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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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誰がこまどりを死んだと言ったの??

 僕はお祖父様に羽交い絞めにされたまま、聖域から北の砦に飛ぶこととなった。

 いっぱいの捕虜を受け入れている最中だったザクト叔父上は、僕がお祖父様と一緒に帰ってきたことに、びっくりどっきりしていた。

「とりあえず、公国側と話そう。俺も立ち会う」

 死んだと思われていた人が実は生きていた。これは、大問題である。





 通例であれば、北の砦での話し合いとなるのだが、公国側と北の砦の間には、あの有害化学物質が泉となって居座っていた。ランダムに水柱までやってくれるので、迂闊に行き来が出来ない。こういう時はどうしよう、と捕虜の皆さんと話し合うこととなった。

 捕虜の皆さん、生きている人たちは、かなりやばい状態だった。

「ポー、責任をとって、治してあげなさい」

「はーーーい」

 お祖父様がげんこつ一回にしてくれる、というので、有害物質を体から取り除いた。難しいんだよ、とっても。げんこつなしが妥当だと思う。

 そうして、問題なく動けるようになった捕虜たち。その中には、あの妖精憑きの女の子がいた。

「ザクト叔父上、ザクト叔父上、ほら、僕の戦利品ですよ。別の部屋にいれてください。混ぜたらダメです!」

 僕は、妖精憑きの女の子を引っ張って、ザクト叔父上にお願いする。

 妖精憑きの女の子は、わけがわからない顔をしている。女の子は、見てるだけで可愛いね。

「捕虜の扱いは、難しいんだが」

「好きにさせろ。女子供一人与えるだけでおとなしくなるんだ」

「ええーーー、そういうこと言っていいんですか? 公国側は人権とか、煩いんですよ」

「戦争ふっかけてくる奴らに、人権云々いう資格なんてねぇよ」

 とお祖父様の神の一声で、公国の妖精憑きは僕の支配下に置かれることとなった。

別室を用意といっても、王族が一時的に使う寝室だけどね。

 部屋に入って、内側から鍵をかけた。ついでに、妖精の力も使う。公国の妖精憑きをベッドに座らせて、僕は適当な椅子を持ってきて、彼女の前にお行儀よく座った。

「ねえねえ、お名前は? 僕はポー」

「………」

「僕はね、王国でいらない子なんだよ。仲良くしてね」

「………え、可哀想」

 鈴を転がすような綺麗な声だ。

「可哀想じゃないよ。僕が生まれると、とっても大変なんだって。だから、王族としては、僕は生まれちゃいけなかったんだ。王族はね、王国のために生きて、王国のために死ぬの。だから、僕は可哀想じゃないよ!」

 それが普通だ。僕の王族としての教育はお祖父様が施した。僕はそれが普通なんだ。

 それは、下々の民にはわからない理屈である。この公国の妖精憑きも、理解出来ないだろう。別に、理解してもらう必要はない。

「ねえ、名前、教えて?」

「スズ」

「スズと呼び捨てでいいよね。君、僕の戦利品だから。僕のことは、ポーと呼んでいいよ。だって、僕はいらない子だから、敬称なんていらないんだよ」

「悪魔憑きは、いらない子なの?」

「あくま憑き? そうか、公国ではそういうのか。君に憑いてる妖精、王国や帝国側のとは違う毛色だもんね。言葉も通じない」

 僕の後ろには、僕にもとから憑いている妖精と、公国の妖精憑きから引きはがした妖精がいる。公国側の妖精は、普通の人型で、服装が特殊だ。見たことがない、ひらひらしている。

「君の国ではあくま憑きなんだね。僕の国では妖精憑き。見える?」

「うん、童話で読んだ妖精」

「そうか、君たちの国でも、これは妖精と呼ぶんだね。君が憑いている妖精は、妖精の形はしていないけど、妖精だよ。だって、僕が盗れたんだから。だから、君はあくま憑きなんかじゃない。妖精憑きなんだよ」

「私、あくま、憑き、じゃなかったんだ」

 スズは、そう言うと、ボロボロと涙をこぼして、声を出して泣いた。







 公国の捕虜の皆様の中での話し合いは終了した。とりあえず、捕虜と僕たちで話し合ってみよう、となった。連絡手段は、魔法使いアランのコレクションにあったので、下っ端らしき捕虜の皆さんが、それを使って公国と連絡をとることとなった。

 そして、話し合いのテーブルについたのは、公国の捕虜の中で司令官クラスの三人、それに対するのは、お祖父様とザクト叔父上と僕である。僕は、一応、功労者なので、無理矢理入った。

「戦争はしたくないと言っているのに、どうして、この男が生きているのですか」

 ごもっともである。お祖父様が生きている間は、停戦する約束である。あの約束、かなりきつくしていて、魔法の契約までされている。破ると、大変なことが起こる。

 たぶん、今回の地下の温泉がそうなのだろう。公国側が約束を破ったので、天罰が下ったのだ。約束は守らないといけないよ。

「言ったじゃないですか! 証拠証拠というけど、示せないって!!」

 交渉の場に立ったザクト叔父上が、その時と同じことを言っているのだろう。

「あんたたちは、叔父上が生きているなら、その場に出せと言いました。出来ないって言ったんです。だったら死んでるんだろう、というから、死んでません、と俺がいうしかないでしょう!! いいですか、叔父上は、俺の手には余る方なんです。無理なものは無理なんだ!!!」

 ザクト叔父上は、子どもみたいに机をバンバンと叩いて相手の言い分を叩いた。


 国王の葬儀に、王弟殿下が参加していないことに密偵を通して気づいた公国側は、王弟殿下が死んだのではないか、と勘繰った。だから、定期的な交渉の場で、ザクト叔父上に証拠を要求した。

 しかし、今回みたいに、ザクト叔父上は無理だ、と言った。だいたい、公国があんまりにもお祖父様の命を狙うものだから、王国側でも見つけらなくなったのだ。


「だいたい、あんたたち、やりすぎなんだよ。あんなに密偵送ってきて。こっちはどれだけ無駄は金をどぶに捨てたと思ってるんだ! ついでに、俺の平穏も返せ!!」

 とばっちりは、お祖父様の後継者と言われてしまっているザクト叔父上である。可哀想に、小さい頃からお祖父様に英才教育を施されてしまったので、周りが勝手に後継者と祭り上げているのだ。

「だったら、この交渉の場に、この男を連れて来ればよかったじゃないか!!」

「話が通じないな。同じ言葉話してるのに、どうしてかな。お前たちが送った密偵の末路を、今すぐここに出せ、スレイ」

 ザクト叔父上がキレた。

 ザクト叔父上の忠実らしい側近のスレイは、何故かポケットから数枚の紙を出す。それは、公国側から提供された、ぽらろいどというやつで撮ったやつだ。

「あ、これ、男爵家の地下室にいるやつだ」

 見たことがあった。あの、人間だるまである。

 僕は妖精憑きなので、こういうことしてはいけませんよ、と後学のために見せられた。写真はいっぱいである。

「なんだこれは!?」

「叔父上の奥方が生きている時に、奥方を誘拐しましたよね。その時の奴らの末路です。今も、生きていますよ」

「知らないな」

「そう言うと思いました。こちらも知らないのなら、処分しましょう」

 スレイは大きな布袋から、腕章やら何やら、相手の身分がわかるようなものを机一杯、ぶちまけた。

「叔父上殺すために、どんだけやったんですか。戦争したいなら、あんたたちの国だけでやってくれ。こっちは、あんたたちと国交なんかしなくても、十分、やっていけるんだ」

「我々は生活水準の向上はよいことだと」

「必要ない! あんたたちは科学と銃で生活しているそうだが、わが国は、妖精と神の恩恵で生活出来ている。そういうのはな、親切の押し売りというんだよ!!」

 激怒するザクト叔父上。話はずっと平行線だし、困るよね。

「この場にお祖父様連れてこいって、暗殺しますと言ってるようなものだもんね」

「言いがかりだ!」

 僕は思ったことを言ったのだけど、公国側は激怒する。え、密偵送っておいて、それはないよ。

「そうだよね、この密偵は、公国のじゃないんだよね」

「そうだ。我々は、送っていない」

 子ども相手なので、公国の人たち、甘くみてるよ。態度も悪い。

「ねえ、誰か、この人間だるま一体、連れてきて。せっかくだから、ここで、お話しよう」

「は? このガキは、何おかしなこと言ってるんだ!!」

「あのね、僕、王国では二番目に偉い人なの。一番目は国王、二番目は王太子だって、知ってる?」

「そんなのは、知ってる」

「そうだよね、知識水準も、はるかに上だもんね。僕は、この、前国王の王弟殿下の孫なんだけど、現国王の養子となって、王太子になったんだ。だから、僕はこの場の王国民の中では、一番偉いんだ。さて、君は、公国の中では、どれくらいの階級かな?」

「………」

 ただの子どもではないと、やっとわかってもらえた。知識水準が高いんだから、わかるよね?

 しばらくして、男爵家の魔道具を使って、例の人間だるまが連れてこられた。口らしきものや目らしきもの、と元は人だったものが見られる。手も足もどっかいっちゃったからね、人間には見えないよね。

 帝国の魔法使いも気の毒に。こんなものを運ぶためにこき使われて。そして、これを上手に転がらないように固定するように支える王国の兵士も可哀想だ。

「お祖父様、いいですか?」

「好きにやれ」

「はい、好きにやります。じゃあ、もう、僕が許してあげるから、戻してあげようね。痛いこともしなくていいから。ほら、大丈夫だよ」

 それは、劇的に姿を変えた。時間が巻き戻るように、どんどんと人へと戻っていく。

 頬もげっそりとなって、がりがりとなった人となった。あの膨らんだ肉の部分、どこいったんだろう?

 見てて、可哀想なので、スレイが僕の気持ちを汲んで、マントをかけた。元肉団子の人間は、体を抱きしめるように抱えて、泣いた。

「私は、公国に戻りたい! お願いだ!!」

「残念ながら、あなたは公国民じゃないそうです。そこの公国の偉い人が言ってます」

「いやだ!! 俺は、公国に戻る!!! こんな恐ろしいところには残りたくない!!!!」

「ええー、そんなこと言わないでくださいよー。王国だって、いい所、いっぱいあると思いますよ。たぶん、きっと」

 王宮の離宮に幽閉された身なので、実は外の世界はよく知らないから、断言できない。

「こんなやつは知らん」

「貴様!! 公国のために働いた俺にそんなことをいうのか!? 俺は、全てを話す。あらいざらいだ!! いいか、お前たちの不正も全て、暴露してやるからな!!!」

「黙れ! 公国を裏切るお前は、公国民じゃない!!」

「裏切ったのは、お前だ!!」

 泥かけ試合が始まった。ああー、大変だー。

 泣いて叫ぶ大事な証人は退場してもらった。丁重に扱ってね。

 なかなかショッキングな光景だったので、一部、吐きそうな人がいる。大人って、いろいろと大変だなー。

 僕は改めて、席につくと、にっこりと公国側に笑った。

「これから、こちらで捕らえた密偵の皆さんには、証言をとります。きっと、泣いて喜んでげろってくれますよ。ねえねえ、ザクト叔父上、僕、尋問やってみたーい!!」

「やめてぇえええーーーー!!!」

「えええ、やりたいやりたいやりたい! いっぱいげろっげろにさせたーい!!」

「ザクト、諦めろ。誰にも止められん」

「叔父上の孫でしょ!!」

「俺は子育ても失敗したからなぁ。才能ないんだよ」

「放り投げないでぇーーーー!!!」

 そして、ザクト叔父上はお腹をおさえると、真っ赤な血を吐いて倒れ、急遽、話し合いは中断となった。






 ザクト叔父上は、急遽、お薬飲んで安静することとなり、話し合いは、王国側は僕、公国側は司令官らしき男となった。お祖父様は、命狙われているので、また、雲隠れである。男と対面はいやだなー。

「公国側の密偵の証拠はさくさくと揃えますので、そちら、きちんと補償してくださいね。ザクト叔父上も、可哀想に」

「とどめ刺したのは君だと思うが」

「酷い上司を持つと、部下は苦労するんですよ。頑張りましょう」

 ザクト叔父上の尊い犠牲は無駄にしないためにも、僕は頑張ろう。

「こういう形となりましたが、戦争は仕掛けられてしまったので、あの有害化学物質は天罰として、僕たちではどうこうできなくなりました。残念でなりません」

「君のあの力でも無理なのか?」

「僕の力は神から授けられたものです。神の怒りは僕にはおさめられません。魔法契約でされた協定ですので、この事は、そちらも了承済みと聞いています。そこの所も、魔法での契約書が残っていますので、確かです。神の怒りは人知外です。あれは諦めましょう。

 話は先に進めましょう。こちらはお祖父様は生きている、とつねに言っていることから、こちらには問題がありません。それは、神の元に認められています」

「それは、君たちが言っているだけで」

「今回の被害、王国側はないんですよ。神は平等です。こちらにも罪があれば、こちらにも有害化学物質の汚臭なりなんなりありましたよ」

 北の砦の目の前には、あの有害化学物質の泉である。王国側は、平常時だ。全て、公国側に流れていっていて、どんどんと泉が広がっていっている。湖になるのも、時間の問題である。

「神様が、というのも可哀想ですが、神様視点は人間にはわかりません。神が気に入らないと思ってつつけば、その人は運悪く死ぬだけです。そこに、罪があるなしはありません」

「納得できない話ですね」

「王国側は、これで終わりです。国王だって、寿命で死ぬでしょう。どんなに偉い人だって、神様にとっては平等であり、思いつきなんです。さて、神様議論はここまでにして、先に進みましょう。戦争ふっかけたのはそちら、このような惨状となったのも、公国側、どうしますか? 協定違反もあります。ついでに、生き残った密偵の皆様が、しっかり証言してくれるそうです。知らぬ存ぜぬといいますが、人権問題に発展させてもいいのですよ」

「難しい言葉をご存じで」

「お祖父様はそちらの本を離宮に持ち込んでくるので、時間いっぱいある僕は、それを読むしかありません。暇なんですよ、王太子なのに。だから、遊んでください」

 僕はにっこりと笑った。遊び相手が出来た。

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