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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
運命の花嫁
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最強の妖精憑きと最強の魔法使い

 月に一度、公国側のベースキャンプで、おじいちゃん大将をボードゲームで遊ぶこととなっている。ちょっとした、息抜きだ。

 このおじいちゃん大将は、チェスと囲碁と将棋をこよなく愛する人である。子や孫に教えてはいるが、相手にしてもらえない、と嘆いていたので、僕が相手をすることとなった。

 最初は、停戦協定の話し合い中のことである。暇だし、暇だし、ものすごく暇だし、とむしろ僕が相手になってもらった。

 さすがにルールとかがわからないので、おじいちゃん大将に教えてもらった。とても好きなんだろうね。駒の意味とか、成り立ちとか、いっぱい教えてくれて、ついでに、本までくれた。あと、色々な歴史書もくれた。僕は、三国志がお気に入りで、今も読み返している。

 最初は、どれか一つで勝負していたのだけど、僕は頭がおかしいので、いっそのこと、三種まとめてやっちゃいましょう、と言ったら、おじいちゃん大将が面白がって、チェスと囲碁と将棋を同時にさすこととなった。これが、おもしろかった。

 おじいちゃん大将は強い。僕が経験不足だから、とおじいちゃん大将はいうが、そうではない。僕の戦闘スタイルが戦略を必要としないからだ。

「今日も、ボコボコに負けてしまいました。どこがいけないのか、ぜひ、教えてください。お願いします」

 僕は礼儀正しい人には礼儀正しくする。おじいちゃん大将は、とっても礼儀正しく、敵だからっといっても、僕を蔑んだりしない。なので、僕は平気で頭を下げる。

「坊主は、こう、特攻してくるな。もうちょっと他のを使ったらどうだ?」

「そこは、妖精憑きの戦い方をしてしまうからですね」

「そういうものなのか?」

「妖精憑きは、将棋のような戦い方です。相手の妖精を奪って、それを使役する。それは、生まれ持った力が物を言います」

「そうか。それが出てしまうと、あれだな、ワシには勝てんな」

「僕もこういうことの切り替えがうまくなくって。もう少し、勉強します」

「前より、手ごわくなってきてるぞ。ほら、新しい本を持ってきた。読みなさい」

「ありがとうございます! これ、最近の戦歴データですね。へえ、こういうのも簡単に出来るのは、公国の科学ですね」

「どうだ、公国に留学してみるか?」

「………」

 無言である。絶対にこたえてやらない。

 このおじいちゃん大将は、どうしても、僕を取り入れたい。別に妖精憑きだから、とか、王国の王族だから、とかではない。ただ単に、気に入られただけだ。

 停戦協定が終わったあと、おじいちゃん大将は、泣いて、僕の別れを惜しんだ。こんなふうに扱われることがない僕としては、実のお祖父様よりも祖父らしいな、と思ったほどだ。

 そこで、おじいちゃん大将は考えた。僕を養子にしてしまおう、と。

 それは無理です、となった。当時は、王太子だったし、離宮に幽閉されていたので、まず、外にも出られないのだ。

 と説得したのに、なんと外に出られるようになって、貴族の養子になったので、晴れて、僕は自由となった。これを聞いたおじいちゃん大将は、ともかく喜んで、あの手この手と僕を誘惑する。

 最近は、ハニートラップなんかしかけてくる。女性率、高いよね。僕には仮とはいえ、婚約者のスズがいるから、絶対になびかない。

 おじいちゃん大将としては、スズを養女にしたかったそうだ。

「あの子はな、物凄く能力が高かったんじゃ。なのに、軍部のやつらが、悪魔憑きだから、とかいって、手放さん。ワシが強硬手段に出ようとした時には、どっかに隠された後じゃった。あの時、もうちょっとはやく養女にしていればなー」

 物凄く後悔していた。

 スズは悪魔憑きとして軍にいれられてすぐ、色々とテストをされた。すると、物凄く頭がよいことがわかり、おじいちゃん大将は、ぜひ養女に、と言ったそうだ。しかし、軍部はせっかく手に入れた悪魔憑きを盗られるわけにはいかない、とスズを隠してしまった。

 このおじいちゃん大将の所にスズが行っていれば、あんな公国のオス猫どもの慰み者にされることはなかっただろう。本当に、皮肉な話である。

 おじいちゃん大将は、スズに会った時、泣いて土下座した。スズはびっくりしていたが、おじいちゃん大将は、スズの処遇に強く責任を感じていた。全然、悪くはないのだけど、大人であり、それなりの立場だったので、無関係ではいけない、と言っていた。本当にいい人だ。だから、僕はおじいちゃん大将のことは大好きだ。

 だからといって、僕は公国には行けない。いや、行くけどね。調べないといけないことがあるから。でも、公国で一生というわけにはいかない。

 僕は、王族として、王国に生かされている。だったら、僕は王国のために、最後まで生きないといけない。

 だけど、スズは自由だ。だから、もしもの時は、とおじいちゃん大将にお願いしている。





 月一での公国訪問は日本もである。日本の陰陽師一族の一家門である御門家にも行っている。御門家の近くには、聖域があるので、王国の聖域から人っとびである。妖精憑きの力って便利だね。

 御門家では、他の陰陽師一族の面談の仲介をお願いしている。ついでだから、いくつかの聖域を探すつもりだ。乗り物移動は、絶対にイヤだ。

 御門の大将? 的な? 御門のおじいちゃんは、僕と囲碁と将棋である。チェスはやらない、と断られた。残念だ。

 でも、やっぱり戦略がない僕はぼろ負けである。僕は所詮、下手な横好きだ。

「はははは、坊主も、こういうのは弱いな!」

「ありがとうございます。どこがダメか、ぜひ、教えてください」

 最初は険悪だったが、僕とこうやってボードゲームをするようになって、御門のおじいちゃんは簡単に懐にいれてくれる。年寄りは、みんな、こういうのがあると、簡単に受け入れちゃうのか。

「囲碁はなんか、考えているのか? 少し、迷いがあるな」

「聖域のあり方に照らし合わせちゃっているからかも」

 僕は王族だから知っているが、国と国との戦いは、陣取り合戦である。聖域をいかに自国に染めるか、それが大事だ。

 今のところ、王族と皇族が出来るらしいのだが、検証の段階である。そこで、ちょっと迷いが出てしまって、負けちゃったんだな。

「将棋はあれだな、特攻だな」

「おじいちゃん大将にも同じこと言われた。僕はね、戦略が向いてないんだよー」

「あんなに頭がいいのにか?」

 次はチェスだと、御門大翔さんが待っている横で口をはさんでくる。うん、そうだね。頭がいいのと戦略はつながっているように見えるよね。

 陰陽師と妖精憑きの戦い方が違うので、間違った認識をされてしまっている。

「よかったわね、負けて。もっと負けて、負けることを覚えたほうがいいわよ」

「勘違いしているようですが、僕は王国では負けっぱなしですよ」

 御門彩音さんと大翔さんはびっくりした顔する。僕は、こう見えても、敗者の恥辱をいっぱい舐めさせられています。

「まず、僕は最強の妖精憑きですが、最強の魔法使いではありません。最強の魔法使いは、僕の師匠のアランです」

 元は帝国の魔法使いだったアランは、いろいろとあって、今は王国の北の砦の住人となっている。僕は、アランに魔法使いの手ほどきをしてもらっているが、あの人には、一生勝てない。

「陰陽師と妖精憑きでは、まず、概念が違います。陰陽師は、四つの属性を持つ妖精を操る? みたいな感じですよね。妖精憑きは、全属性の妖精を使役しています。だから、妖精憑きに得意な属性なんて存在しません。全部、出来て当たり前なんです」

「それじゃあ、陰陽師も、最初はそうだったということか?」

「資料がありませんし、僕が見た限りでは、そういうふうに進化していったようですね。妖精は生き物としての価値観を押し付けられたものです。それに固定されてしまったのでしょう。王国や帝国は、妖精は神様の使いなので、万能な扱いです。属性が偏ることはありません」

「信仰か」

「そういうことです。そして、神様に愛され具合で、妖精憑きの力加減が決まります。僕は愛され具合がおかしいので、最強の妖精憑きです。しかし、このように、将棋とかやらせてわかると思いますが、僕はそこまで優秀ではありません」

「え、あれで」

「お前、努力している人全てに謝れ」

「もう、僕の頭の回転と、賢さは別なんです!! 回転がよいからって、賢いとは限らないでしょう!!」

 なんで、僕は頭が悪い、なんてでかい声で言わないといけないかな。恥ずかしい。

 言いたいことは通じたので、納得する二人。

「さて、ここで、最強の魔法使いの登場です。ちょうどいいので、将棋の盤で説明しましょう」

「え、やるの?」

「大丈夫、説明に使うだけですか」

 駒を並べると、大翔さんがとっても焦る。次は大翔さんの番だから、大丈夫です。

「まず、御門のおじいちゃんが、僕のお祖父様、こちらが僕だとします。戦うと、このままです」

 僕は何もしない。

「動かないけど」

「動きません。僕とお祖父様は血縁関係です。妖精の盗りあいが出来ないのです。妖精憑きの戦いは妖精をいかに盗るかですが、血縁同士は、妖精が迷うので、出来ません。さて、ここに、魔法使いがきます」

 大翔が持っているチェスからキングを持ってきて、御門のおじいちゃんの王の駒の横に置いた。

「こうなります」

 僕の陣営の駒は、王を残して全て、御門のおじいちゃんのほうに持っていかれる。

「魔法使いは妖精を使いこなすための訓練を受けています。お祖父様は、妖精いっぱい持っていますが、残念ながら、使いこなせません。そこで、魔法使いに妖精を貸し与えて、使役させるんです。僕とお祖父様は血縁なので、お互いの妖精は間違えてしまいます。魔法使いはそういう術を持っていますので、結果、僕の妖精はお祖父様に全部とられます。これが、魔法使いです」

「その人、最強じゃない!」

「魔法使い一人だったら、僕が勝てます。ですが、魔法使いとお祖父様が組むと、僕は完全敗北です。さて、ここからが、頭の良い人悪い人の話になります」

 僕は将棋の駒をいくつか並べる。

「陰陽師は、いくつかの属性を使う、という話ですが、魔法使いは、いくつかの行動をさせるのです。まず、火をおこす、風を呼ぶ、水を呼ぶ、土をほる、とか色々ですよね。この動作を同時にいくつ出来るか、が頭の良さです。僕は、四つまでしかできません」

「それは、頭が良いのではないの?」

「そうですね、僕は頭の回転が良いので可能としていますが、そうではなかったら、せいぜい一つでしょう。お祖父様は、五つまでは可能だと言ってました。ちなみに、僕の師匠のアランは、五つ以上です。実際に、最高いくつの動作が出来るのか、僕も知りませんし、アランは言いません。これが、頭のよい人なのです。きっと、アランだったら、ここでは全勝でしょうね」

 アランは実はものすごく頭がいい。帝国では、魔法使いの最高峰である筆頭魔法使いにさせるために、かなり高度な教育をされている。お陰で、アランは魔法使いでは世界一となった。

「その人とあなたのおじいちゃんが一緒になれば、王様になれるじゃない」

 彩音さんがいうのも、もっともである。アランが本気になれば、王国も帝国も支配出来てしまう。お祖父様がいるので、聖域の陣取り合戦をすれば、最強だろう。

「若い頃に無茶をしたから、疲れたんだって」

 詳しいことは、僕も知らない。アランは、色々と苦労したそうだ。北の砦は、何もないところだ。そこで日がな一日、ぼうっとしているのが、アランの幸福だ。

「よし、次は俺だ」

「お手柔らかにお願いしますよ。僕、本当に弱いから」

「これで勝てなかったら、大人の沽券がな」

「あ、大人気ないんだー」

 一応、いくつか僕に有利にしてくれたけど、やっぱり、負けた。僕は戦略家にはなれない。

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