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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
妖精のお茶会
30/56

帝国

 魔道具と聖域を使えば、帝国なんてすぐだった。

 アランは、わざわざ昔使った筆頭魔法使いの服で、帝国の宮殿に行く。

「それ、目立ちますよ」

「この服には色々としかけがあります。隠し通路にかかった迷いの魔法を効かないようにするのですよ」

「なるほど」

 だから、わざわざ着替えたのか。隠し通路をうまく歩いて、アランはどこに向かうのか、僕はわからない。ただ、ついていくだけだ。

 しばらく歩いていくと、執務室に出た。そこには、さっき見た、エリカにそっくりの人が仕事していた。帝国の女帝だ。アランが突然、隠し通路から出てきて、驚いた。

「お、お父様!」

「お久しぶりです。突然ですが、ロンガールとヘインズを呼んでください」

「ヘインズはもう」

「生きてるほうだけでいいです」

 アランもかなり高齢だから、知り合いもだいぶ、亡くなっている。

 いきなり来て、人を顎で使うアランに、なんとも不機嫌な顔を見せる女帝。父親なんだから、抱擁とかあってもいいはずなんだけど、アランは突き放している。

 女帝は人を呼び、まだ生きているロンガールを呼びに行かせた。しばらくして、かなりよぼよぼのおじいちゃんがやってきた。

「ア、アラン!」

「生きてたんですね」

「ザガンは死んだよ」

「………そうですか」

 ちょっとだけ、アランは悲しそうに顔を歪めた。ザガンという人は、アランにとって、思い入れがある人のようだ。

 ロンガールは、今にも倒れそうなので、アランのほうから手をかした。

「僕が皇族教育した三人は元気ですか?」

「元気だ。今は、女帝の補助をしている。なあ」

「あの、一体、誰なのですか? その三人って」

 思い当たる人がいないようだ。女帝が困っている。

「表に出ないように動いていますね。さすが、優秀です。ライアン、コモン、テリウスです」

「え、嘘」

 全然、気づいていなかったみたいで、驚く女帝。

「ライアンはかなり優秀ですから、使いなさい」

「でも、私の前では怠け者です」

「あなたは人を使うのが下手だからですよ。ライアンは相手を選びます。僕がきちんと頼んでおきますので、三人を呼んでください」

 渋々、また、人を使って呼ぶ女帝。今日は、とっても忙しそうだ。

「あの、この二人を紹介してもらっていいですか?」

 ちょっと時間がかかるようで、僕とロバートのことを気にする女帝。

「こちらは、僕の弟子のポーです。その隣りは、例の妖精男爵家に代々使える妖精の子孫ロバートです」

 あえて、僕の身分を隠すアラン。うまいな。

「私も、妖精憑きになりたいわ。きっと、みんな、私を認めてくれる」

 妖精憑きの皇女が死に、残ったのは普通の皇女だったから、過去、色々とあったのだろう。

 アランは女帝の愚痴を聞き流す。女帝としては、父親に何か言ってほしいだろうに、アランは冷たいな。

「アランアラン、ほら、娘に何か言ってあげなよ」

「父親失格の僕からは何も言えません」

「いっぱい、子育て経験あるってのに、それはないよ」

「え、子育て経験って、他にも子どもがいるのですか!?」

「いませんよ。僕が魔法使いの修行をした家では、子どもがいっぱいいたんです。そこで、修行しながら、子育てを手伝いました。アナスタシア様も育てましたね。ポー、あなたも僕が教育しました。昔は帝国では、魔法使いの教育もしましたよ。皇族まで教育させられましたね。もう、うんざりです」

 いっぱい子育てしたようで、アランは疲れた顔をした。

「私も、お父様に育てられたかったです」

「意外と、娘は失敗したかもしれませんよ。ほら、キリト様は娘と孫、両方、失敗しましたから」

 あ、失敗例は僕だ。確かに。

「血が繋がらないから、良かっただけですよ。きっと、血の繋がりのある娘たちは、僕ではダメにしてしまったでしょう。十分、あなたは優秀ですよ」

 優しい顔で最後に誉めるアラン。それをちょっと喜ぶ女帝。なんだかんだいって、アランは人を操るのがうまいな。ちょっと勉強しよう。

 そうやって、話しているうちに、アランが呼んだ三人がやってきた。

 一人は眼鏡をかけた勉強できますなコモン、一人はガタイしっかりしたテリウス、一人はちょっとつかみどころがない風格のライアンだ。

 アランを見て、三人はアランの前で跪く。

「お久しぶりです、師匠!」

「お元気でしたか、師匠!」

「生きてたんですね、師匠!」

 ライアンだけ、ちょっと言い方がずれている。確かに、ライアンは使うには、難しいのかもしれない。

「そういうのはやめなさい。あなたたちは皇族です。僕より上です」

「ですが、アランはもう、筆頭魔法使いのあの焼き鏝、なくなったんでしょう」

「それでも、僕は帝国の魔法使いとしての誇りはあります。ほら、立ちなさい」

 アランに言われて、三人は立った。

「この三人は、僕が育てた皇帝候補です。ほら、お前たち、僕の娘の力になりなさい」

「はい」

「わかりました」

「ええーーーー!?」

 やはり、ライアンだけ、否定的である。やっぱり、ライアンは難しいかも。

 女帝としても、ライアンはいらない、みたいに見ている。

「もう、仕方がありませんね。ライアン、約束通り、僕を捕まえたご褒美をあげましょう。覚えていますか?」

「えー、今更ー?」

「随分、経ちましたね。でも、欲しいでしょう、僕が育てた暗部」

「欲しい!!」

 ライアンはアランの出したご褒美に食いついた。

「アランの暗部、今でも欲しいです! だって、アランが育てた妖精憑きの暗部ですよ!!」

「そんなもの、持っていたのですか!?」

 僕もびっくりだ。この穏やかに笑うアランの見えない恐ろしさを感じてしまう。

「僕はただ、使えない妖精憑きを暗部向きの才能へ伸ばしてあげただけです。さて、どうしますか? ライアン、僕の娘の力になってくれますか?」

「いいよ、それで」

「………見た目も声も、ライオネル様と瓜二つになりましたね」

 アランはライアンを忌々しいとでもいうように睨む。

「俺、一番お祖父様にそっくりだから。ほら、俺、じゃなくて、私の所に戻ってこい、アラン」

「………似ているだけに、タチが悪い。そういう悪ふざけはやめなさい。ただし、カシウスはあげません。カシウスは僕の側にいたいというので、除外です」

「相変わらず、カシウスはアラン大好きだな。いいぞ、それで」

 これで、交渉は終わったようだ。ただ、何故、帝国にわざわざ僕を連れてきたのが謎だ。

「ロンガール、次の筆頭魔法使い候補はいますか?」

「二人ほどいる。もしかして、鍛えてくれるのか?」

「二人ですか。なら、その二人をちょっと借ります。王国側で、とても珍しい妖精事件が発生しています。きっと、良い経験になります」

「わかった。呼んだ」

 ロンガールは妖精憑きなので、妖精で人を呼んだ。

「それで、一体、どんな妖精事件なんだ?」

 気になるロンガール。リリィって、事件になっちゃうんだ。

「大魔法使いアラリーラの再来かもしれませんよ」

「伝説の? 大魔法使いアラリーラの正体は、筆頭魔法使い以上、皇帝しか知らないこととなっている。今だと、伝える者がいなくなってしまったから、誰も知らないが、アランは知っているのかい?」

「僕は父上から直接聞いています。父上は、アラリーラの側仕えでしたし、筆頭魔法使いになって、賢者まで昇りつめた方です。筆頭魔法使いとなるのなら、実際に見たほうがいいでしょう」

 それは僕に向かっても言っていることだ。

 そうしていると、筆頭魔法使い候補二人がやってきた。

「お呼びでしょうか、ロンガール様」

「ただいままいりました、ロンガール様」

 礼儀正しい二人だ。妖精もまあ、いい感じだ。

「二人とも紹介する。元筆頭魔法使いのアランだ」

「え、伝説の!!」

「皇帝殺しの!?」

 驚く二人。アランって、帝国ではすごい存在なんだ。帝国に行ったことがないから、知らなかった。

「名を名乗りなさい」

 穏やかな物腰で名乗りを許すアラン。ここにきて、立場が上であることを示した。

「私は、サイゼルと申します」

「俺は、ヒアートと申します」

「僕はアランです。そちらの子は、王国での僕の弟子ポーです。ポー、ご挨拶してください」

「アランの弟子のポーといいます。若輩者ですが、よろしくお願いします」

 サイゼルとヒアートは僕とそう歳がかわらないが、立場的には、僕は身分を隠しているので、丁寧に挨拶する。

 そうすると、サイゼルとヒアートは、僕の実力を目で推し量ろうとする。アランの弟子だから、そういうふうに見ちゃうんだろうね。僕なんて、力技だけで、大したことないのに。

「人が揃ったので、王国に行きましょう。荷物はなしですよ」

「え? 今?」

「今です。それでは、皆さん、さようなら。ほら、ポー行きますよ」

「待ってください! 一泊ぐらい、していってください!!」

「時間が経つと、とんでもないことになります。急いでいますので、引き止めないでください。また、機会がありましたら、会えますよ」

 女帝の言葉も切り捨て、アランはさっさと隠し通路に入っていく。僕は置いていかれると帰れなくなるので、さっさとついていく。

 ロバートの後から、サイゼルとヒアートも続いた。

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