許可がおりたので、恐る恐るを口を開くカイト。

「ザクト様の病気ですが、あの妖精の子のアイリス様の力を使えば、簡単に治せたんじゃないか、と思ったのですが」

「………そうだね」

「ポーーーーーーーーーー!!!」

 後で、ぐーで叩かれそうだ。





 ザクト叔父上が元気なことは確認して、アリスさんの所に行った。もう、会議は終わっていて、アリスさんは女性専用のぷれはぶに居た。

「また、お邪魔します。アリスさんに会いに来ました」

「ポー!!」

 すっかり、女性隊員たちに猫可愛がりされているスズが、僕のところに飛んでくる。

「ここにいたのか。ロバート、カイトと交代だ。カイトは、スズについていてくれ」

「はっ!」

 ロバートは物騒なので、交代させた。カイトは僕の時と同じく、スズの後ろに黙って立った。そんなカイトを興味津々と見ている女性隊員たち。既婚者だけど、かっこいいから、興味あるよね。

 アリスさんの部屋は別にあり、案内された。案内された部屋は、執務室だった。

「すみません、会議では失礼なことをしてしまって」

 約束もなく行ったのだから、僕のほうが失礼だ。謝った。

 アリスさんはちょっと驚いて、笑う。

「あなたは、そこらの大人よりも、大人ですね。子どもなんだから、気にしなくていいのですよ」

「王族ですから、見本にならないと」

「それで、どういった御用ですか?」

 まだ、何か言いたいようだが、アリスさんはそれを飲み込み、僕に用件をきいた。僕はアリスさんの執務机に、模写した絵を置いた。

「こちら、スズの妖精です。簡単にしか話せていませんが、あしやという家のしきがみ、だそうです」

「これは……そうですか。ニッポンは、昔、ニンジャ、サムライ、オンミョウジがありました。ニンジャとサムライはもういませんが、オンミョウジはいるそうですよ。これは、オンミョウジが使う使い魔ですね」

「詳しいですね」

「いえいえ、映画やテレビで見ただけですよ。こういうのが一部で流行しているのです。きっと、テレビで見たほうが早いですね。準備させます」

 一枚の絵と簡単な聞き取りだけで、アリスさんは、あの妖精の正体を教えてくれた。

「あの、ニッポンの言葉は、まだ、習得出来ていないのですが」

 てれびとかえいがだけでなく、ニッポンの言葉はわからないので、僕は困った。

「あなたが話す言葉で見られますから、大丈夫ですよ」

「そうですか」

 わからないので、アリスさんを信じて、全てお任せすることにして、部屋に戻った。





 夜、アリスさんがいう通り、部屋に準備された。てれびでんわとよく似たてれびが置かれた。何かやっているが、文化水準が下の僕にはわからない。

「何を見たいですか?」

「オンミョウジというものがわかるものを。あとは、スズがやって」

 僕は指示だけして、ベッドに横になる。兵士は僕の要望にあいそうなものを選んでいるようだ。てれびの映像がどんどんとかわる。気持ち悪くなってきそう。馬車酔いのような気分の悪さを感じた。僕、何故か馬車には酔うんだよね。

 スズは兵士から何か受け取って、僕の横に座る。僕は、横になったまま、スズの膝枕を堪能した。

「えっと、使い方はね」

「スズがやればいい」

「でも、使い方」

「僕は王族だ。国の運営とかは学ばなければいけないが、それ以外は学ぶ必要がない。それの使い方は、国の運営には関係ないから、いらない。そういうものは、使用人にやらせればいい」

「う、うん、わかった」

 どこか暗い顔をするスズ。言い方が悪かったな。きっと、教えたかったんだろう。

「スズ、ほら、口づけ。今日はもう一回しよう」

「いいの?」

「はやく」

 スズは口づけですぐ機嫌がよくなる。本当は、子作りしたいんだろうな。物足りない顔をしてるけど、僕は気づかないふりをして、てれびを見た。





 一体、どんなのを選んだんだ、あの兵士は!? ものすごく長くて、困った。夜遅くなっても、終わらないんだよ。

「これ、いつまで続くの?」

「えっと、四十五話ある」

「一話何分?」

「だいたい、二十分くらい。歌とか飛ばすよ」

「あの兵士は、なんでこんなのを選んだんだ」

「子どもだから、アニメにしたんだよ。子どもはアニメが大好きだから」

「僕は絵本が大嫌いなんだ!!」

 くっそぉ、それか! オンミョウジとしきがみのことは、だいたいわかったが、子ども向けなのは苦痛だ。

「スズ、もういい。スズが見たいのを見ればいいよ」

「じゃ、続き、一緒に見よう」

「………うん」

 僕の苦行は夜明けまで続いた。

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