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性悪

作者: 陸畑 葵

「一般生ってさ−−。」

その言葉を聞いた瞬間、野球部だ。と思った。

2時限目の化学の授業が終わり、次の古文の授業は自分達のホームルーム教室で行われるため、移動しなくてはいけない。移動教室で廊下が生徒でごった返す時に、その言葉が耳に飛び込んできた。周りにいた「一般生」にもその言葉は聞こえていたようで、声の主を冷たい視線がいくつも貫いている。でも本人は、もう後ろ姿しか見えないけど、多分満足そうな顔をしているに違いない。彼の名前も何組かも知らないけど、うちの高校の野球部は皆もれなく坊主頭なのですぐにわかる。

「一般生って…。自分達の方が『特別』みたいな言い方してるの草。野球しか脳がないくせに。」

一緒に廊下を歩いていた友人が呟いた。

仕方ない。

彼らの所属する野球部は、去年うちの高校創設以来初めて夏の甲子園に出場したからだ。全校応援にも行った。吹奏楽部に所属している自分は当然、スタンドで応援歌を爆奏した。


夏はいろいろな部活の大会がある。吹奏楽部も例外ではない。野球の県予選直後には県大会が控え、甲子園の直後には支部大会がある。全国レベルの強豪校なら1軍、2軍みたいになっていて、野球応援なんかは2軍の吹奏楽部員が行くこともあるみたいだけど、うちはそこまで部員が多くない。だからコンクールメンバーも容赦なく野球応援に行かされる。

野球部と違って、全国に行ける実力がないから仕方ないかもしれない。けど、他の部活よりも野球部が特別扱いされているという感覚は全校生徒が思っているはずだ。

そして野球部は自分達が応援されて当然の存在だと、心のどこかで思っている、はずだ。

自分達は特別な存在なのだと、無意識に思っている。だから自分達、野球部以外の生徒は「一般生」なんだろう。

当然、野球部は部員も多くほとんどが応援団的な存在である。だから、多分さっき「一般生」と言った彼は、彼もきっとベンチになんか入ったこともない、いつもスタンドでメガホンを叩き、声を枯らして応援歌を歌っている。野球部じゃない、全校応援に行った生徒と何も変わらない。でも、彼は強豪校の野球部に所属している自分を誇示したくて「一般生」なんて言葉を、授業と授業の合間の、教室移動で廊下が生徒でごった返す時にわざと聞こえるように声に、言葉に出したのだろう。

「でも、。」

言葉をグッと飲み込む。友人は言葉の続きを待っているようだったが、なんでもない、と誤魔化した。

なんか、可哀想だよな。

それを言ってしまうと、野球部以外の生徒を「一般生」と呼ぶ彼と同じになってしまいそうな気がしたから。

彼は今年も多分スタンドの一般生に混ざる「特別生」なんだろう。

そうであって欲しいと心の中で願っている自分がいた。


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