1番の願い
いつものように部屋に入ると、正人は車椅子に乗っている最中だった。
「丁度いいところに来たな。外に連れてってくれ」
外に行きたいなんて珍しいお願いでびっくりするが、とても嬉しい変化だと俺は喜んだ。
「いいけど...ベットから出てる正人を初めて見たよ」
「そうだったか?」
ゆっくりと車椅子を押し部屋から出る。
「どこに行けばいい?」
「どこでもいい」
「じゃあ、庭の方に行ってみようか」
部屋から出て、右の方向に向かって車椅子を押した。ナースステーションを通り過ぎようとすると、ふくよかな看護師に話しかけられた。
「正人君じゃないの! ここで見れるなんて珍しいわね〜!」
「星崎さん...おれって庭の方行っていいの?」
ふくよかな看護師の人は、星崎さんと言うらしい。正人の質問に一瞬だけ考え込んだ。
「ん〜そうね〜...病院から出なければどこでもいいわよ! 少しでも体調が悪いと感じたら、すぐに近くの看護師に言いなさいね」
「分かった」
『いってらっしゃい』と星崎さんは笑顔で手を振った。
♢
エレベーターで一階に降りて少し歩くと、すぐに庭に着いた。
庭には患者同士が雑談している姿や、看護師さんに車椅子を押されながら散歩している人達の姿がちらほら見えた。
「天気いいね〜! 大丈夫? 暑くない?」
「大丈夫。風が気持ちいい」
空は雲一つなく冴え渡っていてとても気持ちが良かった。正人もいつもより顔色が良くご機嫌だった。
「あっ子供たちがいっぱいだ」
車椅子を押しながら散歩をしていると、子供達が遊び回っていた。
入院しているはずなのに遊び回って平気だろうかと心配になるが、子供達の表情はとても楽しそうだった。
「おれも昔はここでよく遊んだな」
「小さい頃からずっと入院してたの?」
懐かしむような目で子供達を見ている正人に、聞いていいのかとドキドキしながら質問するとすぐに答えてくれた。
「たまにな。中学二年になってすぐ、ずっと入院生活だ」
「そっか... そんなに長い間」
「小さい頃によく遊んでた子達はほとんど亡くなってしまってな。どんどんベットが空いていく光景を見てさ、おれもいつかはいなくなるんだなって思うと、凄く怖かったのを覚えている」
俺には想像できないくらいの恐怖を小さい時からずっと正人は戦ってたんだなって想像したら今すぐ抱きしめたくて仕方がなかった。
「正人...」
さっきの話でスイッチが入ったかのように正人は続けて語った。俺も黙って耳を傾ける。
「だけど全然死ないし今の今まで生きてるだろ? 正直、早く死なせてくれと思ってた。こんな終わりの見えない生活が嫌で早く終わらせたかった。なんでなのか、神様に聞いてみたりもした。
でも最近思ったんだ。今日まで生きていられたのは、神様がおれと誠を会わせるために生かせてくれたのかなってさ」
そう言って、後ろを振り向き微笑む正人を見て、俺はじんわりと目が熱くなる。
「そうかもね...そしてこれからも俺と一緒に生き続けるんだ」
元気に生き続けていけるよう願いを込めて、正人の頭を優しく撫でた。




