一方通行な出会い
こんにちは高美です!
私の作品を開いて頂きありがとうございます!
この作品は、切ない系のBLとなっております。
松本誠 高校二年生になったばかりの俺は今、母と一緒に総合病院に来ていた。
「お爺ちゃん、元気かな? 体が細くなってるの見たら俺、ショックかも」
「元気すぎるぐらいよ」
はぁとため息をつきながら母は、五階のボタンを押した。お爺ちゃんが居る部屋は、四人部屋になっていて、カーテンを開いて本を読んでいるお爺ちゃんと、窓際のベットで完全にカーテンを閉めた誰かのニ人だけだった。
「お父さん! 誠が来たわよ〜」
「お爺ちゃん元気にしてる?」
「お、おお! 誠か! お前も元気だったか?」
母の言葉で本から目を外し、俺と目が合ったお爺ちゃんは、嬉しそうな顔をした。
久しぶりにお爺ちゃんに会えたことで、俺も顔をほころばせる。
「もちろんだよ! 高校生活も順調だよ」
「そうかそうか! バナナ食べるか?」
ベットの横にあった椅子に座ると、机の上に置かれていたバナナの束を渡され、素直に受け取る。
「お爺ちゃんは食べる?」
「お昼食べたばっかりだからなぁ〜」
1つバナナを渡すが、微笑みながらも眉を下げお腹をさすった。行き場のなくなったバナナをまた机に置いた。
「誠 ちょっと電話してくるわね」
母の携帯が鳴り、着信先を確認しながら病室を出た。なんとなく、冷蔵庫を開けると果物でぎっしりと埋まっていた。
「沢山お見舞いの人が来たみたいだね」
「果物ばっかりで困るけどなー! あはは! そうだ! お前さんも食べるかい?」
全然困ったように見えないぐらい口を大きくあけながら笑うお爺ちゃんは、急に隣のカーテンを勢いよく開けた。
「ちょ! ちょっと! プライバシーというものが!」
止めようと手を伸ばすが、もう遅かった。
カーテンを開けた先には、綺麗な顔をした男が迷惑そうに振り向いた。
その瞬間、スローモーションにでもなったかのように、俺の目は奪われてしまった。
「お爺さん...またおれの返事なしに開けないでよ」
声は見た目通り、透き通るような声をしていて、身体は色白で痩せ細っていた。
髪は黒く、肩につきそうなぐらい長いが、どこか上品さを漂わせていた。
「すまんすまん! で、食べるかい?」
悪びれもせず笑って受け流したお爺ちゃんは、もう一度少年に聞くが、その少年はもう一度不愉快そうに顔をしかめた。
「...いらないよ」
カーテンを閉めようとした少年に、俺はお爺ちゃんのベットに手を乗せて、身を乗り出した。
「待って! 名前は何ていうの?」
「...君にいう必要ある?」
名前を聞くと、無愛想に言い捨てられる。すると、すぐにお爺ちゃんが明るい声で名前を教えてくれた。
「正人だとよ!」
『正人...』と心の中で呟く。
すると、正人君は大きくため息をつき、お爺ちゃんを思いっきり睨んだ。
「お爺さんって空気読むの下手だよね」
俺を置いて正人君と会話が出来ているお爺ちゃんが羨ましく思い、仲良くなりたい一心で無理やり会話に割り込んだ。
「俺! 誠っていうんだ! よろしく!」
「...絶対によろしくなんてしない」
俺の思いとは反対にすぐ突き放され、目を合わせることなく心とカーテンをピシャリと閉められた。
「あはは! お前嫌われたなー!」
お爺ちゃんの容赦ない言葉に、ガクンと項垂れていると、看護師さんが点滴を持って部屋に入ってきた。
「佐藤くーん! 点滴変えるわね」
「お爺ちゃん...正人君ってどこか悪いの?」
佐藤とは、正人君のことだろう。コソコソと耳打ちすると、お爺ちゃんも釣られてコソコソと話す。
「うーん。ワシも嫌われてるからなー、聞いたけど教えてくれん」
謎が多い正人君にもっと興味が湧いていると、電話が終わった母が戻ってきた。
「誠〜! もうそろそろ行きましょ。お父さんまた明日来るから」
「気をつけて帰れよ〜」
お爺ちゃんに別れを告げ、正人君で頭いっぱいになりながら帰宅した。
♢
そして、高校生活が慌ただしくその日以来行けていなかった。あの日から1週間経った日、学校が終わり家に帰ろうと歩いていると、突然母からの電話が鳴った。
「誠! 今すぐ病院へ来てちょうだい!」
『お爺ちゃんが...』涙ぐみながら話す母の声に、全身から冷や汗が出た俺は急いで病院へ行く。
「ーーお爺ちゃんは⁉︎」
汗を垂らしながら急いでドアを開けると、母はお爺ちゃんの手を強く握り、声を押し殺して泣いていた。その光景に、俺は何も言われずとも十分に理解できた。
「17時18分にお亡くなりになられました...眠るように旅立たれたようですね」
医師はそう言ってゆっくりとお辞儀した。母は医師と一緒に病室から出て行った。俺はお爺ちゃんの側に行き、静かに泣いた。
泣きすぎて涙が出なくなった頃、待っていたかのように隣のカーテンがピシャリと開く。
「おれより早かったね。あんたのお爺さん」
「正人君...まぁお爺ちゃんも87歳だったから君よりは早いだろうね」
言葉には棘があるが、正人君の口調はとても優しかった。
「ふーん。でも、うるさいお爺さんがいないのは寂しくなるな」
「え? 嫌いじゃなかったの?」
「嫌いだよ...めちゃくちゃ嫌い」
皮肉っぽくいうが、本気じゃなく冗談に聞こえた俺は、正人君の事が可愛く思えて小さく笑うと、不貞腐れたように睨まれた。
「...なに笑ってんだよ」
「あーごめん 素直じゃないなーと思って。お爺ちゃんと仲良くしてくれてありがとう」
目が腫れた状態で微笑むと、『ふんっ』と照れ臭そうにカーテンを閉じた。