とりあえず、一段落
行く時は、乗り物いっぱいで、お腹いっぱいになるくらい吐いたというのに、帰りは聖域通してだから、一瞬である。
「また、遊んでください」
「来るな!!」
御門のおじいちゃんが、むちゃくちゃイヤがった。せっかく、簡単に行き来が出来る道が見つかったので、ぜひぜひ、また来たい、というか、来る。
「彩音さん、他の陰陽師、紹介してくださいね」
「乗り物酔い、大丈夫? 吐いたら弁償してもらうから」
「え、ここから歩いて行けないんですか?」
日本の歩き方を開いて、だいたいの位置を指さしで教えてもらう。うん、魔法使えない。日本って、地図ではちっちゃいけど、広いんだね。
「なんだ、坊主、車酔いするのか。情けないな」
すっかり大翔さんは、僕のことに馴れた、というか、感覚が麻痺して、バシバシと背中を気安く叩くくらいには、仲良くなれた。武器さえ取り上げちゃいえば、話し合いで解決出来るよ。
「もうちょっと遊んでいたいけど、仕事があるからなー。虐待だよ虐待」
「その能力では、仕方がないわね」
「右に同じ」
御門家の皆さんは、僕のこと、同情してくれない。アリスさん! 慰めて!!
「ポー、帰ろう」
スズはともかく帰りたがる。スズのルーツがいっぱい溢れているのに、何もせずに帰るのは勿体ないと思うのは、僕だけか。
帰りたがっているのは、スズだけではない。カイトも愛しの奥様に会いたいので、帰りたがっている。剣をガチャガチャといじって、イライラしている。大好きだもんね、聖女様のこと。
「はいはい、帰ります。それじゃあ、また決ますね」
「帰れ帰れ!!」
「ええ、冷たいなー、御門のおじいちゃん」
邪険に扱われるのも馴れた。僕は笑って、王国に帰った。
王国に戻れば、いつもの一貴族である。戻ったので、北の砦にあるてれびでんわで、帰郷を知らせた。本当に、魔法で帰っちゃったから、アリスさんたちは驚いていた。
日本の滞在期間が短ったのもあるけど、乗り物が克服出来ていないので、他の陰陽師とお話できなかったのは残念でならない。ついでに、日本の聖域をいくつか見つけたかった。
この旅は、妖精のあり方のよい勉強になった。日本は、契約を元にして、妖精を縛り付けたり、使役したりしている。たぶん、他の地域も、そういうものがあるのだろう。
王国や帝国は、妖精憑きが生まれ持った妖精を使役して、魔法を行使しているだけだ。だから、選ばれた者しか魔法は使えない。
陰陽師もそうなのかもしれないが、体系化されている。契約術式が一族ごとに確立されているので、ちょっと才能があれば、妖精を使役出来るようになるのだろう。そこには、神の祝福とか、そういうものは関係ない。
御門にある古書を一通り読んでみたけど、王国や帝国とはまるで違う世界だった。日本とかには必要なのだけど、こっちにはいらないな。また、毒のような知識をいれちゃったよ。もう、毒におかされまくりだ。
一度は公国に行ったので、カイトやハインズはどうなるのかな? と心配はしたけど、相変わらずだ。二人は、王国の中に強い執着があるので、公国の科学には魅力を感じなかったのだろう。お土産も買わなかったなー。ぶれない二人だ。
一日の終わりは、スズの添い寝である。スズは、公国の服をいくつか持ち帰って、夜着として使った。今日も、露出度が高い服を着ている。
「ポー、今日の服、どう?」
「似合う似合う。おやすみ」
「もう、ちゃんと見て!」
「見れないって」
こんなに密着していて、見れるわけがないでしょ。僕はスズの柔らかい胸に顔を埋める。また、胸が大きくなったような気がする。いつまで大きくなるんだろう。
僕の添い寝はまだまだ続いている。もう、添い寝なんて僕は必要ない。これは、スズのためだ。
スズは、公国時代、夜の奉仕を常習化されていた。そんな彼女を一人にすれば、そういう悪習から抜け出せなくなる。だから、僕はスズを普通に戻すために、添い寝を続けた。
一年経てば大丈夫かと思ったけど、彼女のベクトルが僕への好意に向いてしまって、離すのが難しくなった。
スズはわかっていない。スズは僕に好意を向けているけど、それは、最悪な環境から救ったからにすぎない。それは、たまたま僕だっただけだ。他の人でも、助けてくれたのなら、その人に好意を抱いただろう。
困ったな。このメス猫は、いつかは誰かに引き渡さなければならない。そう思って、躾けてきたのに、猫だから、なかなか思うようにいかない。犬として飼えばよかった。
手癖の悪いメス猫は、僕の体をまさぐる。
「ポー、気持ちいい?」
「そういうのは、無理だから」
カイトに、こういう時のコツを教えてもらったので、どんなに触っても、僕は反応しない。
「ほら、寝て。僕は眠い」
「はい」
僕が力をこめて身を寄せれば、スズも諦めて、眠った。
今日も、僕は、眠れそうにない。