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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
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乗り物酔い対策

 今日も領地運営とか、家の差配とか、平和な一日を送っている。暇だな、と思っていると、横から手が伸びてくる。

「ポー、ほら、膝枕はいらない?」

 スズが僕にべったりくっついてくる。柔らかい胸があたる。

「スズ、もういい年ごろなんだから、異性とは距離感持とう」

「婚約者だから、いいでしょ!」

 それを言われると、僕は弱い。

 僕は最強の妖精憑きとして、帝国にぜひ婿に、と狙われている。帝国では、妖精憑きはそれなりに大事にされている。しかし、僕を手放すわけにはいかない王国としては、どうにかしようと、婚約者を準備しなければならなかった。

 中途半端なのを婚約者にするわけにもいかないので、僕の提案で、公国の妖精憑きであるスズを仮の婚約者に立てた。一応、表向きは正式な婚約者として、パーティまで開いた。パーティ開くと、後戻り出来なくなるから、イヤだったんだけどなー。

 外堀を埋められている感が強い。僕としては、スズには、もっときちんとした相手を探してほしい、と願っている。

 ほら、僕はスズの年下で、子ども。今度、十二歳になるっていっても、スズは十八歳だよ。歳の差考えてよ。

 公国では、スズは悪魔憑きとして蔑まれ、酷い虐待を受けていた。そこを僕が救ったから、スズは僕に依存している。

 一度は、おじいちゃん大将の養女に、と僕も考えた。おじいちゃん大将は、スズに泣いて詫びた人だ。スズのこと、きっと立派な一人の大人にしてくれる。

 それが出来なかったのが、僕は、なんだかんだ、綺麗ごとを並べておきながら、スズを手放さなかった。僕が悪い。

 ぎゅーと抱き着いてくるスズ。僕との身長差が、僕には痛い。成長期、はやくこい! お祖父様のようににょきにょき伸びろ!!

「膝枕は後でいいよ。あ、メールだ」

 公国から無理矢理、渡されたスマホにメールが届く。衛星とかを通しているので、王国でもスマホが使えた。電気は、まあ、妖精さんに頼んでいる。妖精さん、万能だから。

「大翔さんからだ」

 緊急の時だけ、このスマホにはメールが届くこととなっている。何せ、情報が全て、公国の上層部に流れているのだ。普通には使えない。本当に、子どもの個人情報抜き取りって、酷い国だね。

「スズと一緒に来てほしいって」

「え、やだ」

「はやいよ。考えようよ」

 公国に行きたがらないスズ。スズにとっては、公国は悪い過去しかない。

 日本はそうではないと思う、たぶん。ちょっと行っただけだからね。

「どうも、難しそうな感じっぽいな。スズがいくなら、ロバートも連れて行かないと。あとは、誰にしよう。お祖父様に相談だ」

 わからない時は、お祖父様である。あの人に相談すれば、だいたいのことは解決する。戦争だって、王国側の被害極小で解決しちゃったから。





 ザクト叔父上にお願いしたら、どうにかお祖父様が来てくれた。はやいな。

「いつも、どこにいるんですか?」

「色々を見てまわってる。聖域にも定期的に行かないといけないからな」

 お祖父様は最強の妖精憑きである。聖域だって、お祖父様が来たら大喜びで穢れ吹き飛ばしちゃうよ。

 ああやっていってるけど、僕が生まれるよりはるか昔に亡くなったお祖母様の骨持って、あちこち見てまわってるんだよね。お祖母様、生まれた頃から聖域に縛り付けられていて、自由になったら目と足が不自由になって、結局、外の世界を見て回れなかった可哀想な人だ。死んだ後だけど、お祖母様を愛してるお祖父様は、世界を見せてあげたいんだろう。

 そんな大事な旅を中断させてしまって悪いな、と思ったので、ボードゲームである。今日も囲碁と将棋とチェスを同時進行。お祖父様、戦略出来るから、今日も負け決定だよ、ちくしょー!

「ちょっと、公国にスズと呼ばれてしまいました。ロバートだけを連れていくのは、ちょっと不安なので、どうしようかと」

「アランでも連れて行くか? 頼めば行ってくれるぞ」

「そんな恐ろしい人は連れて行きません」

 いきなり、最強の魔法使いはダメだよ。あっちに行って、どんなことが起こるかわかったものじゃない。あの将棋を再現されちゃう。

「そうだな。アランも研究やら検証やらで遊んでるからな」

「そのまま、聖域で遊んでもらっててください」

「カイトはもういやそうだったぞ。愛しの聖女と離れたくないんだろう」

「いつまでも、続くんですね、そういうの」

 カイトは奥方への愛が凄まじく、そのせいで騎士団を辞めた人だ。お祖父様には恩ばかりあるので、王国の影の剣の予備として所属はしてもらっている。

「お前も冷めてるな。婚約者のスズはどうなんだ?」

「いつか公国に返すかもしれないのに、そういうふうになりません」

「ガキだなー」

「子どもですよ! 当然でしょう!!」

 僕が子どもなんだから、仕方がない。だって、子どもだもん。

 笑っているお祖父様。あんただって、僕みたいな子どもの時があったんだぞ。

 悔しいが、負ける。ボードゲームは負けそうだ。くそ!

「妖精男爵に、妖精の子孫を借りたらどうだ。あそこは最強だぞ」

「いや、あそこから出しちゃいけないでしょう」

 妖精男爵に代々仕える妖精の子孫は、ものすごく強い。なんと、妖精男爵家が所蔵している魔法具を全て使いこなせてしまう。

 歴史上では死んだと言われる、男爵の血族・ロベルトとこれまた死んだと言われている帝国の皇女エリカを救ったのも、妖精の子孫である。魔法具は妖精憑きでしか使えない代物のはずだが、妖精の子孫は無条件で使えてしまうのだ。その上、男爵家を守るために、体術にも優れている。

 あれを外に出してはいけない。絶対ダメ。

「んじゃあ、前回と同じ、カイトとハインズだな。妖精男爵から譲ってもらった剣がいたく気に入ったそうだ。使いたいんだと」

「物騒ですね、それ。あれ、たしか、妖精殺しの剣ですよね」

 前回、公国にいく時に、妖精男爵から、魔法具をかりた。その中に妖精が鍛えた剣だが、あれは、おかしくなった妖精を殺す力がある。普通の剣としても使えるが、妖精殺すって、相当な業物だ。

「前回も、すぐ帰ってきただろう。今回も、すぐだろうから、大丈夫だ」

「そうだといいですね」

 メールでは、大した内容は読み取れない。ほら、公国の軍部に筒抜けだから、最低限の文章しか送れないのだ。

 カイトとハインズのほうは、お祖父様に丸投げして、僕は、盤面を見た。

「負けました」

 今日も、全敗だった。





「すみません、しばらくお願いします」

「御意」

「御意」

 カイトとハインズは、前回、公国から貰った服と、妖精男爵から譲り受けた剣を持ってやってきた。来たらすぐ出発である。

 スズは、本当にいやがった。行きたくない、といやがったが、相手はスズも、と言っている。

「スズ、どうすれば一緒に行ってくれる?」

「ちょっとだけ、ここ、触って?」

 すごいことを要求された。僕、子どもだからわからない、なんて誤魔化せないよ。

 仕方ないので、僕はスズの要求をのむしかなかった。柔らかくて、あたたかくて、湿ったそこをスズが満足するまでいじった。こういう時は般若心経とかがいいって、聞いたようなきがする。意味わからないけど。

 僕はしっかり理性ある子どもで乗り越えたが、スズからは、かなり恨みがましく見られた。僕は子どもだから仕方がない。

 そういうわけで、前回と同じメンバーである。向こうでは、ほとんど日本語だけど、彩音さんと大翔さんはこっちの言葉話せるので、どうにかなりそうだ。





 聖域を通ってすぐ、お出迎えの人が来た。どっかに監視カメラを設置したんだろうね。僕のためだけに、お金かけたなー。

 屋敷に通されるも、僕だけが話すこととなった。カイトとハインズは、また、前回と同じ別室である。何かあったら、すぐいろんなもの斬ってくるから、心配ない。

「急にすまない」

「いいですよ。それで、どうしてスズを同行しないといけないのですか?」

 僕と話すのは大翔さんだけだ。彩音さんはいない。珍しいな。

「実は、阿部家から、ぜひ、スズさんに会いたい、と連絡がきた」

「? スズを名指しって、どうしてスズのことを知っているのですか?」

「これは、君たちに会う前から話さないといけないな」



 もともと、軍部からは、スズの写真をもとに、芦屋家の捜索依頼があった。芦屋家は、単独で活動するので、知る者は少ない。そこで、スズの写真をばらまいて、もしかしたら、知っている者がいるかもしれない、と陰陽師で情報交換したのだ。

 結局、芦屋家のことを知る者はいなかった。かなり昔に海外へ出奔してしまったので、知っている人は生きていない。

 しかし、阿部家は芦屋家とは縁遠からぬ仲であった。この、芦屋家が出奔するきっかけとなったのが、阿部家の嫁とりだという。



「阿部家では、代々、占いかなにかで、花嫁を決める風習がある。大昔、芦屋家の跡取り娘を花嫁に、と占いで出たらしくてな。相当、すごいことをしたそうだ。それがイヤで、芦屋家は海外に行ったんじゃないか、と聞いている」

「僕、同じような話を聞いたことがあります。酷いですね」

 アランの過去話で、母親のことがあったけど、そういうのがあったな。国が違っても、そういうことって、起こるんだ。

「もう、昔の話だからな。阿部家だって、昔のような権勢はないから、無茶はいわないだろう」

「どうして、最初に阿部家が名乗り上げなかったんですか? 僕に最初に会うのは、別に阿部家でもよかったではないですか。むしろ、因縁があれば、阿部家が名乗り上げるはずです」

「それがわからん。その当時は、今更のことだし、気まずいから、ということで、阿部家は遠慮したんだ。それが、急にだ。断りたいが、向こうもそれなりに面倒臭くてな。すまん」

「仕方がありません。情報をばらまかれた後ですし、それはスズのための行動ですから。それで、ここで会うのですか? それとも………阿部家のとこ?」

 全身がぶるぶると震える。あの地獄の乗り物が僕を恐怖に陥れる。

 僕は乗り物に弱い。どんなことしても、酔う。薬は絶対に飲んだら危ないので、どうしようも出来ない。

「坊主、金持ってるんだってな」

「ありますよ。このカードで精算できるって言ってました」

 僕は軍部のアリスさんから渡されたカードを見せる。真っ黒なのはどうしてだろう。

「確か、乗馬は出来るとか。僕の国では普通です。馬車はダメですよ」

「だったら、それに近いものを用意した。坊主、後で金は払えよ」

 連れて行かれた先には、なんと、オープンカーである。確かに、これならいける。

「船は大丈夫だって聞いたから、たぶん、空気の問題だろう。ただ、これは雨とか寒い時がなー」

「雨も寒さも僕の力でどうにかなります。風の抵抗だってなくしてあげますよ」

「万能だな、お前」

「乗り物酔いは克服できませんが」

 僕はカードを大翔さんに渡した。これで、日本での移動は出来る。

 ただ、誰が運転するんだろう? あと、人数的に、乗り切れない。

 その僕の疑問を解決するように、もう一台、前回乗った車がやってきた。

「このオープンカーは、俺が運転する」

 とっても嬉しそうですね、大翔さん。彩音さんは、呆れたように大翔さんを見ていた。大翔さんは、この車、欲しかったんだね。

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