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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
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ガールズトーク 再び

 無理矢理、アヤネさんに引っ張られて、私はポーとは別の寝室に連れて行かれた。ニッポンにはベッドで寝る習慣はない。畳の上に布団を敷いて、そこで寝る。軍事演習とかで、野営があったので、そんなに苦痛はなかった。

 むしろ、王国での生活は、快適だった。ポーは、娯楽がないことを心配していたけど、そんなこと、大丈夫だ。軍隊で生活していても、外出は禁止され、常に部屋の中。コールド訓練も受けている。

 ポーの中の公国人は民間人だ。その常識で私に接している。逆に、王国では、何もさせない。たぶん、文化が違う、とか、こういうのはわからない、と思っているだろう。確かにそうなので、庭に出て散歩をして、アイリスさんや侍女、使用人と話すくらいだ。それが、意外と楽しい。

 アヤネさんを見る。公国の民間人で、大人の女性だ。私より、公国の常識を知っていて、私を子ども扱いしている。

「アヤネさんは、ヤマトさんといつ結婚するの?」

 寝る準備をしていたアヤネさんの手がぴたりと止まる。顔が真っ赤になった。

「あのね、スズちゃん、私と大翔って、そういうのじゃないの。ただの親戚なの」

「でも、アヤネさんもヤマトさんも好きあってる」

 見ていればわかる。ついでに、妖精が言っている。バレバレだ。

 アヤネさんは落ち着きたいのだろう。ちゃぶ台に人数分、つまりは私とアヤネさんの飲み物を出す。アヤネさんはお酒だけど、私はジュースだ。

「アヤネさんと同じものが飲みたい」

「あなた、十八歳でしょ。未成年には飲ませられません」

「軍では、普通に飲まされていた」

「どんだけ酷いところなのよ。ダメなのはダメ! コーヒーにする? お茶でも紅茶でもいいのよ」

「紅茶で」

 アヤネさんは、わざわざ外まで行って、紅茶のペットボトルを持ってきてくれた。冷たいのは、ものすごく久しぶりだ。

「スズちゃん、あの坊やとは距離をとらなきゃだめよ」

「だって、捨てられちゃう」

「捨てないわよ。あの坊や、ものすごくスズちゃんのこと大事にしてるじゃない」

「大事、うん、大事にしてくれてる。軍でも、大事にしてくれる人はいるにはいたけど、悪魔憑きだったから」

 いたにはいた。私のことを助けたい、という人。今はどうしているのか、わからない。私を連れて行こうとして、バレて、独房にいれられて、それっきりだ。私には、居場所がわかるように、発信機が埋め込まれている。ポーの所に行ってからも、私の居場所は軍に筒抜けだろう。

「なかなか、想像が出来ない世界ね。でも、そういうのは、一端、忘れましょう。私は、あの坊やのことは気に入ってる。お祖父様も、大翔も気に入っている。だから、出来るなら力になってあげたいの。スズちゃん、一度、御門で暮らしてみない?」

「え、ポーが言ったの!?」

「言ってない。でも、以前から、そういう話は御門の間で出ていたの。坊やも気づいているのだろうけど、スズちゃん、式神、使いこなせていないでしょう」

「う、うん」

 これっぽっちも使えていない。だから、ポーに捕まった。だから、今がある。

「使えなくてもいい。私の妖精、ポーが持ってるから」

「そういうわけにもいかないでしょう。私はよくわからないけど、支配って、そんなに簡単なものじゃないのよ。あの坊やが片手間にやっていることって、本当は、大変なことなんだから」

「契約したって、言ってた」

「契約ってね、順位があるの。絶対にあの坊やが支配出来るわけではないのよ。最後は、スズちゃんなんだから。だから、学んだほうがいいと思うの。教えてあげるから」

 安心させるように、アヤネさんが私の手をつかんだ。女の人の手は優しくて、綺麗で、気持ちいい。

 傷一つない手だ。私は今でこそ傷がないが、軍では生傷が絶えなかった。体のあちこちに青あざがあって、消えたと思ったら、すぐについている。それが普通だった。

 ポー主導のもと、身体検査をされた時、ポーはものすごく怒って、傷を全て消してしまった。今、私が綺麗なのは、全て、ポーのお陰だ。

「どうすればいい? どうすれば、ポーに捨てられなくなる?」

「その依存はやめなさい。あの坊や、十二歳よ。十二歳に十八歳が依存しないの。とても難しいことだけど、少し、距離をとらないと。まだ、未成年なんだから、大人に依存しなさい」

「大人はみんな、怖い」

「私は怖いの?」

 アヤネさんを見る。この人は、何もしない。むしろ、優しい。

「怖くない」

「いきなり、大翔みたいな男に頼れ、なんて言わないわ。まずは、私を頼りなさい。あとは、お祖父様とか。あの人、泣き落としに弱いから、すぐ味方になってくれるわよ。ほら、飲んで」

「うん」

 久しぶりのペットボトルなのに、私は握りしめているだけだった。言われて、口をつける。甘い。

「ねえ、アヤネさんは、ヤマトさんと結婚しないの?」

「………あのね、それ以前なの。まあいいわ。女同士、話しましょう。もともと、婚約の話もあったのよ」

「婚約!? してるの!!」

「していません。小さい頃の話。ほら、大人が冗談でやるやつ。でも、所詮は口約束だったし、すぐに白紙よ。お祖父様が、そういうのは、今時いらないって。自由にすればいいって言ったの」

「それでそれで!」

「それからは腐れ縁。一時期はこの広い屋敷で一緒に暮らしていたから、兄弟みたいな感じだったの。さすがに、中学行くには、不便な場所だったし、車で送迎は目立つから、私も大翔も一人暮らししたの。中学校高校は離れたところとなったし、一人暮らしは何かと忙しいのよ」

「すごく、キラキラした生活してる!!」

 テレビで見た、ドラマのような話に、私は夢中になった。

「こんな稼業だけど、私は一応、就職したの。それで、一人前になりました、と挨拶に来てみれば、大翔も立派な跡取りになってた。だけど、距離感がよくわからなくて、中途半端になっちゃってるの。以上」

 アヤネさんは一気にお酒を飲み干す。とてもいい話を聞けた。ドラマみたいだ。

「いいな、アヤネさんとヤマトさん」

「ほら、スズちゃんだって、今から距離をとれば、あの坊やも、年頃になったら、ふらついてくれるわよ」

「あ、うん、そうかな?」

 自信がない。

 私はきっと、最後までポーだ。ポーから離れたくない。だけど、ポーは違う。ポーは王国で色々なものを抱えている。私は、その一部でしかない。いっぱいいっぱい抱えているので、私がポーにしがみついているだけだ。

「どう見たって、あの坊やは、スズちゃんのこと愛してるでしょう。軍のほうでも、女性相手にしていても、よそ見もしなかった、ていうじゃない。

 一回ね、お祖父様が坊やを誘惑しよう、とそれなりの女の子とか集めたの。あの坊や、紳士に接して、逆に御門側の女が篭絡されちゃったの。あんな歳で、どんだけ経験値なのよ」

「そう、ポーはすっごくもてるって、みんな、言ってる。王国でも、婚約の打診がいっぱいだって。私が婚約者になっても、来るの」

「それは、あれでしょ。王族だからでしょう。あわよくば、と思うのよ。婚約できなくても、それに近いのになれればいい、とか思うのでしょう。だいたい、スズちゃんをどうにかしたかったら、もっと前にどうにか出来たでしょう。あの坊や、それくらいの能力はあるし、教育も受けてるはずよ」

「確かに。でも、全く反応しない」

「どこまでやってるの、あなた!? それ、スズちゃんのほうが犯罪者だからね!! あ、でも、未成年か。どうなんだろう」

 違うところで悩むアヤネさん。酔ってきたんだ。

「まあ、面倒臭そうな話は置いといて。十二歳の子どもに、他に何してるのよ」

「キスは普通。婚約をしてからは、舌もいれてる。ポーもいれてくれる」

「え? え?? 最近の子は、ものすごく進んでいるのね。私なんて、えっと、いいのよ、そういうのは」

「アヤネさんの経験はどうなの?」

「うーんと、えーと、そのー、過ちはあるのよ。ほら、試してみたいじゃない。だから、ついつい、やっちゃったのよ」

「誰と?」

「え、大翔、と」

「じゃあ、結婚しなきゃ!」

「興味本位だから!! それに、迂闊に責任とれなんて言ったら、どっちが悪いの、なんて話になっちゃう。そう言ったら、スズちゃんはどうなのよ」

「私に手を出した男、全部、ポーが去勢した」

「あー、そうなんだ。妖精憑きって、そんなことも出来ちゃうんだね。確かに、責任、違う形でとらされちゃったのね」

 深夜まで、そんな話をした。また、アヤネさんとは色々と話したい。

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