リリィの足跡
一度、王国の王都の聖域に出た。そこで、僕はついでに聖域の様子を確認する。お祖父様が王国全土を駆けまわっているので、どこの聖域も問題はない。王都の聖域も、綺麗だ。ただ、僕が来たのではしゃいでいる。
「ここからは王国領です。連れてきてあれですが、サイゼルとヒアートは傍観者となってください。一切、力も口も出してはいけません」
「どうしてですか!?」
「役に立ちますよ!!」
力を見せて、どうにかアランの弟子にでも食い込みたいのだろう。自らを前に出すサイゼルとヒアート。
「あなたがたは、見て、感じて、学ぶだけです。今回の件は、よい勉強になります。なにせ、大魔法使いアラリーラの片鱗を見ることが出来るかもしれません」
「アラン、その、大魔法使いアラリーラって、戦争をなくした英雄のこと?」
ちょっと気になって、僕は口を挟んだ。それで、サイゼルとヒアートは物凄い顔で睨んでくる。ごめんなさい。
「そうです。とても珍しい魔法使いなんですよ。僕は運がない。アラリーラと同列かもしれない魔法使いが王国に誕生していたとは。しかも、僕が筆頭魔法使い時には、まだ生きていた。もっと、王国に興味を持つべきでした」
「そんなにすごいのですか? お祖父様の資料では、リリィのことよりも、妖精男爵のほうを危険視していましたが」
「リリィの正体を知ったら、そちらのほうが恐ろしいと気づきます。リリィの呪いは、まだ、生きています。ほら、例のリリィに呪われた伯爵家。伯爵家の元の領地は、未だに人が住めない場所になっています。本来、妖精憑きの呪いは、妖精憑きの死後、呪った妖精と一緒に消えてなくなります」
「え、そうなの!?」
「王国は、妖精憑きのことを軽視しすぎです。丁度良いので、あなたがきちんと学んで、後世に伝えていきなさい。リリィのことも、しっかりと」
僕が思っていた以上に、リリィの問題は、大きかった。
アランは、お祖父様にリリィの資料を見せられて、相談には乗っていただろう。お祖父様はいざという時は、アランに相談する。アランは、リリィ案件でなければ、動くこともなかった。リリィ案件だから、動いたのだ。
「まずは、リリィのことを知っている者たちに、話を聞きましょう。ポー、王宮から、リリィの資料の写しを貰ってきてください」
やっぱり、僕も顎で使われるんだ。
仕方なく、僕は王都の聖域から隠し通路を使って、王宮に侵入した。一応、ロバートも一緒だ。
資料室に行くのもいいけど、せっかくなので、母アナスタシアの所に行く。母上は離宮にいた。
母上も妖精憑きだ。僕が来るのを待っていたのだろう。お茶の準備をして待っていた。
父アルトは離宮のベッドでお昼寝中だ。僕が来ても起きない。
「待っていましたよ。何か必要ですか?」
「妖精憑きリリィの資料の写しが必要です」
「用意させますから、ここで待っていなさい」
母上は侍女に命じた。そして、僕に椅子に座るように目だけで促す。仕方がないので、大人しくお茶にお呼ばれした。ロバートはよりちょっと離れた所で、立って待っている。
「アラン様には、あまり無茶をさせないように。最近、心臓の発作を起こされました」
「聞いていません!」
「今、言っています。アラン様は見た目はあれですが、実年齢はお父様より遥かに上です。引退して、帝国に戻ったら、と何度も説得したのですが、聞き入れてくれませんでした。きっと、今回の件が、アラン様の最後の仕事なのでしょう。止められませんので、気を付けてあげてください」
「わかりました」
それで会話は終わりだ。親子だけど、親子らしい関係を築けていないので、僕も母上も話題がない。共通の話題がアランだけだ。
「ポーは、あの公国のメス猫をどうするつもりですか?」
「あー、スズですね。どうしましょうか」
悩む話である。僕は手放したくないけど、僕の側にいて、スズが幸せになれるかっていうと、そうではない。僕の立場は、お祖父様と同じになるだろう。
「亡くなったお母様のことで、心配しているなら、やめなさい。お母様は、もともと、それほど長く生きれない方でした。本当は、誘拐される前に、寿命は尽きていたんですよ。それを私とお父様の妖精憑きの力で、無理矢理、引き延ばしていただけです。結果はどうあれ、経過は、私たちの執着で生き長らえさせられてただけです」
「知りませんでした」
話すものだ。色々と、僕の知らない事実が出てくる。
「色々と考えすぎです。それも、お父様とアランの教育ですから、仕方がありませんね。ザクトの話をもっと聞いたほうがいいですよ。あれくらいで丁度良くなります」
「あー、はい」
王族であり、苦労人ザクトは僕の保護者だ。僕は王族だけど、色々とたらいまわしにされ、最後は王族であり貴族となったザクトの養子となった。ザクトはお祖父様の跡継ぎと言われ、お祖父様の暗部を引き継いでいるが、それは、僕に引き継がれるための中継ぎだ。
ザクトは、後ろ暗い仕事向きの人ではない。それを幼い頃からお祖父様が教育し、後ろくらい仕事を出来るようにしたのだ。本来なら、僕も教育されるはずだったのだが、ザクトの養子となってからは、一切、されていない。大丈夫かな、跡継ぎ。
そういう話をしていると、リリィの資料の写しを侍女が持ってきた。僕はペラペラとめくって中身を確認する。うん、抜けはないな。
「どうして、今更、その悍ましい妖精憑きのことを調べるのですか」
「知っているのですか?」
「お父様は娘にも容赦がありません。一度、リリィに関わった者全てに会い、話を聞きました。あの妖精男爵の地下牢も見ました。正直、恐ろしいと感じました。死んで良かったと思います」
実際は、そうではない。死んだ後も、リリィは何かをしている。
心配かけるといけないので、そこは僕「そうですね」と笑顔で返事をして、終わらせた。




