最強の妖精憑き
相も変わらず、公国側から戦争がふっかけられている。
前国王が崩御した時、公国側の密偵が葬儀に前国王の弟がいないことに気づいた。そして、公国側は異議申し立てをしたのだ。前国王の弟は、実は死んでいるのではないか、と。
公国との停戦協定は、前国王の弟が死ぬまで、となっていた。前国王が死んだことを隠していると思われたのだ。
その異議申し立ての場に立ち会ったのは、前国王の四人目の息子であり、前国王の弟自らが育てたザクトだった。ザクトは、腹芸は出来ないから、と正直に話し、どうするか、公国側と話し合った。
結果、また、戦争となったのだ。
通例であれば、前線には、国王となったアインズが立つはずだった。しかし、前回は王弟殿下キリトであったことから、ザクトが立つこととなった。もちろん、帝国は魔法使いを全て提供した。
以前は、雪山でやられてしまったのだ。では、雪山ではない時を狙う公国側。王国側で前線に立ったザクトは、前国王の弟であり、叔父であるキリトから聞いていた話を実行する。
「なんでも、この地下には、素晴らしい温泉の水脈があるそうだ。それを出させよう」
「それ、安全なんですか?」
側近のスレイが、怪しむ。それはそうだろう。死んだといわれる王弟殿下は、王国の悪魔と呼ばれた男である。ただの温泉ではあるまい。
「魔法でぼんといこう」
ザクトは無視した。彼としては、こんなバカバカしい侵略戦争、さっさと終わらせたかった。
魔法使いはザクトがいう通り、魔法を行使するのだが………
「なんだ、あれは!?」
「公国側の妖精に邪魔されてる!!」
「とうとう、使ったか」
ザクトの叔父は、あらゆる側面で予想はしていた。
とうとう、公国は妖精憑きを育てることにしたのだ。今までしなかったのは、妖精憑きが見つけられたとしても、帝国や王国の妖精憑きに勝てなかったのだろう。
とうとう、上をいく妖精憑きを連れて、鉄の乗り物や、空飛ぶ鉄の乗り物が前線の境界線に近づいてくる。
「じゃあ、盗っちゃいましょう!!」
そして、僕は表に出た。
僕が出たことにも驚いたザクト叔父上。そして、魔法使いたちは、僕を前にして、跪く。
ドン、と地面が揺れた。途端、僕のまわりに、妖精たちが集まる。その中には、公国側の妖精までいた。
「じゃあ、僕のお願い、聞いてね、皆」
僕のお願いは、全ての妖精が聞き入れ、また、地面がドンと揺れ、地割れがおきた。
地割れからは、とんでもないものが出てきた。それは、温泉ではなかった。公国が大好きな自然の有害化学物質が溶けた水だった。
有害化学物質は、なんと、あの鉄の乗り物を溶かし、空気中にも、有害物質を振りまき、鉄の乗り物から出た人たちは、悶え苦しみ死んでいった。
有害化学物質の勢いはすごく、空飛ぶ鉄の乗り物にも襲い掛かり、落とした。
しばらくすると、王国側と公国側の間に、有害化学物質の大きな水たまりが出来た。
「やったー!」
「アホかーーーーーー!!!!」
僕は、ザクト叔父上に思いっきり頭を叩かれた。
僕の名前はポー。必要とされていない子どもだ。何故、必要とされていないかというと、前国王の弟であるお祖父様からは、絶対に生まれてはいけない、と言われていたからだ。
僕のお祖父様であるキリトには、一人娘のアナスタシアがいる。アナスタシアは、両親に似て、とても美しく、父親側の英才教育により、頭もよく、戦う力もあった。あまりにも能力が高く、キリトは調べた。
王国と公国の国境ぞいに、聖域がある。そこは、断崖絶壁のど真ん中にあり、ロープ一本で行くしかない聖域だった。その聖域のことを調べるため、キリトは公国側に資料をお願いした。
公国は、まあいいか、と渡してくれた。重要とは思っていなかったようだ。
その資料を見たキリトはびっくり。なんと、あの聖域で見た幻の人と子どもを作ると、とんでもない妖精憑きが生まれる、というご利益があるとか。
キリトは、あの聖域で見た幻と同じ姿をした聖女様と結婚、アナスタシアという一人娘を得た。アナスタシアは妖精憑きだ。これはまずい、と思ったキリトは、当時十歳だったアナスタシアを王国の離宮に幽閉した。当時、まだ、国王だったサイラスは、可哀想だと言ったが。
「この子は、とんでもないことをしでかす。絶対に子どもを持たせるな」
何か予感があったのだろう。アナスタシアに男を近づけさせないように、きつく、言い含めた。
アナスタシアを狙う人はいた。公国の密偵だ。父親であるキリトの人質になるだろう、と離宮に侍女として入り、アナスタシアに近づいた。
次の日、妖精憑きであるアナスタシアは、密偵である侍女の首をおもちゃとして遊んでいた。
こうして、事の重大さに気づいた国王サイラスは、アナスタシアを厳重に保護し、また、公国には、事の詳細を話し、二度と、密偵を送るなと脅した。
そして、平和になるかに見えた。離宮に幽閉して五年で、アナスタシアのお腹が大きくなって、大騒ぎとなった。
男子禁制の離宮である。一体誰が、と調べてみれば、第三王子アルトであった。アルトは第三王子であるが、王太子であるアインズのスペア的扱いだった。アルトには、少々、
知的問題があり、彼も離宮に幽閉されていた。性格も知識も子どものままのアルトは、アナスタシアに言われるままに、子作りをした。
そうなって、キリトは激怒。アルトはアナスタシアに近寄れないようにしたが、遅かった。
なぜ、こんなことをしたのか?
「アランが言ったの。最強の妖精憑きを見てみたいって」
アナスタシアはアランのことが好きだった。元帝国の魔法使いアランは、アナスタシアのことを孫のようにしか思っていない。しかし、アナスタシアは、アランを男として見ていたという。そして、アランの望みを叶えるため、北の砦の聖域に行き、運命の男の姿を見て、離宮に幽閉された所に、いたのだ。それが、第三王子アルトだった。
アナスタシアは最強の妖精憑きである。その彼女から生まれる妖精憑きは、さらに上をいく最強最悪の妖精憑きだろう。
どうにか流産しないか、とキリトは娘の子が死ぬことを願っていたが、最強の妖精憑きであるアナスタシアの願いは成就し、僕が生まれた。
「酷い、ザクト叔父上!? 僕のお陰で勝てたのに、グーで叩いた!!」
「どうして来ちゃうの!? ていうか、誰、連れてきたの!!」
ザクト叔父上が回りをざっと見まわす。まずは、帝国の魔法使いを疑った。すでに、僕に絶対服従だからね。でも、帝国の魔法使いは思いっきり首を横に振る。
続いて、叔父上の側近スレイを見た。スレイも首を横に振る。
ほかにも兵士や騎士を見たが、全員が「違います!」と否定する。
「僕が一人で来たに決まってるじゃないか! 僕も、北の砦の聖域に行きたくなったんだよ!」
「観光じゃないんだよ! 今、戦争なの!!」
「だからよかったよね。僕がいて。ほら、終わった」
まあ、お祖父様の作戦は、酷い惨状になったけど。
とりあえず、人を救いに行きたくても、空気中にも有害化学物質が広がっているので、王国側からは動けない。自然って、怖いね。
「これじゃあ、公国側も動けないだろうな」
酷いもので、タイミングとか無茶苦茶で、突然、有害化学物質の水柱が高くあがったりして、公国側もうかつに空飛ぶ鉄の乗り物も使えない状態である。
完全な天然の砦である。陸は有害化学物質で満たされ、空は、水柱である。空気中も有害化学物質が溶けこんでいるので、普通には歩けない。
公国側のほうでは、見るかぎり、人がばたんばたんと倒れている。可哀想に。戦争って、ろくなことがないね。
「あ、あそこに、妖精憑きがいる。ねえねえ、あの妖精憑き、欲しい!」
「そんな、おもちゃ欲しいみたいに言わないで!?」
「ええ、欲しい欲しい欲しい!! あの子が欲しいの!!!」
ザクト叔父上が大変、困っている。だけど、あの子は手に入れたほうがいい。
公国側の妖精憑きは、なんと一人だけ。あの子がいなくなったら、もう、妖精憑きでも対抗策は出来ないだろう。まあ、僕が最強だから、勝てないけどね。
妖精憑きは、この有害化学物質の中で、倒れていた。こんな前線に送り込まれて、可哀想だよ。
可愛くない甥っ子の我儘には慣れているザクト叔父上は、僕が必要と思っているものをくれる。
「男爵家から借りた魔法具を持ってきてくれ。それでどうにかなるだろう」
「あの、転移するやつだよね。僕、いっぱい妖精盗ったから、出来るよ!」
「返してあげて!! 国家間の問題になっちゃう!!!」
仕方がないなー、本当に。
公国側の妖精憑きのを除く帝国側の妖精は返してあげた。そして、転移する。
すぐに、あの妖精憑きの傍だ。ほかにも一杯倒れている。可哀想なので、妖精にお願いして、見渡す一帯だけ、有害化学物質を吹き飛ばす。
「どれどれ。あ、可愛い女の子。公国って、女の子を前線に出すなんて、酷い国だな」
戦争なんて公国の中だけでやればいいのに、王国に向かってくるのは、本当に迷惑だ。戦争したい奴らだけ、戦争すればいいのに。
きっと、この女の子は、戦争させられている。お祖父様は言っていた。前線で戦うのは、公国側も王国側も、戦争したくない人たちだって。
僕は、この可哀想な人たちを男爵家の魔法具で、王国側に転移させた。
あ、忘れちゃいけない。僕は、あの妖精憑きの女の子の傍にしゃがんで、口づけする。
「これで、どこにいっても僕は君の居場所がわかる。また後でね」
そして、見渡す限りの倒れた公国民は王国の北の砦に飛ばした。生きてても死んでても、だから、その後は知らない。
あの有害化学物質の水たまりに飲まれた人たちは無理だった。じゅっと溶けちゃった。ついでに、アラン大好き科学の鉄で動く乗り物もじゅっと溶けちゃった。見たことないやつだから、新作なんだね。アランががっかりしちゃう。お母様にばれないようにしよう。お母様、アランががっかりするようなことしたら、僕が怒られる。女は怖い。
せっかく男爵家の魔道具を借りたので、そのまま例の北の聖域に飛んだ。
静謐な空間に入ったのだけど、服についた危ない物質は、妖精にお願いして、聖域外にとばしてもらった。
話では聞いていたけど、寒くも暑くもない、とても綺麗なところだ。そこを少し歩くと、僕は回れ右した。逃げよう。
「ポー、逃げるな」
がっしりと僕は後ろから羽交い絞めにされた。やばい! 捕まった!!
「死んだんじゃなかったの!? お祖父様!!!」
なんと、北の聖域の奥には、死んだと言われる僕のお祖父様がいた。やばい、げんこついっぱいされる!!!