召喚地はグリス国2
【召喚地はグリス国2】
ヤバい。こいつらカルトだ。
僕はカルト集団に捕まっちまった。
さっきまで駐車場にいたはずなのに。
気を失っているうちに、ここに運び込まれたのか。
しかし、どういうからくりなんだろう。
昔、近くの国が日本人を拉致して大騒動になったことがある。
相当な組織的用意周到な拉致を行ったということだろう。
これは慎重にことをすすめる必要がありそうだ。
とりあえず、相手を刺激せずに。
話を合わせていこう。
『なぜ、僕なんかを?』
『なんか、ではありません。貴方様は特別な能力をお持ちなのです。選ばれた方なのです』
『特別な能力?』
『ええ。強力な魔法やスキルを扱う能力です。あの部屋に描かれていた円形の魔法陣はそういう特別な潜在能力の持ち主を選別します』
正気か、この人。
『ニコラウさんはすごい魔法使いなんでしょ。この世界には特別な能力の持ち主がいるのではないですか?』
『異世界からこの世界に来るときに潜在能力がずいぶんと強化されるようです。その潜在能力が花開きますと、この世界の住人を遥かに超えた能力になります』
『見たことがあるような口ぶりですね。以前にも召喚者がいたのですか』
『私が実際に見たわけではありません。が、数十年おきに召喚されるようですし、古文書に記録が残っております』
『僕はなんのためにこの世界に召喚されたのでしょうか』
『我が国を救って頂きたいのです。我が国は千年の歴史を誇る偉大な帝国です。しかし、現状では野蛮な獣人や魔人の暴虐に脅かされております。奴らを一掃し、人間だけの世の中にしなくてはなりません』
獣人に魔人か。いよいよ頭のおかしい集団のようだ。
しばらくすると、誰かが入室してきて魔道士?に耳打ちした。
『実は、既に本日の午前中に、○様の同国人3名が我が国に来て頂いております』
僕以外にも拉致したってか。
『3名様と共に、私どもの帝王に謁見して頂きたいのですが』
帝王か。宗教団体の教祖様と言ったところだろうか。
『その前に、この腕輪をしていただけませんか』
魔道士?は青と黄の腕輪2本を差し出した。
『貴方様に危害を与えるものではありません。我々もつけているものです』
魔道士?は腕を伸ばしてロープに隠れていた腕輪を僕に見せた。
『青い腕輪は翻訳の腕輪。私どもが貴方様と会話ができるのはこの腕輪のおかげです。この腕輪があれば、腕輪のない人とも会話ができます。
左手は守護の腕輪。貴方様の位置情報を特定する腕輪です。城にいる人は全員つける決まりになっております』
嫌な気がするが、僕は腕輪に腕を通すと、
腕輪は僕の腕のサイズに合わせるように小さくなった。
部屋や服装に似合わないハイテク製品だ。
『それと、できましたらこちらのロープを羽織っていただけませんでしょうか』
すると、周りの一人が彼らの着ているような白いロープを差し出してきた。
手に取ると、やはりかなり上質な手触りだ。
僕は否応もなく、ロープを羽織った。
廊下に出ると、白ロープに混じって日本人ぽい若者が3人いた。
男2名、女1名だ。
高校生か大学生、といったところだ。
3人とも不安そうな目をしている。
向こうも僕を見てそう思っているんだろう。
僕たちは会話を交わすこともなく、少し離れた場所に移動した。
そして、大きな扉を開けると、豪奢でだだっ広い部屋に通された。
左右には100人を軽く超える人々。
様々な服を着ている。
そして、真ん中には帝王がいた。
そう言われた訳では無いが、どうみても帝王だろ。
恰幅のいい、白髪、白いひげの持ち主。
ひげはいわゆるカイザー髭とか呼ばれる形だ。
現代では映画の中かトランプでしかお目にかかれそうもない。
しかも頭に王冠だ。
とんだコスプレ野郎だが、眼光は鋭く威厳があった。
ただ、かなり酷薄そうだ。
こいつが社長だったら、僕はその会社に入社したくない。