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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
13/56

公国へ

 婚約パーティは無事、終了した。帝国側は、やはり僕と年の近い皇女を連れてきたのだが、残念なことに、話があわなかった。可哀想なので、妖精男爵が最近、養子にしたという子を紹介した。その養子、面差しが皇女とどことなく似ていた。





 しばらくして、公国側から、日本へ行く準備が出来たという連絡がきた。もっと時間がかかると思ったけど、さるおじいちゃん大将が僕のことを大変、気に入ってくれて、力をかしてくれた。ハニートラップしかけられているから、行く時は気を付けよう。なんでも、おじいちゃん大将は、僕のことを孫か息子にしたいらしい。

 人選は、決まっていた。僕でしょ、スズでしょ、ロバートでしょ。

「お祖父様、カイトとハインズ貸してください」

 たまたま、遊びに来ていたお祖父様お願いする。本当に遊びに来たんだよ。

 公国とのやり取りで、ボードゲームで遊ぶことがあった。僕もお祖父様も頭が普通じゃないので、将棋とチェスと囲碁を同時に打って遊ぶ、ということをおじいちゃん大将とやっていた。それがいたく気に入ったようで、お祖父様は僕を相手に遊ぶのだ。

「その人選は、何か理由があるのか?」

「カイトは公国の女性とは面識ありますから。あと、ハインズはやっぱり組ませたほうがいいと思いました」

「ああ、向こうもそういうのが好きなのか」

「僕も挑戦したかったのですが、カイトに拒否されました」

「俺は無理だったぞ」

「相手はカイトですか?」

「その時はいなかった。ハインズとあいつの元彼だ。無理だった。投了だ」

「手加減してくださいよ!」

 全部、負けた。孫に容赦なさすぎだよ!?

「男ばっかりでいいのか?」

「公国は、どうしても僕を誘惑したいので、女性をあててくるんですよ。だったら、向こうが喜びそうな人を連れてって、そっちに誘導しましょう」

「子作りしていいんだぞ」

「僕、まだ十一歳ですから!?」

 学校にも行っていないような子どもに、なんてこというんだ、この大人は!?





 というわけで、少数精鋭となって、ベースキャンプに到着した僕は、絶望した。

 僕は基本、遠出する時は、魔法か乗馬である。馬車は使わない。だって、乗り物は酔うんだ。これは、絶対だ。

 ベースキャンプからの移動手段は、空飛ぶ鉄の乗り物である。僕以外は、普通に乗り込む。

「大丈夫よ、落ちないから」

 アリスさんが斜め上のことを安心させようという。違う、落ちるなんて思ってない! むしろ、落ちたって、僕は助かるんだから!!

「僕は魔法で行きます!」

「ポー様、妖精の力が及ぶ範囲は限られていますよ。地図を見ましたが、無理です」

「イヤだ! 吐く!! 絶対に吐く!!!」

 見ただけで、わかる。僕はどの乗り物でも、乗り物酔いはする。絶対だ。

「お薬飲みましょう」

「ダメです! 薬は絶対にダメです!!」

 アリスさんが薬を持ってきたけど、断固、拒否する。僕は基本、薬を飲む生活をしていない。薬は何が起こるかわからない。

「ほら、行きますよ」

「こら、不敬罪だ!!」

 そして、カイトに無理矢理、乗せられるのだった。





 アリスさんは僕のために、最短ルートで日本に連れて行ってくれた。しかし、どこまでも乗り物である。僕は、移動中、絶食状態だった。

 ともかく、吐いた。胃液まで吐き出した。

「時々、乗り物に乗れない人がいる、という話は聞いたことがあるけど、酷いわね」

 アリスさんもびっくりだった。

 僕も、こんなに色々と乗り物の乗り換えをさせられるとは、びっくりだよ。公国は広すぎる。こんなに広いのに、どうして王国の領土狙うのかな??

 ここに来る前、地図を見せてもらったけど、本当に広い。こんなに広いので、帝国や王国なんて、いらないと思う。リストで見せられた資源なんて、帝国も王国も使わないものばかりだ。

 科学に僕は完全敗北しながら、やっと日本の宿泊施設に到着した。そこまでは、アリスさんのエスコートである。

「大丈夫、ポーくん」

「僕は、絶対に王国に帰ります! 公国ムリ!!」

「薬飲めば、すぐよくなりますよ」

「薬、ダメ! 絶対、ダメ!!」

「こうなると、ポーくんも、年相応ね」

 アリスさんは、とても嬉しそうに笑う。僕はこの乗り物酔いは、全然、嬉しくない。克服する手段がないからだ。

 僕がこんなに酷い状態だというのに、他の人たちはケロリとしている。カイトなんか、センサーとかに引っかからない剣の手入れなんかしていた。

「一応、ニッポンは帯剣は禁止よ」

「あれ、絶対にわからないようになっています。妖精が鍛えた剣なので」

 さすがに丸腰で公国に行くわけにはいかないので、妖精関係の武器を妖精男爵から借りて来た。

 借りた時、色々とお手伝いさせられたけど、それ以上に良いものだ。

 一度、日本についてしまえば、帰る時は一瞬である。見知らぬ土地に行く時は、先に妖精と飛ばして、安全地帯を確保するので、日本までの転移は不可能だった。逆に、王国は勝手知ったる場所で、転移可能の定位置はいくつかある。だから、帰りは勝手に帰れるのだ。

 そこのところは、アリスさんには話してある。

 アリスさんは、建物の中だけど、多くの人が行き交い所まで案内してくれた。そこで、人を待つのだろう。

「ここからは、現地の人の案内になるわ。到着したら、連絡するように言われているのだけど、来たようね」

 たくさんの人が行き交う中、スズと同じ髪と瞳の色を持つ女性がまっすぐ向かってきた。

「また、すごい人ですね」

「わかりますか?」

「妖精憑きですね」

 なんと、スズと同じような人に近い妖精を一体、連れてきていた。スズにも見えているようで、驚いている。

「ようこそ、日本へ」

 にっこりと友好的に笑って挨拶をする女性。彼女が連れている妖精は、スズの妖精二体と何やらお話をしているが、周りの声が賑やかすぎて、聞こえなかった。

「彼女は、陰陽師なの。御門彩音さん」

「よろしくお願いします」

 握手を求められたので、僕たちはそれぞれ、自己紹介をして、握手をする。

 ここからは、日本語のみの対応となるので、僕と彩音さんだけが話してばかりとなった。

「いくつか、僕に対しての約束事があります。それだけは守ってもらいます」

「無理難題ではないでしょうね、坊や」

 初対面だから、子ども扱いは仕方がない。それに、子ども扱いされることはいい。

 僕、王国では子ども扱いされていない。それどころか、スズは子作りしよう、と迫ってくるし。

「簡単です。

 僕に科学で攻撃をしてはいけません。

 僕に薬を盛ってはいけません。

 以上です。この二つは絶対に守ってください。相手の命が危ないです」

「大丈夫よ。そんなこと、しないから」

「笑っていますが、被害者いっぱい出ましたからね。僕は平和にいきたいんです」

 わかっていないな、この人。一応、言うだけ言ったので、後はどうなっても、僕は責任をとらない。

 アリスさんが、もの言いたげに彩音さんを見ているけど、言わない。体験しないと、人は学ばないのだ。

「移動は、明日からにしましょう」

「あの、移動は、乗り物ですか?」

「私が運転する車なの。あなたに、というより、その式神に会いたい陰陽師が、集まっているのよ」

「………」

 とっても嬉しい話なのだが、乗り物の話は、全然、嬉しくない。

 僕は死にそうな顔をして黙り込んでいるので、アリスさんがかわりに彩音さんに説明してくれた。





 明日の朝から食べられない僕は、憂鬱になりながら、最後の晩餐を食べて、部屋で休むこととなった。

 部屋は二つ用意されていた。一つは、僕とスズが、もう一つはロバートとカイトとハインズが使うこととなった。使い方は、一応、書いてあるし、大丈夫だろうと思うけど、スズには簡単なレクチャーを丸投げして、僕はベッドで横になった。

 移動中は、椅子に横になるか、ちょっといい感じの椅子に横になるか、なので、ベッドは嬉しい。寝心地も最高だ。お湯も簡単に出るので、湯あみも楽だ。

 こういう所、お金はどうしてるの? とスズが心配していた。スズでも、ここが高級なのはわかるのだろう。これ、資源のやり取りで得た費用から出ている。

 本当は、お互い、物の交換とかがよいのだけど、王国にとって公国の物は毒にしかならない。かといって、ただで渡すわけにはいかないので、公国側の通貨を積み立ててもらっている。使い道は、王国に戻れなくなった王国民への支援だ。一度、公国に渡ってしまった王国民は、王国に戻れない。それまでは、公国が支援をしてくれていたが、そこに、王国から資金援助を加えることとなった。

 今更な対応だけど、出来る骨組みが出来たので、活用した。それでも、大金が残るので、今回、使わせてもらっている。婚約パーティでスズが着た着物の費用も、そこからだ。

「ただいまー」

 公国の文化は慣れているので、スズは軽い足取りで部屋に戻ってきた。公国側の服を着ているけど、露出高いな。

「ロバートたちは、大丈夫そう?」

「誰でも出来るよ。ほら、説明文もある」

 僕たちが使っている言語での説明文がある。公国では広く使われているらしい。親切だな。

「スズ、添い寝して」

「うん!」

 嬉しそうに僕を抱きしめるスズ。

「日本は、おもしろい妖精がいっぱいだね。ちょっと煩いから、出てってもらおう」

 せっかくの添い寝なのに、部屋の中は公国の妖精でいっぱいだ。たぶん、僕に憑いてる妖精が珍しくて、見に来たのだろう。僕は妖精に頼んで、追い払ってもらった。

 妖精憑きに憑いていない妖精たちは、文句をいいながら、部屋から出ていった。

「ねえ、ポー、舌いれていい?」

 婚約パーティが終わってから、スズの要求は一段階あがった。帝国からの婚約を断るための偽りの婚約なのだから、僕の立場は弱い。

 スズの柔らかい胸から顔をあげると、欲望に染まったスズの目が、僕をまっすぐ見返す。

「仕方がない猫だ」

「ポー、大好き」

 物凄く長い口づけだった。

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