召喚地はグリス国
【召喚地はグリス国】
僕は目を覚ました。
ぼーとした頭であたりを見渡すと、
白いガウンを羽織った集団が僕を囲んでいた。
集団はざっと50人ぐらいはいそうだ。
その集団が歓声を上げていた。
『おお、成功じゃ!』
『勇者様、ようこそおいでいただきました!』
(勇者様だと?それにこいつら目が青とか水とか、頭髪も茶髪とか金髪とか、彫りは深いし見るからに欧米系の顔立ちだが、やけに日本語が上手いな)
歓声をあげたと言ったが、殆どは膝をついているか、床に倒れている。
立っている奴らもなんだか、やけに辛そうな顔をしている。
僕はふらふらと立ち上がった。
その時気づいたのだが、僕は円形の印の中心に位置していた。
複雑な文様付きだ。
半径5mほどあろうか。
駐車場で車に乗り込もうとしたときに現れたものと同種のもののようだ。
(やはり、魔法陣か?)
混乱しつつも、僕はさらに周囲を見渡した。
部屋は石の床、白いモルタル状の壁・天井に囲まれた空間だった。
学校の教室2つ分ぐらいの広さか。
ただ、天井は倍以上ある。窓はない。
僕は、一番偉そうな頭の寂しい白顎髭の男性に尋ねた。
『ここはどこですか。貴方たちは?』
『おお、とまどうのも無理はありません。ここではなんですので、こちらにおいでください』
姿格好はどこかの宗教関係者みたいである。人品は卑しくは見えない。
僕はいわれるがままに別室に連れて行かれた。
別室は先程のような殺風景な部屋ではなかった。
壁・天井はベージュの漆喰状。
細かに絵画が描かれている。
分厚いカーペット。
調度類はウォールナットを中心に統一されている。
天井の中心にはこれまた派手なシャンデリア。
周囲を囲む間接照明。ランプの中はローソクだろう。
格子の窓にはめられたガラスは分厚そうだった。
一つ一つが高価に見える。
瀟洒。豪華。バブルっぽいが下品ではない。
そういえば、僕を取り囲んでいる人々の来ているロープ。
化繊じゃない。
絹のような光沢を放っている。
僕は革張りの長椅子に案内された。
何の革なんだろう。
柔らかく鞣された、これも極上品の製品に見える。
『紅茶でよろしいかな?』
『ええ』
『この紅茶は数日前に港に入ってきたばかりでしてな。いま、帝都中の話題を独占しております』
なんだか凄そうな紅茶らしい。
女性がしずしずと入室してきて、紅茶をサーブしてくれた。
しかし、僕はかなりの違和感を持った。
カップの質が低い。
厚手のぼっこりした陶器だった。
色も白じゃない。薄い茶色っぽい。
コーヒー向けという感じだ。
僕は紅茶に特別な思い入れはない。
ただ、一般常識として最低限の知識はある。
普通、紅茶ってティーカップだよな?
一口飲んでみたが、いろいろ不具合がわかる。
茶器を温めていない。
お湯の温度が低い
苦味・雑味が強い。
部屋や調度の瀟洒さと比較して、お茶の洗練さがずいぶんと落ちる。
『我が国に紅茶が入ってきたばかりでしてな。お口にあうといいのですが』
紅茶の歴史のない国?ここは日本じゃないのか?
僕は疑問を持ったまま、さっそく本題に入る。
『で、お答えを頂けますか』
『おお、これは失礼致しました。あわてず、ゆっくりと聞いて頂きたいのですが』
ハゲ白顎髭の一番偉そうな男性はそういうと、
『まずは、私の自己紹介からまいります。私はグリス国宰相兼筆頭魔道士ソフォクレス・ニコラウと申します』
(グリス国?そんな国聞いたことがないぞ。それに宰相で魔道士だと?なんだ、やっぱり頭のおかしい集団か?カルト教団につかまったのか?)
『よろしければ、お名前を伺ってもよろしいか?』
『○といいます』
僕は適当な名前を並べた。
『○さんですか。我が国では発音しにくい名前ですな』
魔道士?は僕をじろりと睨んで続けた。
『○さん。おそらくですが、私が魔道士と申し上げたことに戸惑いをおぼえてらっしゃるか?』
『はあ』
『これは手品ではありませんぞ』
魔道士?はそういいつつ、僕の顔の前に指を突き出したかと思うと、指先に火をつけた。
そして、その火を部屋の中でぐるぐる飛ばし始めた。
『ドガン!』
『うぉっ』
魔道士?は大きいシャボン玉のような空間を作り、その中で火を爆発させた。
『如何ですかな。なんなら小山程度でしたら吹き飛ばして差し上げますが』
僕は圧倒された。
魔道士?はさらに驚くことを告げた。
『ここは○様の暮らしていた世界ではありません。○様は異世界に召喚されました』
『……』