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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
王国からの賓客
39/56

過去による疑惑

 生きているようで、死んでいるような日々を俺は送っていた。愛する恋人と島から脱出したら、恋人は島の巫女であるマキに惨殺されたのだ。

 俺はもう見るも無残な恋人の死体を捨て、逃げた。少しでも遠くの、あんなおかしな島の力が及ばない場所へと逃げたんだ。

 右も左もわからない、というわけではない。島で一生を過ごす住人がほとんどだが、一応、教育を受けるために、そういう場所に国に行くのだ。国で教育を受けているので、島の外での生き方を皆、知っている。だけど、全て、島で生きるものなんだ。

 俺だって、最初はそのつもりだった。恋人がいて、彼女と結婚して、ずっと島で生きていくつもりだった。

「アタシの夫はラウルで決まり!!」

 それを台無しにしてくれたのは、巫女マキだ。

 マキだって、最初は島の住人の一人でしかなかった。昔から、マキは俺の後とついては、付き合ってくれ、と熱烈に言ってきたが、俺には恋人がいたので、全て拒否した。

 なのに、マキは諦めていなかった。マキは俺を手に入れる手段として、巫女となったのだ。

 あれほど、巫女になりたがらなかったマキ。巫女になれば、ずっと島に縛られる。自由がないのだ。何より、あのよくわからない力に縛られる。

 だけど、マキは俺と夫婦になるため、儀式を受け、巫女を受け継いだ。そして、俺を手に入れようとした。

 恋人はマキを恐れた。島の住人たちは全て、マキの味方だ。だから、俺は島を捨てた。

 まさか、恋人も捨てることになるとは、俺は思ってもいなかった。若かったんだ。

 一応、国での戸籍が存在する。俺はそれを使って、島からも、マキからも離れようとした。そして最後にたどり着いたのは、隠された軍部である。

 軍部は、俺の身の上を知っていた。だから、あえて、そういう所の所属となったのだ。俺は、それでも、島から、マキから逃げられるなら、かまわなかった。死ぬまで、あの島から、マキから逃げるつもりだった。

 そうして、よくわからない訓練を受け、必要なのかどうかわからない隠された軍部として息を潜めていると、突然、出動となった。

 あらゆる国籍の者たちが集められたそこは、とんでもない場所だった。死しか振り撒かない湖の向こうに、敵国がいるという。てっきり、そこを攻めるのかと見ていれば、そうではない。

 一見、湖に見えるそこは、不規則に、空高くに人を殺す化学物質を吹き出すのだ。それのせいで、湖はヘリや飛行機すら越えられない天然の要塞となっていた。

 そこで待機していれば、俺にだけ任務が与えられた。敵国から来る客人の案内だという。

 軍部に所属する者たちは、何かある。そんな奴らばかりだというのに、俺だけが選ばれたのは、何か理由があるのだろう。

 そして、行ってみれば、とても綺麗な女性が穏やかな笑顔を浮かべて、軍部の上層部のやり取りをしている姿を見ることとなった。

 マキのような力を持つという女性。そう聞いていたから、俺はマキみたいな女を想像していた。

 だけど、実際は違った。話してみれば、大人の女性としての落ち着きもあるが、力を簡単に振るったりしない。まず、最初は話し合いだという。

 隠していた美貌を俺の前に晒したが、それだけだ。

「それでは、亡くなった恋人に操をたてているのですね。それでは、仕方がありません」

「諦めるのか!?」

 巫女マキは力づくで、俺の恋人を排除してでも手に入れようとした。

 ところが、彼女は朗らかに笑って、俺と距離をとった。

 俺が驚いて声をあげるから、彼女は首を傾げる。

「諦めてはいけませんか? だって、あなたは私に振り向いてくれません。だったら、諦めるしかありません」

「あなたは、とても綺麗な女性だ。あなたに好意を向けられれば、誰だって、夢中になる。諦める必要なんてないだろう」

「私の始まりは、諦めです。死ぬために教育され、育てられました。まず、あなたに出会うことすらない役目を担っていました。本来は、子も残さず、結婚もせず、私は死んで終わりの存在でした」

「けど、生きてる」

「亡くなった夫が、私を救ってくれました。夫のお陰で、私は今も生きています」

 笑顔で平然と言い切る彼女。そこには、清々しいほどのものしかない。巫女マキが持つ、気持ち悪い何かは欠片ほども感じなかった。

 彼女は全てをあるがままに受け入れ、力ではなく対話で物事を進めようとした。とても綺麗な女性で、俺だって、一目で心が奪われた。言葉の上では、死んだ恋人を見捨てた負い目もあり、彼女の好意を拒絶してしまったのだ。

 詳しいことは話せない。だから、当たり障りのない身の上を俺は彼女に話した。

「まあ、海がある所で暮らしていたのですか!! 海、いいですね。一度、海に行ってみたいです」

「行ったことがないのか?」

「あります。ですが、行っただけですよ。そこで心穏やかに過ごしたことがありません。私には、人として受けられる平凡な幸福はありませんでしたから」

「元女帝だって聞いた」

「女帝が好き勝手していたら、国は滅んでしまいますよ。きちんと、平等に、その国の法律に従って、事を進めなければなりません。それでも、どうしようもない時は、皇権を発動します。時には、暴君でなければ、国を守れないことがあります」

 ただ、人外の力を振り回しているような、そんな人ではなかった。むしろ、そんな力を使わず、国を治めていたのだ。

 口では何とでも言える。心はどんどんと惹かれるが、人外の力を持つ彼女に、俺は巫女マキの姿を重ねた。本性をいつかは見ることになるだろう、と。

 そして、とうとう、彼女は帝国に悪意を持つ者たちによって、酷い仕打ちをうけた。暴力ではない。言葉で責められていた。不当なことをしている、と俺が訴えても、上司は無視した。

 俺は彼女がいう通り、順序を守った。彼女と結婚するために、上司に掛け合い、どうにかしようとした。そうしている、と彼女に話せば、とても喜んだ。

 だけど、実際は、誰も本気に受けていなかった。上司は口ではいうが、手続きをとることすらしていなかった。

 さらに、俺が絶望するように、多くの上官たちと言葉の上でやりあっている光景を見せた。軍部としては、俺が彼女を裏切って、彼女の監視役にしたかったのだろう。

 彼女は言葉の上で言い負かしていたにすぎない。実際に、拘束された俺が表に出されるまで、彼女は人外の力を一切、振るわなかった。

 なのに、軍部は、俺ごと、彼女を殺そうとしたのだ。

 俺は死なない。巫女マキの力が俺を守っている。実際、過去に、そういうことが幾度となくあった。だから、俺は無事だ。だけど、彼女は無事ではない。

 こういう事には馴れているのだろう。彼女はとても落ち着いていた。むしろ、軍部を嘲笑っていた。彼女から見たら、俺なんて、ガキだ。本当に、そう思い知らされた。






 彼女を人質にとられ、だけど、俺は大人しく従ったりしない。人質を生かしているはずがないんだ。俺の恋人を殺したのは、巫女マキだ。

 結局、俺は力づくでマキの元に連れて行かれた。

 マキは狂った笑顔を浮かべて、手足の自由がない俺を見下ろす。

「今度は、逃げられないように、手足を斬り落としてあげる。準備して」

 ぞっとした。まさか、そこまでするなんて、俺は想像すらしていなかった。

 どうにかならないか、と島の住人達を見上げる。誰も、俺のことは見捨てていた。俺がいなくなったことで、島は大変なことになった、という話だ。どう大変だったのか、俺はまだ聞かされていない。

 ただ、皆、俺が両腕両足を失うことは大歓迎のようだ。道具を持ってきて、無駄に抵抗して暴れる俺の両腕両足をおさえた。

「マキ、てめぇ、絶対に殺してやる!!」

「もう、舌も斬り落として。ライルは、アタシのものなんだから」

 もう、容赦がない。

 どうして、こんな恐ろしい所を思い浮かべたんだ!? 彼女に乞われて、海を思い浮かべれば、捨てた故郷だ。海といったって、いっぱい、思い浮かべられた。記憶を上書きするように、様々な海に行ったんだ。

 島の外では、文化人らしく、皆、話し合いで解決していた。ところが、島では今も法律なんて届かず、巫女の言いなりだ。それが当然と、皆、思って、普通に受け入れているのだ。

 見れば、俺の幼馴染みだっている。俺の腕をおさえこんで、恨みをこめて俺を見た。俺が逃げたことで、こいつも、大変なことになったんだろう。

 皆、恨みしかない。そんな所にいれば、俺だって、もう、諦めるしかない。

 きっと、彼女はこんな気持ちだったんだろう。周りは敵ばかりで、諦めるしかなかった。そんな所に、ただ一人の味方が、亡くなった夫だ。そりゃ、結婚して、子まで作るだろう。亡くなった夫のことを話す時だけ、彼女は愛情をこめて顔を綻ばせていた。

 そう、彼女は俺に好意を見せていて、そうじゃない。俺を通して、別のものを見ていた。だから、俺はどうしても、彼女を疑ってしまったのだ。

 そして、罰が当たった。彼女を疑ったばかりに、俺は今、両腕両足を失おうとしている。

 切れ味がよくなさそうな斧だ。一度では、斬り落とせないだろう。

「い、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだ!!」

 簡単に諦められるはずがない。恐怖に、俺は泣いて叫んだ。こんなの、無理だ!!

「はやく!!」

 子どもように叫んで要求するマキ。本当に、俺のことが好きだったら、こんなことしない!!

 巫女マキの命令は絶対だ。一番、腕も力もある島の男が、斧を振り上げた。

「もう、死ねると言ったのに、痛いだけで死ねなかったじゃないですか!!」

 そこに、彼女の声が響き渡った。

 それでも、斧を振り下ろすのは止まらない。俺は彼女の叫びを聞きながら、恐怖にもよおした。

 ところが、斧は地面に突き刺さるだけだ。確かに振り下ろしたというのに、見当違いの地面を抉った。

 それは、斧を持つ男が一番、驚いていた。

「ちょっと、どうして、あの女が生きているのよ!?」

 そんなことよりも、マキは彼女が生きていることに怒った。

 島の住人たちは、真っ青になって、互いに顔を見合わせる。やはり、彼女は殺されるような目にあったのだ。

 だけど、彼女は全身、ずぶにれで、あちこち、血で汚れながら、歩いてやってきた。

「そ、そんな、生きてなんか」

「死ねると言うから、落ちてあげたというのに、嘘つき!! もう、リリィも公国に行ったら溶けて死ぬと言ったのに、死ななかったし。あんな崖から落とされたって、荒波のせいで、助かってしまいましたよ!!!」

「ば、バカな」

「これも、生きよという、神と妖精、聖域の導きですね。その試練、粛々と受け止めましょう」

 子どものように叫んだかと思えば、すぐに聖職者のように、彼女は祈りの姿勢を見せて落ち着いた。

 呆然となる島の住人たち。彼女を化け物のように見た。実際、そうなのだ。

「服も汚れてしまいました。これ、お気に入りなんですよ」

 彼女がちょっと手を振っただけで、着ていた服は乾き、血の汚れすら消えてなくなる。

 ここにきて、皆、彼女がただの人ではないことに気づいた。巫女マキと同じ、化け物なのだ。

 彼女は両腕両足を拘束される俺の側にやってきた。斧を持つ男に笑顔を向ける。

「どうか、ライルを五体満足で返してください」

「こいつのせいで、俺たちは」

「それもまた、皆さんが選んだ生き方です。この島を捨てる選択だってありました。それをせず、島を守る何かに縋ったのです」

「ライルが逃げたことで、たくさんの人が死んだんだ」

「人はいつか死にます。理不尽に、病気で死にます。事故で死ぬこともあります。寿命で死ぬことは、実は、珍しいことですよ。その寿命だって、神が定めたものです。神は不平等です。全ての人に平等な寿命を与えません。寿命というものは皆、違います。それは、神の気まぐれです。平等なのは、誰の元にも必ず死が訪れるということだけです」

「ライルが逃げなければ、今も生きていた」

「人のせいにするのは楽ですね。いつまでも、そう言っていなさい。あなた方は何をしましたか? ここで、ライルを傷つければ、死んだ者は戻ってきますか? 死んだら終わりです。死ぬまでに、何かをすることが、大事です。それで失敗しても、後悔だけはしないように、最後までやってください」

「そうか」

 狂った笑みを浮かべて、男はまた、斧を振り上げた。

 だけど、斧はまた、見当違いな地面を抉る。どうしても、俺の腕を斬り落とさない。

「無駄です。ライルを傷つけることは、あなたには出来ません。あなたがたも、ライルを離してください。彼は私のものです。彼は、私に与えられた神の奇跡です」

「ライルはアタシのものだ!!」

 そこに、怒りに震える巫女マキがやってきた。マキは両手で彼女を押した。

 砂浜では簡単に転んだ彼女だが、ここでは、転びもしない。それどころか、マキの腕をつかむなり、捻り上げたのだ。

「私はいついかなる時でも、対話で解決を心がけています。私は化け物じみた力があります。それを行使してしまったら、本当に解決にならないからです。だから、こうやって、話し合いをします。それが優秀な為政者というものです」

「このぉ」

 暴力でかなわないとわかると、マキは人外の力を解き放つ。途端、どんと彼女は吹き飛ばされた。

「お前も、ぐちゃぐちゃにしてやる」

「いたたた。もう、どいつもこいつも、私のことを敬わない。年長者は敬うものですよ」

 かなり強い力で叩きつけられたというのに、彼女はちょっと痛がるだけで、すぐに立ち上がった。それどころか、服に着いた汚れを払う余裕まで見せた。

「この、しぶとい女」

「うーん、どうしましょうか」

 マキは彼女を睨んでいる。だけど、彼女は別の何かを見ていた。マキの後ろをじっと見て、困ったように笑う。

「ここでは、私は部外者です。出来れば、穏便に事をすませたいのですが」

「わけがわからない事言うな!!」

「お前に言っていません。お前に縛り付けられている物と話しているのですよ。大人しくしていなさい」

 彼女がそう言った途端、マキは見えない何かに抑え込まれるように地面に膝をつかされた。マキがどれほど暴れても、叫んでも、マキは立てない。そんなマキの横を彼女は通り過ぎ、真っ暗な向こうを見上げる。

「そうですか、一族に、契約で縛られてしまっているのですね。離れたいですか? そうですよね。ですが、こういうものは文化です。粛々と受け止めるものですよ」

 見えない何かと会話する彼女は不気味だ。それを見て、島の住人たちは、違う恐怖を抱いた。

 マキは、怒らせなければ、島に平穏をもたらしてくれる。だから、おだてればいいのだ。

 しかし、彼女はマキをおさえこむ以上の化け物だ。しかも、島を守る何かと朗らかに対話しているのだ。

 彼女は溜息をつき、マキの元に戻っていく。

「どれどれ、どんな契約紋かな?」

 なんと、動けないマキの服を彼女は引っぺがしたのだ。

 一見、綺麗な肌だ。傷一つないマキ。だけど、彼女がマキに触れると、マキの体に何やら模様が浮かんだ。

「まあ、背中だけでなく、両腕両足にまで契約紋を施すなんて。でも、特殊な炭でやるから、穏便ですね。帝国では、焼き鏝ですよ。あれ、物凄く痛くて苦しいと、聞いています」

「こ、このぉ」

 羞恥で真っ赤になるマキ。どうにか抵抗しようとするも、マキは動くことすら出来ない。されるがままである。

「この炭の成分を教えてください。帝国で実践してみせます」

「教えるわけがないだろう!!」

「いいですよ。お前の屋敷を家探しすればいいだけですから。現物さえ見つければ、再現なんて簡単です」

「なっ」

「知ってますか。力が強い妖精憑きであれば、この契約紋、消してしまえるのですよ。どれから消してやろうかしら」

「やめろっ!!」

「冗談です。ここでは、私は客人です。あなたがたの文化を壊すようなことはしません」

 からかっただけである。完全に、マキを子ども扱いしていた。

 マキの体を見て、触って、それで満足した彼女は、当初の目的を思い出したのか、俺の元に戻ってkちあ。

 俺は相変わらず拘束されていたが、彼女が側にまで来ると、島の住人たちは離れていった。

 残ったのは、下半身を恐怖で汚した俺だ。いい年齢の大人だというのに、こんな羞恥を彼女の前に晒すこととなるとは、目も合わせられない。

「お互い、酷い目にあいましたね。もう、私のことは嫌いになりましたか?」

「どこに、嫌う要素がある? 君は、とても素晴らしい女性だ」

 マキのように人外の力を持っているが、それを除く全ては、マキとは正反対だ。

 マキは力を使って、全てのことを思い通りにしようとする暴君だ。

 彼女は、化け物じみた力を持っているが、それを行使するのは最後だ。ギリギリまで対話で解決しようと努力する、素晴らしい女性だ。

「むしろ、あなたに俺が好かれる要素が思い当たらない」

 俺のほうが嫌われてもおかしくないのだ。

 近づけば、俺は臭いだろう。なのに、彼女は俺の前で膝をつき、正面から抱きついてきた。

「あなたは、十分、魅力的ですよ」

「な、離れて!! 俺、今、臭いから」

「そんなこと気にしなくていいのに。私なんて、骨まで溶けるほどの汚物になったことがあります。それでも、抱きしめてくれました。だから、私はどんな風になっても、こうやって、抱きしめると決めています」

 それは、彼女の亡き夫のことだろう。

 聞けば聞くほど、思い知る。俺は、彼女の亡き夫には永遠い勝てないな、と。

「あなたは、自分の魅力を欠片ほどもわかっていませんね。あ、大事なことをしなければなりません。ほら、立って。汚れはほら、これで綺麗ですよ」

 何をしたのか、俺の体は服ごと、綺麗になっていた。下半身の気持ち悪さは綺麗になくなっていた。

 彼女は俺の腕を引っ張って立たせる。そして、彼女に恐怖する島の住人たちの元へと歩いていく。

 逃げれば、何をされるかわからない、と思っている島の住人たちは、大人しく立っていた。そこを彼女は俺の腕をつかんで歩いていく。

「いました。ライルのお父様、お母様、私とライルの結婚を祝福してください!!」

 それは、誰も予想だにしていない事だった。

 息子を恨み、見捨てた両親。そんな両親に、彼女は笑顔でいうのだ。言われた両親は戸惑った。

 周囲の空気は唖然としている。とんでもない化け物である彼女は、朗らかに笑って、両親からの返事を待っている。

「いや、今更、そんなこと、お願いしなくても」

 俺は心底、そう思っている。両親の許可なんて必要ないだろう。

「でも、家族になるのですよ。ライルの親兄弟とは、仲良くしたいです。あなたをこんな立派で魅力的な男性に育ててくれたのですよ。せっかくなので、子育てのコツを教えてもらいたいです。私は子どもを六人も育てましたが、亡き夫のようにはなりませんでしたね。きっと、何かコツがあるはずです。次は、ラウルのような男の子に育てたいです」

「ふざけるな!!」

 彼女の化け物じみた力が緩んだのだろう。動けるようになった巫女マキが彼女につかみかかった。

 だけど、彼女は体術でも上だった。マキの首根っこを掴むなり、地面にマキの顔を押し付けたのだ。

「お前の腐った根性を叩き直すことは、遅すぎます。だから、お前には、死ぬまで続く罰を与えましょう」

 彼女はどこからか鉄で出来た拘束具を取り出し、それをマキの首に装着した。

「いやぁああああああー-----!!!!」

 途端、マキは悲鳴をあげて、蹲った。

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