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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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陰陽師の館

 体を休めたけど、朝から絶食の僕の体調は最低だった。

「やっぱり、お薬飲もう! 体によくないよ!!」

 スズが僕のことを心配する。薬を飲めば、よくなるらしいけど、そういう問題じゃない。

「ダメだ。僕の乗り物酔いは、そういうレベルじゃない」

「そういう、おまじないをしてあげようか? お酒に酔いにくくなるやつ」

 陰陽師の何かにあるのだろう。彩音さんが提案してくれるが、断固、拒否である。

「僕の乗り物酔いは、僕の頭と体が原因だ。だから、無理だ」

 乗り物酔い、実はお祖父様もする。乗馬はいいのだけど、馬車はやっぱりダメだった。

 これは、頭の能力が高いけど、体があっていないことが原因だ。僕は普段から、仕事も勉強も高速で終わらせる。それは、普段の生活もそうなるのだが、体はその処理に付いていけてないのだ。乗り物に乗ると、その情報を高速で処理してしまう。しかし、僕の体は普通なので、追いつかない。結果、体のほうが追い付こうと疲弊する。それが乗り物酔いだ。

 たぶん、薬でどうこう出来るものではない。だいたい、テレビだって、気分悪くなる時がある。

「殿下殿下、薬を飲みましょう。ほら、俺が買いますから」

 カイトは貰った通貨を使ってみたいんだろうな。とってもウキウキしてる。それよりも、薬を買えるの? 日本語、読めないし、話せないでしょ。

「車を汚されるのは、絶対にいやだから、薬を飲んで。これ、秘伝の薬だから」

「薬はダメだって言ったじゃないか!?」

 彩音さん、昨日の話、わかってない!!

「だって、吐かれたら、私の車、臭くなるじゃない!! クリーニングで落ちなかったら、どうするのよ!?」

「僕が弁償しますから、大丈夫ですよ」

「子どもが何言ってるのよ!!」

「僕はこう見えても、お金持ちなんです!!」

 彩音さんは、どうしても、僕を乗り物に乗せたくない。わかる! 僕も乗りたくない!!

 だったら、陰陽師どもを連れて来いよ、と叫びたいけど、我慢する。僕がお願いしたのだから、こういう所は、礼儀を重んじないと。

「こういうのはどう、寝る」

「僕は眠りが浅いんです!」

 幼い頃に、誘拐やら何やらされてばかりいたので、安眠なんて出来ないんだよ!! くそ、解決策なんて見つからない。

「ポー様、地図見ましょう。ほら、場所が近かったら、転移できますよ」

「え、それはまずい」

「僕ら異世界人みたいなものです。場所がわかっても、意味ないですよ。ほら、現在地と行先を教えてください」

 日本の歩き方、という公国ではメジャーなガイドブックを出して、彩音さんに聞いた。

 彩音さんにとっては、かなり難しいのだろう。大雑把ながら、地図上で二点を指す。そこから、現在地から目的地までの簡単に距離を計算する。

「無理!」

 僕は、袋を持って、彩音さんの車に乗り込むしかなかった。





 朝食を抜いたので、吐くものは胃液のみだった。お陰で、彩音さんの車は、まあまあ無事だった。後で、妖精に掃除してもらおう。臭いは完璧にとれるよ。

 連れてこられたのは、自然豊かな所だった。乗り物を降りて、しばらく歩くと、大きな門があらわれた。

「これはすごいですね」

「わかるの?」

「あっちに、聖域の気配があります」

 てっきり、聖域は全て破壊されたものとばかり思っていたが、そうではなかった。放置はされているけど、聖域は息づいていた。

 日本に乗り物で降り立った場所の近くにも、いくつか聖域の気配があった。といっても、亜種みたいなものだ。王国や帝国並の聖域が、今いる場所の近くに息づいていた。僕が来たことに、聖域が反応している。

「そっちは、関係者以外、立ち入り禁止になっているの。私有地だから、誰も入れないわ」

「ぜひ、入りたいですね」

 僕が呼ばれている。ついつい、そちらに足が向いてしまう。僕は引っ張られている。

「ダメよ! 行くのなら、許可をとらないと!!」

「許可? 誰が? あの聖域は、神の持ち物ですよ」

「ここは日本なの! そういう決まりがあるのよ!!」

 僕が止まらないので、力づくで止める彩音。

「殿下、いけませんよ」

「殿下、挨拶が先だ」

 妖精男爵から借りた武器を持っているハインズとカイトが止めた。あの武器が、聖域と僕の繋がりをきってくれた。

「すみません、飲まれました」

 時々、こういうことがある。王国でも、聖域に近づくと、そのまま、連れていかれてしまうことがある。

「許可がおりれば、行けるから」

「行く時は、ハインズとカイトを連れていきます」

 呼ばれている以上、行かないといけない。何かあるのだろう。

 僕の寄り道があったが、どうにか、大きな屋敷に到着した。日本の城というわけではないが、いくつかの屋敷が横につながっていた。入ると、スーツ姿の男が出迎えてくれた。

「これは、すごいのを連れてきたな」

 男は、スズの妖精二体を見て驚いた。この男にも、妖精が一体憑いている。陰陽師なのだろう。

「こちらは、御門家の次期党首の御門大翔。私とは、従兄妹なの」

「僕は、ポーといいます。日本語は、僕だけしか話せません」

 簡単にスズたちを紹介して、靴を脱いだ。中では、靴ダメなんだよね。

「今は亡き、芦屋家の式神がいるとは」

「僕たち妖精と呼んでいるのですが、式神なのですか?」

「大きな枠にあてはめると、そうだろうな。日本での妖精は、たぶん、妖怪があてはまるだろう。妖怪はわかるかな?」

「一年間、みっちり勉強しました。天使から悪魔、妖怪まで網羅しましたよ。そういう図鑑があって、便利ですね」

「子どもなのに、すごいな」

「僕は、神様に定められた妖精憑きです。普通じゃありません」

「はははは」

 こういうのを中二病とかいうのだけど、仕方がない。本当なんだから。

 長い廊下を歩く途中、物凄く古そうな蔵書の部屋を通りかかった。風を通して、状態をよくしているのだろう。

「これはすごいですね。見ていいですか?」

「さすがに読めないだろう」

 笑っているが、止めない。止められないので、僕は遠慮なく手にする。

「どれぐらい、見ていていいですか?」

「準備もあるし、三十分くらいだけど、大丈夫か? 子どもには、難しいぞ」

「三十分ですね」

 僕は、さっそく、いつもの通りにページをパラパラとめくった。

 彩音さんと大翔さんが、僕の両隣りに立って、僕がどんどんと本を棚に戻しては取ってをしている動作を眺める。

「読んでる?」

「読んでますよ」

「読めるの?」

「源氏物語は、よい勉強になりました」

「ちょ、ちょっと待って!!」

 僕を止めようとする大翔にカイトが剣の切っ先を向ける。大翔はカイトの殺気に、動けなくなった。

 僕は目だけでカイトに剣を下すように命じる。それだけで、カイトは剣を下すが、殺気はそのままだ。

「三十分で終わりますから、大丈夫ですよ」

 僕は、貴重な資料を読破した。





 読書が終わったので、先に進むのだが、大翔は黙り込んだままである。カイト、怒ると怖いから。

 カイトの隣りのハインズはいつも笑みを張り付けているが、こちらは目が笑っていない。こっちも見方によっては、怖いよね。

 スズは、ロバートに守られながら、あちこちを眺めつつ、遅れて歩いている。はぐれても、見つけられるし、ロバートがいるから、心配はない。

「ここからは、君一人だ。他の人は隣りで待ってもらう」

「子ども一人ですか?」

 意外だった。てっきり、スズも一緒かと予想していた。

 彼らの目的は、芦屋の式神だ。だったら、スズを中にいれるだろう。

「言葉が通じないだろう。それに、君の護衛を入れるわけにはいかない」

「僕には絶対にやってはいけないこと、皆さん、わかっていますよね?」

「彩音から聞いてる。きちんと守る。さあ、入って」

 スズが不安で、僕の服を引っ張る。それを僕は微笑んで、離させる。

「カイト、ハインズ」

 カイトとハインズが剣の柄を握って、僕の命令に返事をした。

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