帝王に謁見。歓迎会は胡散臭かった1
【帝王に謁見。歓迎会は胡散臭かった】
『ささっ、前へお進みください』
前へ進めって言われても、いきなりすぎる。
作法もわからん。
『言われるまで頭を下げていればよろしいですよ』
僕たちはギクシャクしつつ帝王の前に進み、お辞儀をした。
『よい。顔をあげよ』
『ようこそおいで頂いた、勇者どのらよ。余がグリス帝国帝王グリス7世だ』
そこから、帝王の演説が始まった。
さっきの魔道士?の話と同じようなものだが、要約すると、
・獣人・魔人がこの国に度々攻め込み傍若無人の振る舞いをしている。
・奴らの目的はこの国の支配だ。
・我々は必死に抵抗しているが、追い詰められている。
・食べるものにも欠く有様で、民はみな苦しんでいる。
・すがる思いで勇者召喚の儀を行った。
・誠に身勝手な願いであることは重々承知しておる。
だが何とかこの国を助けていただけないか。
いや、そんなこと言われても。
無理です。
それに、帝王はじめ悲惨な雰囲気はかけらもない。
みんなでっぷり太ってるし。
むしろ、肉食獣的な威圧を感じる。
とにかく、なんでもいいから日本に帰らせろ。
帝王は僕たちの顔を見て、
『わかっておる。勇者どのたちの考えることは帰還方法であろう。それは魔族の王、魔王の知るところだ』
勝手なこと言ってら。
無理やり呼んどいて、帰りは魔王まかせか。
仮に異世界召喚が事実だとしよう。
僕はただの人間だぞ。
辿り着く前に瞬殺される未来しか見えんぞ。
しかも、魔王を討伐する前に魔王から帰還方法を引き出せってか。
無理ゲーすぎる。
『勇者どのたちよ。きっと不安がふくれあがっていることであろう。心配することはない。勇者どのたちは信じられないような強い力を秘めておる。しばらく城で暮らしてもらってその力を体得してほしい』
帝王が目配せすると、
『勇者様、帝王様の申す通りしばらくすれば強靭な力を得られるでしょう。それまではゆっくりとこの世界のご案内を致します』
『では、歓迎のパーティの準備ができております。勇者さま、こちらへお越しください』
接待か。僕はだまされんぞ。
伊達に営業部で揉まれているわけじゃない。
他の日本人たち?も納得いかない顔をしている。
絶対に、闇を暴いてやる。
さて、隣室に設けられたパーティ会場。
広いテーブルの上は色鮮やかな食べ物で埋まっている。
それよりも、いきなり目を引いたのは大勢のメイドさんだ。
黒いゴスロリ、しかも西洋風の顔立ち、美形ばかり。
本場のメイドだ。
『初めまして、勇者様。我が国を救ってくださるんですね。本当にありがとうございます』
うるうるした目で僕を見つめながら一人のメイドが挨拶した。
おお、カーテンシーだ。
いかん。どストライクだ。カワイすぎる。
ブルネットのサラサラボブヘア、瓜実型の顔、大きな緑色の目に長いまつげ、すっきりと通った鼻、絶妙に膨れ上がった唇、細い顎、きめ細かい白い肌、細い首に肩、細い腰、と思うと出るところはしっかりと主張するけしからんボディ。西洋人らしく腰の位置が高い。足はすっきり、ふくらはぎが細くて長い。たしかに日本人じゃない。
声がまたいい。優しそうで控えめ、しかしどことなく色気がある。
『私はアネーシャと申します。よろしくお願いしますね』
にっこりされた。うおっ、これはやばい。
『○です。よろしく』
ああ、声が裏返っちまった。
こんな純粋可憐で清潔感あふれる娘、久しく見たことがない。
飲み屋の営業スマイルじゃなく、心から嬉しそうな笑顔。
なんだか、いい香りが漂ってくる。
僕はボーっとしたまま、われを忘れて酒を飲み、彼女と話しまくった。
頭の中は妄想でいっぱいだ。
ただ、どのくらいたったろうか。
時々、ジャリジャリとした気持ちになることがある。
酔ったせいだろうか。
ふと、酒をこぼしてしまった。
『ああ、お召し物が汚れませんでしたか?フキンを持ってきますね』
天使がニッコリと微笑んで、フキンを取りに立ち上がった。
僕はギョッとした。
彼女のお尻から黒い紐がぶら下がっていたからだ。
まさか、シッポ?
さっきまであんなのなかったよな。
とたんに脳内に鳴り響いた音声。
(職業盗賊を獲得しました。身体強化スキルレベル1を獲得しました。精神耐性スキルレベル10を獲得しました)