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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
妖精のお茶会
32/56

リリィの足跡-騎士サウス-

 最初に会うのは、王都で騎士をしているサウスだ。リリィに無体なことをして、廃嫡され、平民となるも、何故か妖精男爵の元で鍛えられ、なかなか優秀な成績で騎士となった。なんと、戦争にも行っている。

 リリィと同い年なので、かなりの高齢である。もう、引退してもよいのだが、サウスは何かと詳しいので、騎士団の書類係りで留まっていた。

 僕に呼ばれたサウスは、部屋の中にいる一同に驚く。なにせ、僕以外は、何者なのかわからない面々だ。

「初めまして、ポーです。ここでは、ただのポーと呼んでください」

「はい、わかりました。僕は、騎士団書類係りサウスです」

 なんとなく、状況を読めたのだろう。サウスは、暗部への誘いもあったのだが、何故か途中で消えてしまった。状況判断をしっかり出来るので、惜しい人材だったのに、どうしてかな?

「お忙しいところ、すみません。実は、元男爵令嬢のリリィの話を聞きたくて、お呼びしました」

「そうでしょうね。馴れています。どこから話せばいいですか? リリィと過ごしたのは、男爵領でお世話になったといっても、長期休みの時で、僕は遠くから見ていたくらいです。学校でも、遠くから見ていたくらいですね。リリィのこと、それほど詳しいわけではありません」

「感じたままのことを話してください。資料だけではわからないことがあります」

 サウスは一度、口を閉じ、考えた。頭の中で、どこから話そうか、と整理しているのだろう。

 しばらくして、サウスは口を開いた。

「ご存知の通り、僕は伯爵令嬢に命じられ、リリィを傷物にした貴族令息の一人です。リリィは、僕たちの行為に泣き、男爵領に帰っていきました。それからしばらくして、僕たちの体は異形へと変化していきました。とても緩やかに変化していたので、最初は気づきませんでした。きっと膿んだんだろう、と斬り落としたりしましたが、同じようになっていき、さすがに恐ろしくなり、家に逃げました。原因と考えられるのは、リリィのことだけです。高位貴族たちがリリィの実家である男爵家に苦情を言いに行ったのですが、戻る時は真っ青でした。僕の所にまで謝罪をしよう、と親子で説得に来て、僕は父親に事と次第を説明し、殴られました。それからすぐ、リリィの実家に行き、心の底から謝罪し、許されてすぐ、体は元に戻りました。元に戻ったので、他の貴族は帰ったのですが、僕はその場で廃嫡となりました。そこを救ってくれたのが、男爵とリリィです。男爵は、ちょっと迷惑そうでしたが、リリィが可哀想といって、引き取ってくれました。それから二年ほど、男爵領で平民としての生活を叩き込まれ、そのまま男爵領で一生過ごすつもりでした。

 二年目の夏の長期休暇の時に、リリィが僕を呼びました。リリィは、騎士団の募集の紙を俺に見せました。騎士は諦めていたのに、リリィが僕の夢を揺り起こしました。その後すぐ、男爵にお願いしたところ、旅費やらなにやら、すでに用意されていて、男爵領を追い出されました」

 そこで、言葉を切るサウス。ここでサウスの過去話は終了だろう。リリィの情報はここまでなのは、資料の通りだ。

「リリィは、どんな女性でしたか?」

 資料を読んでも、つかみどころがない女性だ。何故か? 相手によって、見方が変わってくるからだ。

 サウスは、しばらく悩んでいた。僕が資料を読んでいると予想して、どう話せばいいか、迷っているのだろう。

「正直に言ってください。資料とかは気にしないでいいですよ。時が経てば、見方が変わってくるものです」

「そう、ですね。確かに、昔と今では、リリィへの見方は変わっています」

 きっと、サウスは、リリィのことを何度も何度も思い返しているのだろう。未だにサウスは独身だ。過去の一回の過ちが許せなくて、贖罪の日々を送っているようなものだ。

「リリィは、学校では、素晴らしい貴族令嬢でした。後で聞いたのですが、リスキス公爵夫人から教育を受けていたお陰でしょう。学校では、マナーも身だしなみも所作も完璧でした。教師たちも、リリィに教えることはない、と口を揃えていいました。勉強もそうです。教科書がなくても、空で言えてしまうほどでした。完璧な上、あの美貌です。男爵家といえども、引く手あまたでした。

 ところが、男爵領で見るリリィはがらりと変わりました。一人では何もできないお転婆で、家や領地を足が出るのもかまわず走って、大きな声も出して、笑っていました。淑女教育を受けたというのに、領地では、ダンにべったりと離れなくて、いつもダンの邪魔をしていました。邪魔だろう、と注意したら、手伝っているの、と返されて、あれがリリィの手伝いなんだ、と笑うしかありませんでした」

 思い出して、領地にいるリリィのことを語る時は、サウスは穏やかに笑った。良い思い出だったのだろう。

 そう、リリィは学校では、完璧な淑女だという証言ばかりだ。ところが、領地では、そうではない。サウスがいう通り、お転婆な可愛い娘だ。

 ふと、サウスは迷っているのか、僕をじっと見ている。何か、言いたいけど、言いづらいことがあるのだろう。

「全て話してください。何か、あるんですよね」

「資料には書かれていないことです。リリィは学校では完璧な淑女なため、たくさんの令息から交際を申し込まれました。もちろん、ダンがいるので、リリィは全て丁重にお断りしました。ですが、それでも諦めなかった男がいました。王族です。丁度、リリィと同じ学年同じクラスにいました」

 確かに、資料には書かれない話だ。王族の汚点なんだから、隠し通すだろう。

「王族といっても、当時の国王の息子とかではありません。先王の甥にあたります。跡継ぎの王子が足りなかったので、王位継承権を与えられていました。その王族は、諦めず、伯爵令嬢を操り、リリィをイジメさせたんです。ひどいもので、服を盗まれて閉じ込められることまであったそうです」

「詳しいですね」

「リリィに許された友人たちが、リリィを陰から助けていました。僕は、そのことを手紙で知り、男爵に訴えもしました。もちろん、男爵も学校に訴えましたが、王族が関わっていることだけに、どうしようもありませんでした。結果、リリィは屈辱を受ける日々を送ることとなりました。

 王族は、そんなリリィに何度も声をかけました。王族の目的は、リリィを愛妾にすることです。リリィはそれを拒絶しました。僕の友人たちもリリィを表立って助けようとしました。しかし、リリィがそれを拒絶したそうです」

 最低な話だ。聞いていて、腹が立つ。

 だけど、リリィは妖精に願っていない。学校に通っている間、何か不可思議なことが起こった記録はなかった。

「幸い、リリィに無体なことをすることはなかったようです。いえ、あったかもしれません。たぶん、リリィの妖精が全て防いだのでしょう。そうとしか言えないほど、リリィのイジメは壮絶だったと手紙に書いてありました」

「そして、伯爵令嬢を怒らせて、リリィは貴族でなくなったのですね。伯爵令嬢ごときで、そういうことは出来るとは思えません。その王族も関わっていたのでしょうね」

「そうだと思います。本当に突然のことで、僕も驚きました。ただ、男爵家にはリスキス公爵がついていましたから、領地をなくしても、無事でした。そのまま、大人しく、公爵家で囲われていれば良かったのに、リリィはいなくなりました。

 僕は、長期休暇をとると、リリィを探しました。ところが、仕事をしている時は、山の聖域も探そう、と考えるのに、いざ、探しに行くと、山の聖域ではない、以前探したところばかり探していました。きっと、妖精が邪魔していたんでしょう。今ならわかります」

「なるほど。とても参考になります。ありがとうございます」

「待ってください」

 そこで話を終わらせようと席を立った僕をサウスは止める。

「この後は、誰の所に行きますか?」

「順当に、妖精男爵ですね。あとは、リリィの娘エリィでしょう。伯爵令嬢はもう死人なので、話はきけませんね」

 資料を見ても、話を聞かなければならないのは、それくらいだ。

「リリィが生きている当時のリスキス公爵次男シャデラン様と話したほうがいい。彼は、今もリリィを愛している」

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