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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
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阿部の夜

 どういう話し合いがあったのか、私にはわからない。私とアヤネさんは同じ部屋に閉じ込められ、食事の時間も、ポーたちに会わせてもらえなかった。

「何やろうとしてんだか、あの男は」

「ねえ、あのアベって人、何なの?」

「阿部家では、花嫁を占いで決める、て風習があるの。たぶん、スズちゃんが花嫁として占いで出たんじゃないかな。もう、そういうのは古いってのに」

 似たようなことをポーから聞いたことがある。それは、聖域で運命の相手が見れる、という話だ。

 アベの屋敷の下には、聖域の気配を感じる。もしかすると、聖域で見る運命の相手を占い、と言っているのかもしれない。

「それ、イヤだ。私、ポーがいい」

「私だってイヤよ、あの男は。阿部家はね、昔っから占い盾に女を誘拐までしたのよ。そうして、力をつけてったんだって。ここ何代かは、そういうことがなくて、落ち着いたね、なんて言ってたけど、あのバカ明人がそうだったなんて。どうりで、バカ明人が跡取りになるわけよ」

「すごく強いんじゃないの?」

「阿部家はね、運命の相手と子どもを作れる人が跡取りなの。それは、男でも女でもいいわけ。そして、二人の間に生まれた子どもは次代に決定なわけ。占い通りの組み合わせだと、すごい力の子どもが生まれるんですって。だから、阿部家はちょっと前までは権勢を誇っていたわけ。ところが、芦屋のお嬢さんに逃げられてから、ぱっとしなくなったのよ。きっと、芦屋のお嬢さんにすごい呪いをかけられたのね」

 私の先祖? がアベに何をしたのか、わからない。ただ、あの男は、私を絶対に手に入れようとしている。

 ぞっとする。触られたところが気持ち悪くて、ガリガリと爪をたててかいてしまう。

「スズちゃん、ダメよ! そんなことしたら、傷がつく。ほら、せっかく坊やに綺麗にしてもらったんでしょ。大事にしないと」

「気持ち悪い! あの男に触られたところ、気持ち悪くていや!!」

「そうなのね、それは良かったわね」

「どうして?」

 アヤネさんは私がこれ以上、ひっかいたりしないように手を握りながら、笑う。

「イヤだってことは、もう、昔みたいなことが、出来なくなったってことでしょ。良かったじゃない。これで、一つ、普通になった」

「あ、そうなんだ」

「ちょっと、眠い。どうして」

 急にアヤネさんが睡魔に勝てずに寝てしまう。何が起こったのかわからず、私はアヤネさんの体をゆすった。

「アヤネさ……熱い」

 その熱さには、見覚えがあった。時々、軍で、私は薬を使われて、奉仕をさせられた。それと同じ熱さだ。

 最後に出されたのは、アヤネさんはお酒で、私はペットボトルの紅茶だ。

 心臓が早鐘をうつようにドクドクとなる。どうしよう、薬を盛られた。アヤネさんは、見た感じ、大丈夫そうだけど、起きない。私とは違う薬だ。

 私はしばらく身もだえした。体から熱がとれない。その苦痛に、どうすればいいかわかっていても、私は両手を組んで耐えた。ダメだ。やっと普通になったんだから、堕ちてはいけない。

「はっ、はっ!」

 時間が経てばどうにかなるはず。軍でもそうだった。私が苦しんでいるのを面白おかしく眺めて、一晩、放置されることだってある。大丈夫、耐えてみせる。

 ところが、それを許さない男がいた。アベだ。アベは、人が寝静まった頃に、部屋にやってきて、私がすっかり興奮している姿に、笑った。

「もう、出来上がってるな」

「やだ、触らないで!」

「俺たちは運命なんだよ。ほら、行くぞ」

 抵抗なんて無理だ。ちょっと触られただけで、体が喜ぶ。

 アベは私をひょいと持ち上げると、いくつかの部屋を抜けて、地下へと降りていく。

 冷たい台座に私を横たえる。そして、伸し掛かってきた。イヤだ。絶対にイヤだ!!

 心でどれだけ拒否しても、体は喜んでいる。そんな自分がいやで、涙が出る。助けてといっても、声が出ない。声を出そうものなら、きっと、嬌声だ。そんなのはイヤだ!


「何をしている、野良猫」


 ポーの声だ。途端、私の上から、あの気持ち悪い男がいなくなった。

 そこからは、よくわからない。ポーの手を感じると、その手に舌を這わせる。嬉しい、ポーが傍にいる。それだけで嬉しくて、私はポーをつい押し倒してしまう。

 ポーは私の下敷きになって、頭を打ったのか、顔をしかめる。痛いことをしてしまったので、私はポーの頬を舐める。他にも傷があるかも、と舐めた。

「スズ、スズ、ごめんね」

 優しく笑うポーが私の胸を触る。それが嬉しくて、私は歓喜の声をあげるのに、そこから、意識が遠のいた。






 気づいたら、布団の上だった。アヤネさんが縄でグルグル巻きにされたアベを蹴っていた。

「アヤネさん、起きたの!?」

「スズちゃん、もう大丈夫よ。この男が二度と何もできないようにしてやるんだから。あの坊やが、メンヘラ男を呼んだわ」

「………」

 アヤネさん、むちゃくちゃ怒ってる。聞けば、アヤネさんは眠くなる薬をお酒にいれられていたそうだ。その効能はポーがとってくれたので、起きれたとか。

 そして、アベの罰をアヤネさんにお任せして、ポーは部屋に戻っていったという。こういうことは、王族の役目じゃない、とか言ってたらしい。

「明人、どこまで落ちぶれたわね。今、すごいのが来るわよ」

「陰陽師家同士の戦争にしてやる!!」

「聞いたわよ。地脈、あの坊やに盗られちゃったんですってね! これで阿部も終わりね。あんたんとこの地脈、御門が貰ってあげてもいいのよ。あの坊や、御門とは仲良しだから、きっと、くれるわ!!」

「やめろ!!」

「うるさいですねー、夜中に。ポー様が起きてしまうではないですか」

 すっかり就寝中を邪魔されたのだろう。ロバートが眠そうな顔をして入ってくる。

 ロバートだけではなく、カイトとハインズまで来た。男三人を前に、アベもまずいと感じたのだろう。威勢がなくなった。

「これですか、ポー様の猫に不埒なことした野良猫は。あ、僕に妖精向けてきましたね。カイト、こいつの妖精、殺しましょう」

「こらこら、簡単にいうな。殿下には、そういうのは使うなって、言われてるんだ」

「こんな奴に妖精いらないでしょうって、あれ、妖精がいない。なーんだ、ポー様に盗られたのか。だったらいいか」

 ロバートががらりと変わったので、アヤネさんもびっくりだ。普段は、虫も殺さないような笑顔の人だけに、この変わりようは恐ろしい。

 カイトとハインズは知っているのか、全く気にしていない。

「殿下からは拷問しろ、と命じられたが、ここでやるのはな。王国に連れて行くか」

「やめろ!!」

「僕の好みじゃない。連れて行くのはやめよう」

「うるさい!!」

「行方不明にするのが、一番手っ取り早いだろう。ほら、ハインズ、手伝え」

「まあまあ、お二方、今回は、僕がいいものあげます。ほら、これ」

 何やら、軟膏を見せるロバート。

「妖精の軟膏かー。それだったら、多少の傷は治るな。指の骨からいくか」

 え、それって、治る範囲なの? 私にも使われたことがある妖精の軟膏は、万能薬である。妖精の力で作られたものだが、あまり量が出来ないので、高級品だ。

 ポーは、妖精に溺愛されているので、大量に作れたりする。使っていないのは、軟膏使

わなくても、傷を治せるからだ。

「カイト、ハインズ、折れ」

「御意」

「御意」

 カイトは無表情で、ハインズは笑顔で、アベの腕や足の骨をボキボキと折っていく。まるで玩具のようだけど、折られているアベはそうじゃない。白目むいて、口から泡までふいている。

「おら、起きろ」

 気を失うと、すぐ、起こされる。そうして、動けなくなるほど折られ、アベが抵抗できなくなった頃、ロバートは一本の長い針をだす。

「ロバート、それは、まさか!」

 嬉しそうな顔をするハインズ。何か、すごいことなのかな?

「お前、やられたいのか、それを」

「こういう万能薬がなかったから、やってもらえなかった。ぜひ、やってもらいたい」

「いけません。僕はポー様の下僕です。ポー様のためにしかやりません。なので、見て、羨ましがってください」

 カイトはとてもイヤそうで、顔をそむける。ハインズは、とても羨ましそうにアベを見下ろす。

 ふと、ロバートは私を見る。ロバートが怖いので、私はアヤネさんの後ろに隠れた。

「つかぬことを聞きますが、スズ様、この男と性行為しましたか?」

「してない! 気持ち悪い!!」

 力いっぱい、否定した。ここでしっかり否定しておかないと、ポーに嫌われる。

 思い出すと、気持ち悪くて、私はまた、腕をガリガリとかいてしまう。

「そうですか。それだと、殺せませんね。じゃあ、幻痛の刑といきましょう。大丈夫ですよ、ちょっと女性においたが出来なくなるだけですから。

あ、女性はすみませんが、出ていってください。お見苦しいものを見せてはいけない、とポー様に言われていますので」

 あれだけ人の骨を折る光景を見せておいて、今更だと思うが、アヤネさんは察したようで、私を引っ張って、どんどんと部屋から離れる。

 遠くで、アベの悲鳴がとどろいた。

「あのメンヘラ男、とんでもないヤツね」

 アヤネさんはわかっているようで、顔を真っ青にして、その場にいないロバートを毒づいた。



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