ランチ
三題噺もどきーはちこめ。
とある会社員の話。
お題:届かない・電話越しの声・視線
僕の声は届かない。
助けを乞う声も。
悲しみを訴える声も。
どれだけ泣き叫ぼうと。
喉が裂けるほど喚いても。
声が枯れるほど叫んでも。
僕の声が誰かに届くことはない。
―無かった。
僕は独り、黙々と仕事をこなしていた。
他の社員から、押し付けられた仕事を。
彼らは、昼食時間である。
まぁ、雑用というか、押しつけをするのに丁度いい人間がいるから、彼等は、悠々と昼食を楽しんでいる事だろう。
一応、この会社ではそれなりに古株の方なのだが、そんな事は関係ない。
できるやつが、上に行くのだ。出来ずとも、世渡りが上手い奴が。
カタカタカタカタ―
キーボードを叩く音が小さく響く。
1人分の。
―すると、1本の電話がかかってきた。
(また、何か仕事でもできたのだろうか、)
少し躊躇ってしまったが、出ない訳にも行かないので、電話を手に取る。
「もしもし―」
「あ、もしもし。今、時間大丈夫?」
その電話は、同じ会社で働く女性からの電話だった。
(僕なんかに何のようだろう、)
しかもわざわざ、社用の電話ではなく、個人の電話に。
「ハイ。大丈夫です。」
一応、彼女の方が歳上であるので、断る訳にもいかないので、イエスと、答えた。
「ほんと!?じゃあ、今から、お昼ご飯食べに行かない?」
明らかに、電話越しの声のトーンが上がったのを感じた。
(別に僕でなくても……)
そのふとした考えを呟いてしまったのか、
「あなたじゃないとダメなの!」
と、念を押す彼女を少し怪訝に思いつつ、指定の場所へと向かう。
仕事の方はほとんど終わっていたから、少しぐらい休憩しても平気だろう。
その場所には、彼女が座っており、お弁当を食べていた。
「あ、こっち。」
ひらひらと手を振りながら声をかけてくる。
向かいの席に座り、道中コンビニで購入してきた袋を机の上に置く。
「あの、何で僕なんかを呼んだんですか?他にもいっぱいいたでしょう?」
真っ先に、疑問が口をついて出た。
彼女は、上司からも、部下からも慕われており、昼食なんかも、よくいろんな人と食べに行っているのをみかける。
そんな彼女が、何故、僕を呼んだのかが全く分からなかった。
「あら、理由がないとダメなのかしら?」
きょとんとした顔が、彼女の年齢より幼く見えて、なんだか可愛らしかった。
「いえ、あの、そういうわけじゃ、」
「―見てられなかったのよ。」
その言葉に一瞬、今度は僕がキョトンとしてしまう。
「あなた、少しぐらい息抜きをしなさい。生き急ぎすぎよ。だって、私が見る度に何か仕事を押し付けられているみたいだし、断るにも断れないみたいだったし、」
―代わりに私ができたらいいんだけど、それもそれで問題が起きそうだし…
彼女は、僕に、やさしい、あたたかい視線を向けていた。
「たまには、こうやって胸の中に溜まったものを出していかないと、この世界じゃあ、やっていけないわよ。」
彼女が年上と言ったって、そんなに離れているはずでもないのに。
彼女の声を、言葉を聞いて、自然と、ボロボロと涙が零れていた。
「…?????」
自分でも不思議なくらいに、涙がこぼれていた。
こんなに、まだ残っていたのか。
それから、数え切れないほど愚痴を言って、涙を流した。
休憩時間なんてとうの昔に過ぎているのに、彼女は止めもしなかった。
ただ静かに、聴いてくれていた。
「ありがとうございます。おかげで、スッキリとしました。」
「そう。それなら良かったわ。」
ニコリと微笑む彼女。
僕の声は届いた。
小さなか細い声を、彼女は、見つけてすくい上げてくれた。




