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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
妖精のお茶会
33/56

リリィの足跡-シャデラン-

 資料にない名前が出てきた。シャデランとは、と貴族名鑑を思い出す。うーん、思い出せない。

 いつまでも、王宮にいるのもあれなので、移動したいのだが、シャデランのことが気になった。

「リリィが学生時代は貴族といえども、今は平民かもしれませんね」

「それはないでしょう。リスキス公爵家は特別な血筋です。王家の子が貴族となるために作られた貴族です。あそこは、第二の王族なんですよ。次男といえども、扱いは王族に近い。うーん、こういう時はお祖父様がいれば、ぱっと情報が出てくるのですけどね。もっと昔の資料も読み込んでおけば良かった」

「そういう時は、わかる人間に聞けばいいでしょう。ほら、国王がいますよ」

「貴族は多いんですよ。簡単にわかるかな?」

 アランの提案に、しぶしぶ、乗ってみた。さすがにゾロゾロと連れていくわけにもいかないので、僕とロバートだけで執務室に行った。

「お久しぶりです、アインズ叔父上」

 ノックして、ぱっと入った。アインズ叔父上は、ちょっと休憩中だった。僕が来て、驚いている。

「アナスタシアからは聞いていたけど、私に何か用でもあるのかな?」

 さすが国王、ちょとやそっとでは動じないし、威厳もある。

「聞きたいことがあります。シャデランという貴族をご存知ですか?」

「………なんだ、叔父上から聞いたのか」

「いえ、そういうわけではありません。今、妖精憑きリリィのことを調べていまして」

「王国には、暗部は二つある。一つは王族が抱える暗部だが、それは勝手に叔父上が作ったものだ。もう一つはもともと王国にある暗部。その王国にある暗部の統括がシャデランだ」

「会いたいのですが、出来ますか?」

 どうも、シャデランのことをアインズ叔父上は警戒している。接触したくなさそうだ。王国の暗部なのに、どうしてだろう。

「なるほどな、妖精憑きリリィ関係か。しかし、難しいだろう。シャデランは、王族を毛嫌いしている。むしろ、王族全てを殺してやりたい、とすら思っている」

「リリィに酷いことをしたのが、王族だからですね」

「聞いたのか。そうだ。シャデランは私が国王になった時に、はっきり言ったよ。万が一、間違った王になったら殺してやる、と。いくらポーでも、シャデラン相手は難しいだろう。やめておいたほうがいい」

「出来ればでいいので、お願いしてください。そうですね、妖精がリリィを呼んでいる、と言えば、食いついてくれるでしょう」

 未だにリリィのことを愛している、なんてサウスがいうのだ。きっと、リリィ案件であれば、向こうからやってきてくれるだろう。

 どういう手段で連絡をとっているかは、今の僕にはわからない。僕は面会で使った部屋で待っていると言って、部屋に戻った。

 部屋に戻れば、なんか、サイゼルとヒアートが、アランに言われて何かやっている。あれだな、いくつの魔法が同時に使えるか、確かめられてるんだな。

「アラン、どうですか、この二人は」

「まあ、及第点ですね。四属性です」

「筆頭魔法使いは四属性以上でしたね。じゃあ、いいじゃないですか」

「ポーは五属性ですよ」

「それは、アランに鍛えられて、一個上がったんです。何もしないで四属性なら、いいじゃないですか」

「きちんと訓練をすれば、五属性以上です。日常的に魔法を使うようにしないさ。手は使うな」

 あ、師匠モードに入った。僕はそーとアランから離れる。こうなると、アランは怖いんだ。

 そうして、僕は傍観者を決め込んでいると、ドアをノックされる。

 許可をおろしたら、女官が入ってきた。一枚の紙切れを僕に渡す。


 リリィの墓で待つ


 たったそれだけの文だ。どうやら、シャデランは会ってくれるようだ。

「これ、すぐ行ったほうがいいですね。移動は聖域を使っての、徒歩になりますが、大丈夫ですか?」

 修行させられているサイゼルとヒアートは、集中力が切れて、お茶をこばしてしまう。しかし、そこはアランが上手にこぼさないように操作して、机に戻した。

「帝国に戻ったら、日常的にやってください」

 ダメなんだね。笑顔がないアランに、サイゼルとヒアートは震えあがった。





 王都の聖域を使って山の聖域に行き、そこからは徒歩だ。

「しかし、なかなか悩む文面ですね。リリィの墓って、実際はないのに」

 リリィは村人に殺され、死体を隠すために、そこら辺に埋められた。墓石すらない。エリィが見つかった時に、一応、リリィが埋められた場所を掘り起こしたが、骨しかなかったという。その骨もリリィのものかどうかわからないので、扱いに困ったらしい。

 その後、どうしたのか、資料には書かれていない。埋めなおしたのか、それとも、きちんと男爵領で墓を作ったのか。

 歩くといっても、それほど遠いわけではない。徒歩半日くらいだ。山の聖域一体は、昔、犯罪者の流刑地だったため、扱いが酷かった。リリィが生きていた当時も国からの支援も届かないため、何かあるとすぐ犯罪に走った。

 それも、リリィの娘エリィが領主となってからは、実りの面では恵まれるようになり、国もエリィを放置出来ないため、それなりに支援をしているという。

 それでも、小さな村があちこちと点在している。街にならないのは、よそ者が怖いからだ。

 そうして、徒歩でリリィが殺された村に到着する。リリィの殺害が表沙汰にされるも、エリィの願いにより、罰は軽いものとなったという。あの妖精憑きリリィを手にかけてしまった村だが、どこにでもある村だった。

 見ない人間は、山のほうでは、やっぱり警戒してくる。しかし、僕は黙って歩くわけにはいかなかった。時間が惜しい。

「すみません、リリィのお墓はどちらにありますか?」

「………あっちだ」

 いかついお爺さんに聞けば、ある方向を指して教えてくれた。リリィと聞いて、目を逸らした。

 お礼を言って、お爺さんがさした先に行く。ある一軒家だ。その裏だろう。だいたい、後ろ暗いものは、陰になるところに隠すものだ。

 裏に行けば、墓石なんてない、ただの地面だ。そこに、隻眼の男が立っていた。じっと、地面を見おろしている。

「初めまして、シャデラン。僕はポーです」

「サウスから聞いてる。リリィのことを調べているんだってな。何が聞きたい」

「サウスをご存知ですか?」

「リリィには許したが、俺は許していない。ダンだって、許していない」

 シャデランはじっと地面を見下ろしている。僕には目も向けてくれない。

「リリィがどういう人か、知りたくて、聞きまわっています」

「サウスが話した通りだ。人柄は間違いない」

「シャデランとリリィは、どういう関係ですか?」

 質問を変えたら、やっと、シャデランは僕を見た。値踏みするように見てくる。

「俺が公爵家次男だった頃、リリィに結婚を申し込んだ。しかし、ダンがいるからと、断られた。その程度だ」

「もっと詳しく教えてください。僕は、もっと詳しく、リリィという人を知る必要があります」

「………リリィは妖精だ。お前は妖精憑きだから、妖精のことは詳しいだろう」

「人が想像する妖精と、実際の妖精は違います。妖精は、実は恐ろしいんですよ」

「そうだろうな。リリィの所業は知ってる。男爵家の地下牢も見た。男爵には会ったか?」

「会ったことがあります。本当にいい人ですよね」

「リリィもいい人だ。それが全てだ」

「いい人にも、色々とありますよ。人がいい、とか、優しい、とか」

 僕はじっとシャデランを見る。シャデランは僕が口撃を緩めないので、苦笑する。

「さすが、キリトの孫だ。わかった、降参だ。座って話したい」

「公国には、便利なものがありますよ」

 僕はピクニックシートを見せた。さすがにリリィのお墓かもしれない所には広げられないので、場所を移動してもらった。

 ちょっと日陰のところにピクニックシートを広げて、それぞれ、適当に座る。僕は、シャデランの正面に座った。

「どこから話せばいい?」

「リリィと出会ってから? 幼い頃に出会ったというわけではないですよね」

「リリィを初めて見たのは、公爵邸での行儀見習いに来た時だ。教えることが多いから、だいたい、一週間、泊りがけで行われるんだが、リリィはその日に帰った。リリィには教えるところがなかったんだ。母が男爵家の令嬢たちに聞けば、領地で遊び半分で毎日、行儀見習いごっこをしていたそうだ。それで、リリィは完璧になっていた。母はそれはそれはリリィのことを気に入って、俺の妻に、と男爵に打診した。俺も、遠目で見たリリィに一目惚れしていたので、喜んだ。ところが、男爵家からは断りの手紙が戻ってきた。それも、リリィからだ。どうしても諦めきれなくて、俺はリリィの住む男爵領に行った。そして、公爵邸では完璧だった淑女のリリィが、男爵領では天真爛漫に動いている様に、さらに惚れこんだ。そのリリィの側には、あのにっくきダンがぴったりくっついていた。リリィは人目なんて気にせず、ダンに抱きつき、あろうことか、頬にキスまでしていた!」

 うわ、シャデランの怒りのボルテージがあがっている。最初のクールなイメージがどんどんと崩れていってるよ。恋って、恐ろしいね。

 今でも思い出して、怒りを覚える光景だったのだろう。語り口調が熱い。

「そして、俺はリリィに内緒で、ダンに決闘を申し込んだ。俺は当時、騎士団所属で、それなりの腕前だった。対して、ダンはただの使用人だ。田舎の害獣駆除程度の仕事しかしていないと聞いていた。勝てる自信があった。

 しかし、俺は負けた。ダンはナイフ一本で、熊をも倒す化け物だった!! 今だったら俺でも倒せるが、当時は熊は倒せなかった!!」

「そんな腕前なんですか。世の中にはすごい人がいるんですね」

 思わず、じーと、ロバートを見てしまう。ダンと同じ妖精の子孫のロバートの腕前は知らない。僕は妖精憑きなので、妖精の力で全て解決してしまうから、ロバートを活躍させることはない。一度、実力をしっかり測ったほうがいいのかもしれない。

「負けて、俺はリリィとの結婚は諦めたが、リリィを見守ることにした。リリィは一日で行儀見習いは終了してしまったが、母が気に入ったので、社交にも連れ出していた。俺は他所の令息どもがリリィに手を出させないために、リリィのエスコートをした。母には、今でも感謝している」

「良かったですね」

 良い思い出だったんだろう。とても和やかな笑顔まで浮かべている。

「リリィが学校に通うようになって、リリィがイジメにあっている話を随分と経ってから聞かされた。まさか、学校でそんな目に遭っているとは知らず、俺はリリィに直接、助けると言った。しかし、リリィはあの完璧な淑女の顔と態度で、断ってきた。たかが伯爵令嬢、と俺は侮っていた。その後ろに、王族が関わっていると知って、俺は攻撃の手段を変えた。

 俺は読み違いをしていた。リリィはどうせ、学校を辞めて、ダンと結婚するだろう、そう思っていた。リリィはダンに夢中だ。ダンだって、リリィしか見ていない。だから、俺は学校ではなく、王族を排除しようと時間をかけることにした。そうしているうちに、男爵は爵位返上をして、リスキス公爵が保護した、と聞いた時、俺は驚いた。リリィは、学校を卒業するまで頑張っていたんだ。頑張って、あの伯爵令嬢と、王族に平民に落とされた。すぐに公爵家に行ったが、一足遅かった。リリィはダンを残して、いなくなっていた。

 ダンはすぐにリリィを追いかけた。俺も追いかけたかったから、待てと願った。しかし、ダンは俺のことを足手まといだと言った。腹が立って、口論となり、学校でのことをダンに話せば、ダンは怒りに震えていた。何か口走っていたが、今でも何を話していたかはわからない。口論は武器のやり取りとなった。ダンは容赦なく、俺の目を奪った」

 それで、シャデランは隻眼なのか。今でこそ、強者のシャデランだが、当時は騎士団の一団員だ。話を聞く限り、ダンは相当の腕前である。

 だからといって、目を潰す必要はあったのだろうか?

「ダンは、俺を公爵家から動けなくするために、わざと目を潰したんだ。足や腕だけでは、俺は立ち止まらない。さすがに片目を潰されると、馬にも乗れない」

 僕が口にしなくても、シャデランは答えてくれた。

「それで最後だ。リリィにもダンにも、それから会っていない。リリィとダンが随分前に死んだ、娘のエリィが見つかった、この二つの報告を聞いて、終了だ」

「王族はどうしたのですか?」

 ここで、疑問が残る。伯爵令嬢はリリィの呪いを受けた。王族はどうなったのか、サウスは語らなかった。たぶん、語れない何かがあったのだろう。

 シャデランは壮絶な笑みを浮かべた。王族をどうしたのか、思い出しているのだろう。

「クソみたいな王族をどうにかするのは、なかなか骨が折れた。最初は、順序よく、決闘を申し込んだ。もちろん、王族は受けない。当時の国王の妹が王族の母親だった。国王の妹は王族を可愛がっていた。それをどうにかするために、俺は時期を選んだ。

 公国との戦争だよ。

 公国は定期的に戦争を吹っ掛けてくる。俺はそのタイミングで、騎士団を掌握し、クーデターを起こした。もちろん、リスキス公爵も参戦だ」

 記録に残さないはずだ。これは、王族の汚点だ。

 シャデランはかなり頭がきれる男だ。時間をかけて、リリィを貶めた王族を抹殺するために、国まで巻き込んだ。

「戦争宣言時は、国王は代替わりして、息子の若造だった。激怒して、俺を反逆罪で処刑してやる、なんて言ってきた。笑ったな。軍部は全て、俺の味方だ。俺は言ってやった。王国を公国に売ってやろうか、と。いくら帝国の魔法使いが味方だといっても、軍部が動かなければ、戦争なんて出来ない。かの戦争を終わらせたというアラリーラはもう死んでたからな!

 あの王族、ともかくやらかしが多かった。恨みも相当、買ってた。国王は、戦争のために、国王にとっては叔母と王族を俺に差し出した。俺は、きちんと決闘して、王族の手と足を斬り落とし、平民に落としてやった。邪魔をした国王の叔母は、娼館に行ってもらった。王族な、リリィが身を売るのを待ってたんだ。リリィが娼館に行ったら、すぐに知らせるようにふれまで出していやがった。だから、国王の叔母は娼館に放り込んだ。あいつらがどうなったか、俺は知らん」

「では、王族はリリィの呪いを受けなかったのですね」

「ああ。だから、王族を貶めたのは、俺の私情だ。いいか、俺が暗部になったのは、お前ら王族がクソみたいなことをしてないか、見張るためだ。もう二度と、リリィのようなことが起こらないように、俺自らが見張ってる。覚えておくんだな」

 だから、国王でさえ、シャデランには逆らえない。一目置くしかないんだ。

「それで、これからどうする。お前は、俺をおびき寄せるためだけに、リリィの名を出した。何かあるのだろう」

「男爵領だけではないですね。ここでも、妖精がリリィを呼んでいます。一体、何が起きているのか、調べています」

「そうか。じゃあ、いい情報を教えてやる。リリィの娘、エリィはすぐそこの山小屋に入って、いなくなった。本当に、忽然とだと報告を受けている」

「どうして知っているんですか!?」

「リリィの娘をそのまま放置するわけがないだろう。リリィの娘が、無事であるように、俺は暗部を見張りにつけた。ずっとだ」

 すごいなー。リリィへの愛情が凄まじくて、娘にまで、監視の目を置くなんて。

 私情で復讐して、私情で国の暗部を使う。これがリリィではなく、国のためだったら、立派な人なんだけどな。

「それで、待ち合わせ場所がここなんですね」

 だから、シャデランは、わざわざリリィの墓らしき場所を指定したのだ。シャデランは、リリィの娘エリィの行方を探すため、僕たちの力が必要となったのだ。

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