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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
23/56

結界

 トイレ休憩で、サービスエリアでアヤネさんが車を停めた。人も車も多いところだ。

「私はトイレに行くけど、あなたたちはどうするの?」

「ポー様はまだ来ていないようなので、済ませてしまいましょう。カイト、ハインズ、行くぞ」

 ポーがいないと、カイトとハインズは、ロバートの命令に従う。ロバート、ポーの前ではニコニコしているのに、ポーがいないと、どこか怖い。

 私はついつい、アヤネさんにしがみつく。

「そうよね、迷っちゃうわね。一緒に行こう」

 アヤネさんは勘違いしたけど、それを正さなかった。



 それは、私が王国に来て数日の頃だった。

 ロバートはポーがいない時、私に釘をさした。

「万が一、あなたがポー様ではない男に性交渉なんてされましたら、その男は、僕が殺します」

「絶対にしない!」

「あなたは、夜は一人で過ごしたことがないでしょう。しかも、毎日のように、性交渉をされていました。性交渉がない生活、出来るのですか?」

 出来る、とは言い切れない。体がうずく時がある。それをどうにか誤魔化してはいる。ポーに縋って、触れて、どうにか満足はしている。けど、強い衝動が起こった時、それを抑える自信がない。

 軍にいた時も、時々、そういうことがあった。そうなった時は、縋って、相手をしてもらったことがある。そうして、最後は酷いことになった。

 ロバートは、私を蔑むように見下ろす。

「僕はポー様のためにしか動かない。お前は、ポー様のお気に入りだ。ポー様は、口では手放すと言っているが、心は違う。下僕である僕にはわかる。だから、お前が他の男と性交渉なんてしようものなら、その男は殺す、絶対だ」

「私は、捨てられない?」

「ポー様を捨てるのはお前だ。ポー様は絶対にお前を捨てない。覚えておけ。ポー様を捨てたら、お前を殺す。いいか」

 ロバートは私の髪をわしづかみして、無理矢理、上を向かせる。あのいつもの穏やかな笑顔はなかった。




 ポーから離れているからか、あの時のロバートを思い出してしまう。ロバートはポーのためならば、何だってやるのだろう。

 それは、愛情なのだろうか? そこが、わからない。ポーがいうには、ロバートは特別だという。

「あのメンヘラ男に、何か言われた?」

 女子トイレから出ると、アヤネさんが察してくれた。

「ロバート、ポーがいないと、ものすごく怖いの」

「車の中、もうお通夜みたいだったわ。もう、あの男は乗せない。あのメンヘラは、ここからは、大翔の車よ。スズちゃん、何か食べ物とか飲み物、買おうか。一応、カード預かってるから」

「うん、そうする」

 サービスエリアは、キラキラしたもので溢れていた。ついつい、目を奪われて、寄り道をしてしまう。

 アヤネさんは、スマホでヤマトさんと連絡をとりあっているようで、逐一、気にしていた。それが、良くなかった。気づくと、周りに人がいなくなっていた。

 あれほど賑やかだったというのに、人がいない。どこか、閉じ込められたようで、不安になる。

「アヤネさん、アヤネさん!」

 大きな声で呼んでも、返事がない。わけがわからなくなっていると、ロバートがトイレのほうから歩いてくる。

「ロバート、ロバート!」

「こういう術もあるんですね。僕には効きませんが。カイトかハインズ、どちらかを連れてこればよかった」

「どういう意味?」

「閉じ込められてしまったんです。たぶん、オンミョウジの術でしょう。残念ながら、僕には理解出来ない術です。抜け出すには、術者を見つけないといけないですね」

「みぃーつけたー」

 子どもたちが遊ぶ遊具の方から、一人の男が歩いてくる。

 ロバートは私を守るように前に出たけど、男が持つ妖精によって、吹き飛ばされた。

「ロバート!!」

「やっと見つけた、俺の運命」

 私にわかるような言葉を話しているが、その目は獣だ。私は背筋が冷たくなる。怖い。

 私は反射的に逃げるも、男の妖精につかまった。まだいる!

「どうして、二体も!!」

「俺の式神は、三体だ。ほら、見せてやるよ」

 そういうと、もう一体出てくる。私よりも一体多い!

 いつも私を守るように憑いている式神がいないことに、今、気づいた。

「やだ、離して!! ポー、ポー!!」

 叫んでも、世界は変わらない。ロバートは妖精に抑え込まれて動けなくなっていた。

 私も暴れても、妖精がしっかりと私を捕まえて離してくれない。

「俺の運命。やっと出会えた。さあ、一緒になろう」

 そう言って、男は私に抱きついた。

 ゾワゾワする。ポーじゃない男に触られて、気持ちが悪い。嫌悪しかない。

「イヤ! 離して!! ポーじゃない男はイヤ!!」

「すぐに馴れるだろう。だって、初めてじゃないんだろ」

 この男は、私の過去を知っている。それが恐怖をあおった。

 もう、二年前の出来事になってしまったことが、この男の手によって再現されようとしている。そう思うと、私の恐怖は頂点にまで上った。

  パンという音とともに、空気の流れが変わった。

「スズ?」

 ポーの声だ。そう思った瞬間、私に抱きついた男は遠くへ吹っ飛ぶ。

「ポー、ポー!!」

 私は声をしたほうに駆ける。ポーはいた。だけど、いつもと違う。目の焦点が合っていない。

「ポー、大丈夫!」

「カイト、気絶させろ!!」

 ロバートの命令に、カイトはポーに峰打ちする。瞬間、ポーは意識を失って倒れる。

 私は慌てて地面に落ちないようにポーを支えた。

 ドンというものすごい音に、後ろを見た。

 数本の大きな木が根っこごと抜かれ、それが落ちた音だった。その中心に、あの、私に抱きついた男が倒れていた。

「スズちゃん、大丈夫って、あの男、阿部明人! なんてことしたのよ、あのバカは」

「知ってる人?」

 アヤネさんは苦虫を潰したような顔をする。

「知ってるもなにも、これから行く阿部の御曹司よ。こいつ、大翔と同じ、跡取りなの。ダメ跡取りだけど。何されたの?」

「閉じ込められて、抱き疲れたの。なんか、運命がどうとかって」

「なーるほど、それでスズちゃんね。相変わらず、阿部は最低ね。ほら、起きなさい」

 アヤネさんはアベを嫌っているのか、気絶してしまった男を蹴った。

「いってぇーなー。なんだ、御門の女か。お前には用がないって、いてぇな」

「さっさと逃げるわよ。ここにいたら、大変なことになる」

「お、おい!」

 アヤネさんはアベを引っ張って、騒ぎとなった現場を走って離れた。

「ポー様は僕が運びます」

 妖精におさえこまれていたロバートは、いつの間にか自由になって、私の腕からポーを抱き上げた。ポーの腕に抱くロバートは、いつもの優しい笑顔を見せるロバートだった。

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