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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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陰陽師の要求

 入れば、いるはいるは妖精憑き。陰陽師って、みんな、妖精憑きの集まりなんだね。彼らがいう、式神は、だいたい、一人に一体。スズみたいに二体の人はいない。スズが珍しいのだろう。

 集まる陰陽師のど真ん中に僕は座らされる。さすがに正座は出来ないので、普通に座るだけである。

「お招きありがとうございます」

「芦屋のことを聞きたいという話だな。だが、芦屋のことは、もう、どの家もわからない。芦屋は、孤独な陰陽師だ」

 話はこうだった。


 陰陽師は普通、一族で力をあわせて生きていくものなのだが、芦屋は一子相伝の家だという。そのため、芦屋の持つ式神は、強力な力を持っているという。

 芦屋も昔は陰陽師の集まりに来たりしていたが、突然、日本を出ていって、そのまま、連絡がとれなくなったという。消息もわからないため、これまで、芦屋は滅んだと言われていた。

 そこに、公国の軍部から、芦屋の式神について、陰陽師の組織に連絡が入った。陰陽師としては、それが芦屋の式神かどうか、確かめるために、わざわざ、その場を作ったという。


 と簡単に説明をされた僕は、スズの受け入れ先がないという事実だけがわかっただけである。可哀想に、スズは天涯孤独だ。

「そこで、相談なんだが、その式神を譲ってくれないだろうか」

 子ども相手なのだろう。相手はとんでもないことを要求してくる。

 僕は、聞き間違いかな、と首を傾げてみた。ほら、乗り物酔いで、僕の耳もおかしくなったのかもしれない。

「よく、聞こえませんでした。もう一度、お願いします」

 笑顔で聞き返してみた。

「芦屋の式神を譲ってほしい。もちろん、それなりの礼はする」

「あ、妖精の売買ですか」

 妖精の売買は、珍しいが、王国でも帝国でも存在する。妖精の祝福具合によっては、物凄い金額になるけど。

「あれは、スズのなので、売買は出来ませんね」

「なら、芦屋の生き残りにお願いしてもらえないだろうか」

「いくらですか?」

「子どもには理解できないほど高額だ。百万とかでどうだ」

「僕の国では、金貨一枚が、だいたい、こちらでは十万くらいだと計算されています」

 僕は笑みを消した。

「妖精の祝福を散々受けた男は、金貨十枚で売って、金額が見合わなかったようで、家ごと没落しました。妖精は、そんなに安くない」

 ざわり、と周りの空気が騒ぎ出す。陰陽師たちが、式神を動かしているのだろう。スズの妖精は、今、スズの傍にいるので、僕は丸腰だ。

「坊主、なめた口をきくなよ。さっさと話をつけてこい」

「科学の武器じゃないから、神様は動かないか」

 僕は式神に威圧される。他にも、何か動かしているようだ。日本にいる妖精が、呼び出されている。

 隣りに待機していたカイトとハインズが襖を切り裂いて、乱入する。剣を振り回され、陰陽師たちは、驚いて、道をあけた。

 僕を左右に囲むようにしてカイトとハインズが立って、剣を構えた。

 バシン、とすごい破裂音とともに、僕を中心に、陰陽師たちが吹き飛んだ。

「この、坊主、何をした!?」

「ここにいる妖精を盗っただけだよ」

 神によって定められた組み合わせで生み出された僕に、盗れない妖精はいない。ついでに、呼び出された妖精も、僕の管理下に置かれ、顕現する。

「欲しかったら、僕みたいに盗ればいい」

 遠くから、科学の武器の作動音がする。ダメだっていったのに。

 僕が気づいてしまったので、科学の武器が暴発する。

「言ったよね。ダメだって。君たちは、適当に組み合わせて生まれた妖精憑きだけど、僕は、聖域の選定によって生み出された妖精憑きだ。神の加護が、半端ないんだよ」

 僕が歩くと、さっきまで僕に偉そうにふんぞり返っていた男が「ひぃ」と悲鳴をあげる。

「いくらだったらいいんだ!?」

「聞いてなかったの? 妖精は、金では買えないから、盗れといったんだ」

「ば、バケモノっ」

 陰陽師の力全てを僕が制御下に置いてしまったので、誰も逆らえない。

 僕が手を振ると、カイトとハインズは剣を下すが、抜いたままだ。

「僕はね、スズの家族を探したかっただけだ。こんなこと、望んでいない」

 話が通じないことは、悲しいことだ。





 話し合いは滅茶苦茶になったけど、間に彩音さんと大翔さんが入ってくれたので、まあ、どうにかおさまった。

「申し訳ない!」

 大翔さんが僕に土下座で謝った。かなり失礼なことをした自覚があるのは良いことだ。

「謝罪は受け入れました。僕も、子どもですから、ついつい、怒ってしまってすみません」

「いや、我々は、君を甘くみていた。反省している」

「芦屋のことは、あれ以上、わからないのですか?」

 部屋には僕とハインズ、カイトの三人だけど、スズに聞こえると悪いので、小さな声で尋ねる。一応、スズはロバートと一緒に彩音さんの案内で、庭園を歩いていた。

「祖父が言った通り、あれだけだ。今回は、欲が出てしまって、こんなこととなってしまった。申し訳ない」

「陰陽師の一族は、他にもあるのですか?」

「あるが、芦屋のことは、どこも同じ話をするだろう」

「そうですか。では、スズを欲しいという一族はいますか?」

「あれほどの式神だ。誰だってほしい」

「式神ですか」

「血筋で受け継がれるから、彼女を取り入れたい一族はたくさんいる。ウチだって欲しいくらいだ」

「わかりました。すみません、壊したものは、僕が弁償します。アリスさんに請求してください」

「いや、こちらが悪かった」

 お金いっぱいあるのに。

 スズの妖精が近づいてくる気配がした。スズが帰ってきたようだ。大翔さんも、わかるのだろう。

「あ、そうだ。あっちにある、聖域、行きたいのですが、いいですか?」

 こっそり行ってもいいのだけど、一応、許可を貰っておこう。

 簡単ではないようで、大翔さんは悩んでいた。僕が指さす方にある聖域は、やはり、許可が難しいようだ。

「あそこは、何かと不幸があって、封印されたんだ」

「それは、きちんと浄化していないからですよ。あそこで、誰か、悪さしたでしょう。聖域がおかしくなっていますよ」

 陰陽師のことを調べれば、何か儀式を行ったことは、すぐにわかった。人でも呪ったのだろう。

「せっかくの聖域です。あそこから、帰りましょう」

「帰るって」

「知らないのですか。聖域同士、つながっているんですよ。僕が願えば、僕の国にある聖域に帰れます」

「………なるほど、バケモノだ」

 大翔さんは、足を崩して、僕をあざ笑った。

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