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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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偽りの婚約

 公爵家に養子となって、もうすぐ一年が経つ。僕は離宮の時みたいに、食べ物に困ることがなくって、幸せだ。夜は、スズが添い寝してくれるから、よく眠れる。これまで、僕の添い寝はロバートだったからね。やっぱり、女の子はいい匂いがしていいね。

 スズの扱いは、まだ不明のままだ。何せ、公国にいたから、知識水準がわからない。言語や文字は問題なく通じている。計算だって、なかなか難しいものまで解ける。

 アリスさんに、学校で使っている教科書を送ってもらって、色々と知識の度合いを調べてみたら、中学校までの知識はあった。勉強は嫌い、といっているが、勉強は普通に出来ている。僕がわからない所は、言葉が足りなくても、一生懸命、教えてくれる。

 お陰で、余計な知識を身に着けてしまった。公国の知識は毒だ、とお祖父様は言っていたけど、まさにそうだ。

 とりあえず、公国関係の本や書類は禁書となるので、僕の部屋は立ち入り禁止となって、掃除はロバートとスズにお任せだ。

 領地や家の運営管理とかは、ザクト叔父上の執務室でおこなった。行けば、山積みである。完全に、僕に丸投げだな。

 僕は書類をパラパラとめくって、ダメなのと良いのを分けた。良いほうは、メモをはさんで、承認をザクト叔父上に丸投げだ。ダメなほうは、一つずつ、ダメな理由をメモ書きした紙を挟んで、それ用の箱に投げ入れて終了。〇×問題は、簡単でいい。

 書類仕事をぱぱっと終わらせて、座り心地が普通の椅子に座って、窓の外を眺める。

 綺麗な庭が広がる中で、ザクト叔父上の愛妻アイリスが、庭を歩いていた。妖精と人の間に生まれたアイリスは、ザクト叔父上のことを心から愛している。愛が深すぎて、ザクト叔父上のために、と無意識に妖精の力を振りまいている。お陰で、ザクト叔父上の領地は一部を除いて、いつも恵まれている。

 ダメな一部は、妖精の子どもを虐待した海の聖域がある街だ。あそこは、まだ子どもだったアイリスを虐待した。ザクト叔父上が保護した時には、アイリスは酷い状態だったという。そして、海の聖域があるにもかかわらず、今も罪人の街として、蔑まれている。

 なかなか、悪い状態となっているので、海の聖域に僕も足を運んでいるが、良くなることはない。妖精の怒りは恐ろしいものだ。

 庭には、スズもいた。スズは、アイリスとニコニコと笑って話をしている。同じ虐待を受けた者同士なので、気持ちが通じるのだろう。本当に、人間は罪深いな。

 笑顔で笑っている女の子を見るのは、とても楽しい。しかし、笑って他人事のようにはしていられないのだ。

 僕は、ザクト叔父上に養子に出されるまでは、子どもを作ってはいけないこととなっていた。しかし、養子に出されて、そういう必要はなくなった。


 むしろ、王族だから作れ、と言われている。


 これは、今、残っている王族たちの現状が悪すぎるからだ。

 まず、国王であるアインズは、結婚して、普通に子どもがいる。こちらは問題ない。子ども一杯でよかったね、後継ぎも出来たね、とよいことばかりである。

 次に、第二王子だったサキトは教会の神官長をしている。神官長、死ぬまでやらなきゃいけないわけでないのに、ずっと続けている。神官は、結婚出来ないので、子どもがいない。

 第三王子だったアルトは僕の父だ。知的障害があるので、僕以外の子どもはいない。

 第四王子だったザクトは、妖精と人間の間に生まれたアイリスと結婚している。しかし、アイリスには子を作る器官がなかった。

 というわけで、スペアとしての王家の血が必要となってきた。お祖父様は、亡くなったお祖母様以外とは子作り出来ないので、無理。僕の母上は魔法使いアランしか見ていないけど、アランは母上のことを孫みたいに見ているので無理。

 結果、まだ成人前の子どもの僕に責任が押し付けられた。大人ってずるいよね。

 僕には子作りするなって言ってたのに。子どもの権利は最低だ。でも、王族だから、権利なんてないか。

 成人まで、僕もまだまだ時間があるし、学校だって通わないといけないので、急ぐ必要はない。


 けど、スズはそうではない。


 僕が悪いんだけどね。スズには今も添い寝してもらっている。スズは迫ってくるけど、僕の忍耐とか精神って鋼鉄だから、全く反応しないんだよ。結果、スズが泣く。既成事実作ってしまえばいい、とか誰かに吹き込まれたのかな? 一度、使用人たちとは、話し合わないといけないなー。

 僕は休憩を終わらせて、裏の仕事に手をかける。ザクト叔父上の机の引き出しをあける。二重になっているので、その下に入っている書類を取り出した。

 公国の密偵は、相変わらずいる。お祖父様の命を狙うことはやめてくれた。ただ、情報収集をしているだけだ。これ、契約違反だから、やめてほしい。わかっているのかな?

 妖精憑きの力で、すぐに公国の密偵は見つかるので、あとはお祖父様時代からの騎士団に監視してもらっている。

「可哀想に。生活も辛そう」

 報告書を読んでみれば、気の毒でならない。彼らはアウトドアを強制的にさせられているのである。しかも、通貨を手に入れるために、仕事もしなければならない。

 王国と公国では、貨幣の取引はしていない。何故かというと、価値観が違いすぎるのと、セキュリティの違いである。王国の通貨は、実は偽造が出来ないように、魔法がかけられている。使うと、偽造がばれるのだ。可哀想に、何度か捕まってた。

 そういう報告書を読んで、片付けると、仕事は終了である。

「もうそろそろ、日本に行けそうだな」

 時間も余裕が出来た。いや、僕は余裕なんだ。公国側の準備に時間がかかっているだけだ。

 週に一度、北の砦で、アリスさんとてれびでんわでの会議は行っている。協定もうまくまとまったし、僕に協力する必要は、アリスさんにはない。これは、アリスさんの好意である。

 スズは、相変わらず、日本に行きたがってないけど。

「ここにいたんだ」

 珍しく、ザクト叔父上が執務室にやってきた。外の仕事が多いから、あまり邸宅にいない。

「アイリスは庭でスズと遊んでいますよ」

「知ってる。ポーに用があったから探してた。帝国から、また、婚約の打診だよ」

「断ってください」

 僕はあからさまに迷惑、と顔を歪める。これまで、王族でも王太子だったから、帝国は婚約の打診が出来なかった。それが、一貴族となったので、妖精憑きの僕を婿に、と申し出てきた。

「難しいんだよ。せめて、何か理由がないと」

「そうですね………スズと名目上の婚約をしましょう」

 ただの思いつきではない。これは、名案だ。

「そんなことすると、また、迫られるよ」

 僕の現状を知っているザクト叔父上。確かに、スズに名目が出来てしまう。

「スズは特別な妖精憑きです。僕とスズの間に万が一にも子どもが出来れば、そっちのほうが価値が高いでしょう。そう、誤魔化してください」

「スズの耳に入ったら、どうするの?」

「僕の鋼鉄の精神には、スズも勝てませんよ。すでに連戦連敗だ。そのうち、諦める」

 それ以前に、僕、子どもだから、出来ない。





 名目の婚約となったけど、スズには理由をきちんと説明した上で、婚約した。書類一枚で出来てしまう婚約なので、面倒がない。

 それに怒るのは、女性側である。

「せっかくなので、パーティをしましょう」

「そうですよ。スズ様を着飾って、きちんとお披露目しないと」

「私たち総力をあげて、応援します!」

 あれ、僕、この公爵家では、二番目に偉いはずなんだけど。一番目はもちろん、ザクト叔父上だ。

 何故か、使用人やら侍女やらが、僕とスズの婚約話を聞くや、叔父上の執務室で仕事していた僕のところに押しかけてきた。一人二人だったら、邪魔、で追い出すのだけど、集団の女性は無理だ。

 僕は書類を手早く仕訳けたのだけど、そこに、パーティの予算案とかがバシンと力強くたたきつけられる。あれ、僕、彼女たちの雇い主なんだけど!!

「ポー様、やりましょう!」

「予算、ありますよね」

「ここでけちるのは、公爵家の恥です」

 ざっと目を通す。完璧だ。つっこむ所がない。

 ついでに、パーティの計画書までばしんとたたきつけられる。あれ、僕、王族なんだけど!!

 ペラペラとめくって流し見する。

「もっとしっかり見てください。ほら、ここです!」

「ここも見てください!!」

「お料理も!!」

 手と口が出てくる。見てるよ。いつも、こんな調子で仕事しているけど、君たち、知らないよね。僕の仕事はこうなの!!

 集団の女性に囲まれ、僕は承認の印を押した。女性には、もっとすごいことで囲まれたいよ。





 結局、婚約パーティをすることとなって、招待者リストは僕が作ることとなった。これ、女性の仕事だけど、スズにやらせるわけにはいかない。まあ、僕、暇だし、いっか。

 そうしてロバートが持ってきた貴族名鑑を見ながらリストを箇条書きしていると、ふと、あることを思い付いた。

「ロバート、スズが着る衣装はキャンセルだ」

「ええーーー!! もう、採寸まですんでますよ。デザインまで決まってて、女性方の熱量がすごいんですよ!!!」

「僕が用意する。ほら、僕の婚約者だから、プレゼントしないと。せっかくなら、すごい一点ものにしよう。出来ちゃったドレス、金を出して引き取ればいい。何かに使うだろう」

 パーティなんて、たぶん、今回一回きりだ。僕はそう思った。貴族の常識は知っているが、そうそう、お祭り騒ぎはしたくないので、断固拒否する。

 リストを穴埋めしていくと、やはり、帝国側と公国側が困る。いや、帝国側はいいんだよ。皇族の誰か来てね、と手紙書けばいいんだから。

 公国側である。一応、スズは元公国民。呼ばなくてもいいのだけど、形式上、呼ばないといけない。貴族、面倒臭いな。

「お疲れですね」

 ロバートが丁度よいタイミングでお茶を出してくる。飲みたい時って、どうしてわかるのか、不思議だ。

「暇なんだ。こういうことは、暇つぶしにならない。はやく、日本に行きたい」

 勉強は終わった。話す練習は、スズの妖精としている。が、ちょっと言葉が古いので、気を付けないといけない。音で聞いた、ですます、とは違っている。じゃー、とか、のー、とかいうので、たぶん、かなり古い話し方なんだろう。





 あっという間に婚約パーティである。もう、ぱっとやってぱっと終わらせたいけど、男と女は違う。まず、女の準備は時間がかかる。早朝からいろいろとやっている。僕はいつもスズの添い寝で寝ているので、早朝からたたき起こされた。僕、ここの主人なのに。

 スズはいろいろと覚悟を決めて準備に入るが、これ、僕も手伝うこととなっている。侍女や使用人が、どうにか勉強したようだが、今回用意した衣装を着せられるのは、僕しかいなかった。

 そうして、準備を終わらせてみれば。

「これは、素晴らしい!」

「神秘的ですね」

「確かに、これは誰も文句が言えまい」

 スズの姿に、感嘆の声があがる。

 スズは、初めて着る衣装に、とても戸惑っていた。

「これ、動きにくいのだけど」

「日本の正装だから、仕方がないだろう。しかも、総絞りの一点ものだぞ。文句いうな」

「言ってる意味がわからない」

 スズは、僕が用意した衣装のすごさがわからない。まあ、僕は勉強したからわかる。

 せっかく、スズは日本出身だとわかったので、日本の正装といわれる着物を準備した。アリスさん、寸法送って、あとは、一番高いので、とお願いしたら、二週間で仕上げて送ってくれた。高けりゃ、文句はあるまい。

 髪型は、侍女たちがいい感じのにしてくれた。さすがに日本髪を結わせるのは無理だし、こういうとこは、似合えば、いいんだよ。

「スズ、ほら、手」

「ポー、似合う?」

「こう見ると、君は日本の人だとわかるよ。綺麗だ」

 褒めていないので、褒めておくと、スズは華が咲くように笑う。女は化けるな。一年前は、がりがりの、色気のかけらもなかったというのに、今では一人の女性だ。

 褒められて、満足したようで、僕のエスコートを受けて、会場に入った。

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