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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
22/56

阿部の御曹司

 オープンカーはいいね。乗り物酔いしない。寒いとか暑いとかは、妖精さんにお願いすれば、オールクリアだ。

 僕はよくわからない道をずっと進んでいくのを眺めているだけだ。秘密の場所に行くらしいけど、僕たちは異世界人だから、意味がないんだよね。

「あちこちに聖域っぽいのがあるけど、どうしてですか?」

「聖域っていうか、神社とか寺のことみたいだな」

「たぶん、それです」

「神様は分祀されることもあるからな。大本から分祀される、ということは、日本ではよくある話だから」

「そういうものなんですか。魔法具みたいですね」

「魔法具って?」

「大昔なのですが、帝国で、聖域を一か所つぶして、魔法具を作ったそうです。魔法具に妖精の力を宿すことが出来るそうです。使い方は様々ですけどね。カイトとハインズが持っている剣も魔法具です」

「俺たちが使う符みたいなものじゃないのか?」

「あの魔法具は歩く聖域です。壊れることはないですし、妖精の力は永遠です。ただ、発動させるには、妖精憑きの力が必要です」

「よくわからない話だな」

 まず、概念が違うので、大翔さんには理解出来ないだろう。常識が違いすぎる。

 ずっと乗っていると、大翔さんが疲れるということで、休憩する。それは、決まっていたようで、後から彩音さんも合流した。

 オープンカーは目立つ。ついでに、僕の外見は日本人じゃないから、目立つ。じろじろと見られるけど、僕は車から降りない。下手に公国の文化に触れるのは危険なような気がする。

「殿下、休憩しましょう。お供します」

 ハインズとカイトがわざわざ声をかけてくる。

「僕はここにいます」

「いいのですか? スズ様は彩音さんと一緒に行ってしまいましたが」

「………だったら、車の見張りで誰かいてもらっていいですか? あ、剣ダメですよ。腕で」

「では、僕が」

 ハインズが留守番を交代してくれるという。ハインズは、どうかな? 実はよく知らない。カイトと一緒で、拷問とかやっている、とお祖父様から聞いたことはある。

 僕はカイトの前を歩く。カイトは絶対に僕より前には歩かないが、その身のこなしで、絶対に僕からはぐれることはない。

「とりあえず、トイレ行きましょう。カイトはすませましたか?」

「いえ。殿下を一人にするわけにはいきません」

「僕は大丈夫ですよ。ほら、妖精憑き…あれは」

 人込みの中、妖精憑きを見つけた。彩音さんと大翔さんのものではない妖精…じゃなくて、式神だ。

 しかも、三体も憑いている。あれは、おかしい。

 僕が向かう先に、カイトは無言でついてくる。何か感じるものがあるようで、剣に手をかけた。

 しばらく進むと、人ごみが消える。それどころか、何か逸らされるものを感じた。

「これが噂の結界ですか。カイト、斬れ」

「御意」

 小さな、最低限の動作で、スパンと結界を斬るカイト。まわりはカイトが剣を抜いたことすら気づかず、普通にしている。

 パンという音とともに、結界は壊され、中が見える。

「スズ?」

 見知らぬ男に後ろから抱きしめられるスズの姿に、僕の中で何かが破裂した。






 気づいた時には、見知らぬ天井を見上げていた。首の辺りが痛いので、カイトに峰打ちされたんだろう。

「ポー、大丈夫!?」

「はいはい、大丈夫、じゃない! スズは、大丈夫なの!?」

 記憶の最後は、スズが見知らぬ男に抱きしめられていた。心配するところは、そこだ。

「私は大丈夫だよ。ほら、元気。それより、ポーが大変だったんだよ。いきなり妖精が暴走したから、カイトさんがポーを気絶させたの」

「さすが、カイト。出来る男です。そうじゃなくて、スズに不埒なことをした男は何者ですか?」

「ポー、嫉妬? 嫉妬してくれた!?」

「答えろ」

 僕はいらっとする。何を喜んでいる。飼い猫の分際で、飼い主をご機嫌斜めにするな。

 僕が怒っても、スズは喜んでいる。逆効果だけど、教えてくれた。

「私に会いたいって人だって。待ってればいいのに、待てないからって、わざわざ来たの」

「ふーん、そう。それで、抱擁なんかしてたんだ」

「あれは、向こうが勝手にしたの! ポーが力暴走させたから、吹っ飛ばされちゃったよ」

「生きてる? 骨とか折れた? 内臓破裂してない?」

「………ちょっと怪我したくらい」

「カイト、もうちょっと待ってから気絶させてよ! 骨くらい折りたかった!!」

 カイトは優秀すぎた。ちくしょう、ちょっとした怪我だけか。次こそは、息の根を止めないまでも、痛い目にあわせてやる。

 そんな黒いことを考えつつ、周りを観察する。

「ここはどこですか?」

「だから、アベ? のお家」

「帰ろう、今すぐ、帰ろう」

 スズにあんなことする奴に会う必要なんてない。僕はさっさと布団から出るも、僕が起きたことに気づいたロバートたちに囲まれる。

「ポー様、大丈夫ですか!? 怪我は、怪我は!!」

「そんなヘマはしない。殿下、力の制御を失敗したこと、アラン様には報告しますから」

 ロバートの心配の声よりも、カイトの声のほうが怖い。アランに報告って、それはやばいよ。

「もう、大変だったんだから。私たちがどうにか術で誤魔化したけど、ちょっとした惨事よ。木が数本倒れた時は、生きた心地がしなかったわ」

 僕が想像していた以上に酷かったことを教えてくれる彩音さん。うん、カイトはやっぱり優秀だ。

「気絶してもらったお陰で、車酔いはなかったみたいだが、俺が悲惨だった。妖精様様だなー」

 オープンカーで一人走った大翔は大変だったようだ。申し訳ない。

「本当にすみません。僕の修行不足でした」

「子どもがやったことだから、仕方がないわね」

「規模が、人外だけどな」

 温かく許してくれる大人はいいな。アランは怖いけど。いや、優しいんだよ、アラン。でも、修行になると、容赦ないんだ。

「ふざけるな! 俺はそのガキに吹っ飛ばされたんだぞ!!」

 そこに僕にとっては、被害者、スズにとっては不審者の男が入ってきた。

「あ、不審者だ。スズに近づくな」

「指さすな! そして、不審者じゃない!! ただ、こう、やっと出会えたから、つい、抱きしめただけだ」

「いいですか、女性の許可なく触れることは、立派な犯罪ですよ」

「ガキのくせに、随分と難しいこと知ってるな」

「スズは僕の婚約者です。触るな野良猫」

 僕とその男は相容れないな。もう、絶対に無理だ。

 お互い、笑顔もなく口舌を尽くす。そこに大人な大翔さんが間に入った。

「やめやめやめ。ほら、明人、お前が悪い。謝るんだ」

「俺も被害者だ! 見てみろ、吹っ飛ばされて、あちこち擦り傷だらけだぞ!!」

「お前な、常識的に考えろ。あんな公衆の場で結界で閉じ込めて、抱きついたら、それはお前が悪いに決まってるだろう」

「ギャラリーいれたくなかったんだよ!」

「こんなのが、僕と同じ次期棟梁だと思うと、頭が痛くなるな」

 大翔さんはこの不審者・阿部明人に本当に頭が痛くなったようで、頭をおさえた。

「まあ、僕が吹っ飛ばしたのは確かです。未熟で、本当にすみませんでした。でも、お前なんか内臓破裂すればよかった、と今でも思っている。後悔はない」

「おい、こいつ、謝ってるようでいて、ディスってるじゃねぇか!!」

「一応、謝りました。その後は、本音です。僕のメス猫に不埒なことをしたオス猫は、みんな去勢です」

 すでに去勢済みのオス猫はいっぱいだ。

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