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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
20/56

前夜祭

 一応、御門家で一泊してから出発となった。夜の組み合わせをかえよう、と僕は訴えたんだよ。

「僕は男同士でお話したいので、男部屋で寝ます」

「私も行く」

 空気読んでよ、スズ!!

 着いてくるスズに、僕が困る。

「前回と同じでいいじゃない。添い寝がないと、寝れないんでしょ」

 彩音さん、空気読んでよ。僕は男同士でお話したいの!!

「さすがに殿下とスズ様と一緒の所で寝るのは」

「不敬罪なことになってしまうといけませんし」

 空気読んでよ、護衛二人!? 面倒臭いことになりそうな予感でもあるんだろう。カイトもハインズも逃げぎみだね。

「坊主も、もう親から離れる歳だろう。ほら、男同士で親睦を深めよう」

 そこに救世主の大翔さんだ。

「彩音、こいつだって、もう十二だろ?」

「そうです、十二です! この国では、中学生ですよね!!」

「それはあれだ、ダメだ。添い寝なんて、スズさんのほうが犯罪だ」

 真面目な顔をしていう大翔さん。すごいこと言われた。

「彩音も、そういう犯罪を勧めるのはやめろ。淫行だぞ、淫行」

「わかったわ。面白かったけど、そうよね」

 彩音さんも、大翔さんに真面目に叱られて、反省する。そうだそうだ、日本では犯罪だよ。

「ですが、王族は許されますよ、それ」

 余計なことをいうロバート。

「ロバート、お前が変なこというから、スズが僕の前ですごい恰好で寝てるんだよ! 普通の服だと思ったら、あれ、公国の下着だっていうじゃないか!?」

「そうですよ。知らなかったのですか?」

 ロバート、何を考えているのか、スズに変な入れ知恵ばっかりする。お前は僕の下僕だろう!!

「え、それはさすがに。スズちゃん、そういうことはダメよ」

「だって、ポーは私のこと、見向きもしないから!!」

「もっと大きくなれば、あの坊やもスズちゃんの魅力に負けちゃうわよ。子どもなんだから、仕方がないじゃない。ほら、今日は女同士で話しましょう」

 嫌がるスズを彩音さんは無理矢理連れて行ってくれた。





 こういう時はお酒だろう、とお酒が準備される。僕は子どもだから、ジュースを出されそうだったけど、拒否した。塩素くさい水を飲んだ。甘いのはイヤな思い出しかない。

「それで、スズさんとはどんな感じなの? 物凄く困ってたから、助けてやったけど」

「さすが大人です。尊敬します! それに比べて、ロバート、お前は僕の下僕じゃないのか!? 何故、スズの味方をするんだ!!」

 大翔さんは僕の空気をしっかり読んでくれた。頼りになる大人は、こうでなくっちゃ。

 ロバートは出されたお菓子もりもりと食べて、笑う。

「いいではないですか。ポー様、スズ様のこと、好きでしょう」

「………嫌いではない。けど、スズはいつか、公国に返す人だ。取り扱い注意だ」

「何故、返すんだ?」

 事情を知らない大翔さんは、そこのところがわからない。

「今でこそ、僕の保護下にいますが、スズは公国の住人です。僕の国は、神と妖精の祝福で生きています。こんなふうに、冷えた飲み物がすぐ出るような、科学はありません。歴代の王は、一度、公国に行った王国人は受け入れませんでした。それは、科学の利便性を知ってしまった彼らは、王国ではもう、普通に暮らせないからです」

「それでも、スズさんは、一年以上、そこにいるんだろう? だったら」

「スズは、軍隊で虐待を受けていました。その虐待の後遺症は、まだ、回復出来ていません。それは、僕の国では不可能でしょう。僕の国は、暇すぎるんです」

 スズの状態は無理矢理おさえているしかない。スズが僕に執着しているから、他へと向かわないだけだ。そういうことを考えた時、スズはまた、あの軍での日々と同じことをしてしまう。

「それは、また、難しい話だな。それをガキのお前が解決しようとするのはどうなんだ。大人にまかせればいいだろう」

「スズは微妙な立場です。今は、僕の所有物的扱いなだけです。スズの式神も僕の軍門に下っていますし」

「いつか返すっていうなら、今から、少しずつ返したらどうなんだ。ホームステイみたいに、御門が責任をとってもいいんだぞ」

 大翔さんは好意で言ってくれている。僕と月一で話したりすることで、情が沸いたのだろう。僕だって、そうしてもらったほうがいいのは確かだ。

「スズにまかせます。スズは自由です」

「それは無責任だ」

「どうしてですか? 僕はスズに判断をまかせるだけです。だって、スズは自由です」

「スズさんは、自立出来るような扱いをされてたのか? 詳しくは知らないが、虐待を受けてたってことは、自立できないだろう。だったら、先に大人が道を指示してやるしかない。スズさんに決めさせるんじゃなくって、坊主が決めてやるんだ」

「なるほど、さすが大翔さん。僕では思いつかない話だ」

 大人だからか、公国の常識だからか、意見が王国の大人とは違う。

「こういうのは、こっちの国ではよく研究されている。日本語が読めるんだから、いい本を持ってきてやるよ。それで、勉強するといい」

「ありがとうございます」

「大人三人いても、これかー。文化の違いだな」

「そういうのは、まあ、あるがままだからな」

「そうそう、そういうのは、仕方がない」

 酒を飲みながら、カイトとハインズは無責任なことをいう。しかし、それが普通なんだよね、僕の国。

「これは、難儀だな」

「スズ様は、娼館に行ったほうがいいでしょう」

「ハインズ!?」

「殿下、こういうことは人情でどうにか出来ることではない。そういう子どもは、国にはいくらでもいる。スズ様を特別扱いするものではありません」

 ハインズの解決策、実は言われたことがある。そういう衝動が強いので、いっそのこと、それを職業にして生活させたほうがいい、と言われた。

「日本では、それは犯罪だ」

「こちらでも犯罪ではある。でも、仕方がないこともある。神のお導きだ」

 文化の違いでぶつかりあう。喧嘩になりそうで怖い。

「ポー様、どうしてお手付きにしてしまわないのですか。お手付きしてしまえば、スズ様の立場は確かになりますよ」

「犯罪だから! 主に、スズさんのほうが!!」

「保留です、保留!!」

 もう、これ以上は文化が違いすぎて、喧嘩になりそうだ。





 そこからは、適当な話で盛り上がった。カイトもハインズも大翔さんも、世渡りがかなりうまいので、適当な話も出来る。

「カイトさんとハインズさんは既婚者か。どうですか、結婚は」

「大翔さんは彩音さんと結婚しないんですか?」

「げほっ、ごほっ!」

 むせた。聞いちゃいけない内容だったんだ。悪いことをした。

 それを聞いたハインズさんがにっこりと笑う。

「僕の妻は、とても強い人ですよ。僕は彼女の下僕です」

「ハインズさん、そっちの趣味ですか? そっちの国にも、そういうのがあるのか」

「彼女は怖い人だから、逆らったら、庭に埋められてしまいます」

「………ハインズ、お前の妻は、俺の妹なんだが」

「しまったしまった。カイト、内緒だよ。僕、アナには逆らえないから」

「怖い話はしないで!!」

 僕も女侯爵アナには気を付けよう。女は怖い。

 面白がっているハインズ。彼の感性は、ちょっと常人とはずれている。

「俺の妻は、聖女だ。彼女のためなら、毒虫どもは全て駆除する」

「したんだよ、カイト。聖女様に逆恨みした奴ら、全部、駆除したんだよ」

「兄妹そろって、怖いよ!」

 びっくりだよね大翔さん。僕もびっくりだった。

 僕はカイトの妻には会ったことがない。カイトは誰にも会わせない。それが、王族であっても、合わせてくれない。すごいよね、独占欲が。

「ロバートはどうなの?」

「僕は、一生、結婚しません。一生、ポー様にお仕えしますから」

「そういうのはいいから、結婚しなよ。もう、僕、結婚出来るし」

 ちょっと前まで、僕は子作り禁止だったから、ロバートもそれに付き合っていたけど、今は、その必要がない。

「どうせ、ポー様にお仕えする使命を受けてから、そういうものは必要なくなりましたから」

「そういう重いのはいいから! ちょっとどうしよう!! ロバートがずっと結婚しなかったら!!!」

「まずは、ロバートは男がいいか、女がいいかだな」

 すごい斜め上のことを聞くカイト。それって、どうなの!?

「ちょっと待て。俺はノーマルだぞ!!」

「俺だってノーマルだ!!」

「カイトは両方いけるじゃないか」

「ダメ、俺はもう、彼女に全て捧げているんだ!! もう、絶対にやらない!!!」

「坊主、大丈夫なのか、お前の護衛は」

 大翔さんが危機感を抱いて、僕の後ろに逃げる。今はもう、僕も女の子一択だ。

「俺は普通だが、ハインズは男も女もいけるんだ。だから、俺の妹と結婚した」

「お前の妹は、とんでもない奴を選ぶな!?」

「趣味なんだから、仕方がないだろう!! それでも、子ども二人作ったんだから、役割は終わった。後は、好きにすればいい」

 カイトは遠い目をする。何があったんだろうか。

「僕は普通に女の子がいいです。それで、ロバートはどうなの?」

「僕はそういうのはないです。だから、いいんですよ。僕の幸せは、ポー様が幸せになることですから。ほら、スズ様をお手付きにしましょう」

「戻さないで!」

 どうしてこうなるのかな!!

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