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公国の妖精憑き  作者: 春香秋灯
最凶の妖精憑き
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スズの扱い

 私は離宮から追い出された。待遇がどんどんと変わっていくので、私はついていけなかった。

 最初は、公国兵として王国の捕虜だった。その次は、王太子の戦利品だった。そして、王太子の猫となるために公国から王国へと身柄を譲渡された。王宮の離宮で王太子と一緒に幽閉されるはずだったのに、今は、見知らぬ邸宅にいる。

 西洋の古い邸宅の一室の窓から眺める景色は、綺麗な庭園と、その向こうにかすかに見える海。

 だいぶ着慣れた王国の服は、とても分厚く、動きにくい。それでも、動きやすいように、と私の主人であるポーが工夫をしてくれた。

 見知らぬ使用人たちには、スズ様、と呼ぶけど、慣れない。私は酷い扱いばかりされていたので、大事にされることが気持ち悪かった。

 出会った時から私をスズ様と呼んでいるロバートは、私とポーの間を行き来して忙しそうだ。私は何をすればいいのか、わからず、ただ、部屋に閉じ込められている。

 ポーはいう。

「まず、暇に慣れなさい。公国と違って、王国は、暇潰し出来るものがない。外で走るか、街を見るか、馬で早がけをするか、君には慣れない暇つぶししかない。だから、慣れろ」

 そうして、部屋に放置された。

 ポーは、時間があれば、私の部屋に来て、勉強する。膝枕が必要な時は、それを要求する。

「ポーは、ここでは何してるの?」

 膝枕しても、勉強している。

「まずは、領地運営のお手伝いだね。ザクト叔父上は、暗部のほうで忙しいので、そっちで飛び回ってます」

 ポーは叔父のザクトの養子となったのだが、義父上、とは呼ばなかった。ザクトのほうも、それを拒否した。

 子どもなのに、難しいことを一杯やっていそう。公国との交渉も、ほとんどはポーがやっていたという。ポーは、大まかな箱組だけ作って、細かなところは公国にぶん投げた、と笑って言っているけど、そこまで出来るポーはやっぱりすごい。

 私のところには、息抜きや休憩なのに、ニッポンの勉強をしている。

「ねえ、ポー、どうしてニッポンのことを調べるの?」

 捨てられる準備をされているような気がして、ついつい、聞いてしまう。そう言われたら、辛い。

 ポーは、勉強を続ける。勉強しながらでも、仕事しながらでも、ポーは普通に受け答えが出来る。

「スズの式神のことを知りたいんだ。あれは、妖精とは少し違う」

「あくまだから?」

「また、そんなこと言って」

 あくま、と私が口にすると、ポーは怒って、本を閉じた。

「何度もいうけど、あれはあくまじゃない。あくまって、僕も勉強したけど、全然違うじゃないか。あの式神は、人間寄りの妖精だよ。まあ、妖精の概念が、どうも、公国ではいっぱいあるから、大変だけどね」

「あっ」

 せっかく、膝枕で休んでいたのに、ポーは立ち上がってしまった。もっと、ポーの傍にいたかった。

 そんな私の気持ちを無視して、ポーはテーブルに置いた本を持ってきて、私の隣りに座った。もう、膝枕は要求されない。失敗した。

「ほら、この図鑑を見てよ。あくまって、いろんなのがいるよね」

「これ、ゲームの攻略本だよ」

「ふーん、そうなんだ。この鳥みたいな羽のあるのもあくまだって」

「それは、天使。神様の使いだよ」

「スズも詳しいね。ニッポンの言葉だけど、わかるの?」

「公国では常識。よく、テレビでも見たし」

「? じゃあ、これ、あくまが載ってる図鑑じゃないの??」

「悪魔もいる。ゲームをやらないからわからないけど、悪魔と天使と人間が戦うゲームなんじゃないかな?」

「そうなんだ。じゃあ、どれがあくまか、印つけといて」

「う、うん」

 ニッポンの言葉はわからないので、イラストだけで、それを見極めることとなった。勉強、あまり好きじゃない。





 やっぱり、捨てられるんじゃないか。

 私にもニッポンの勉強が振られた。

「どうせ、暇なんだから、挨拶くらいは出来るようになろう。難しいところは、僕が勉強するから」

 アリスさんから借りたCDラジカセから流れる音声をヘッドホンで聞きながら、ポーは本格的な勉強に進んでいた。渡された初心者向けのニッポンの教科書は、すでに習得済みだという。

「ねえねえ、私、ニッポンに行くの?」

 連れて行かれて、捨てられるのかも。私は不安になった。

「行けるとは限らないけどね。行くなら、陰陽師と話がしたい。実に興味深い」

「私が行くの? ポーだけでいくの?」

「僕とスズとロバートかな? もう一人連れて行ければいいけど」

「大丈夫なの? 敵地なんでしょ?」

「僕がいなくなったら、資源を手に入れられない。僕を人質にしたって、価値がない上、僕の妖精憑きは、敵地でも使える。公国の密偵の末路みたいなやつが、僕の歩く先に出来るだけだよ」

 言っている意味がわからないし、ポーの自信も理解できない。

「ねえねえ、ポー! ちゃんと話して!!」

 私はポーからヘッドホンを取り上げた。

「どうしたの?」

 ポーは私のやることで怒ることがない。公国の時、よく男の兵士や上官を怒らせたようなことでも、ポーは怒らない。今も、勉強を邪魔されているのに、怒らず、私を見上げる。

「私、ニッポンに捨てられるの?」

「なんだ、その心配か」

 私が不安になっていることは、ポーも感じてくれていた。CDラジカセの電源をきって、私と向き合った。

「それは、スズが決めればいい」

「じゃあ、ここにいる! ニッポンには行かない!!」

「選択出来る権利を放棄してはいけない。それは、勿体ないことだ。僕は、王族だから、僕の人生は決められている。王国のために生きて、王国のために働いて、王国のために命を捨てる。だけど、スズはそうじゃない。スズはわかっていないけど、君は自由なんだ。僕は君を猫扱いしているけど、この家の者は君を一人の人間として接している。自由なんだから、今ある選択を捨ててはいけない。大丈夫だ。水があわなかったら、ここに帰ってこればいいんだから」

「やっぱり捨てるんだ!!」

「もう、泣かない泣かない」

 どっちが年上かわからない。私が小さいポーに縋りついて泣くと、ポーは困ったように私の背中を撫でた。

「スズが持っている式神のことは、知っておいたほうがいい。あれは、僕たちの常識外のものだ。本来、妖精は親から子へと受け継がれない。なのに、あの式神は、親から子へと受け継がれている。何か、あるんだよ。自分のことをもっと知ったほうがいい。それは、今後、大事なことだ」

「どうして? どうせ、あく、妖精は、ポーが盗ったじゃないか」

「あの式神は、今でもスズのことを心配している。所有権とか、そういうものを超えている。知らない、ということは、危険なことなんだ。妖精男爵には、妖精憑きだと自覚しなかった妖精憑きの話がある。その妖精憑きは、悲惨な最後を迎えた」

「………」

「無知が許されないことがある。スズのことは、無知が許されない。まあ、僕が生きている限りは、どうにか出来るから、心配ないけどね」

 私はポーの考えていることが、半分もわからない。ただ、私自身があまり良い存在ではない、という自覚は出来た。

 私は大人しく、ニッポンの勉強をすることにした。

 私が諦めたので、ポーは中断していた音の勉強を始めた。

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