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三題噺もどき

ランチ

作者: 狐彪
掲載日:2022/02/10

三題噺もどきーはちこめ。


とある会社員の話。

お題:届かない・電話越しの声・視線



僕の声は届かない。

助けを乞う声も。

悲しみを訴える声も。

どれだけ泣き叫ぼうと。

喉が裂けるほど喚いても。

声が枯れるほど叫んでも。


僕の声が誰かに届くことはない。


―無かった。




僕は独り、黙々と仕事をこなしていた。

他の社員から、押し付けられた仕事を。

彼らは、昼食時間である。

まぁ、雑用というか、押しつけをするのに丁度いい人間がいるから、彼等は、悠々と昼食を楽しんでいる事だろう。

一応、この会社ではそれなりに古株の方なのだが、そんな事は関係ない。

できるやつが、上に行くのだ。出来ずとも、世渡りが上手い奴が。

カタカタカタカタ―

キーボードを叩く音が小さく響く。

1人分の。

―すると、1本の電話がかかってきた。

(また、何か仕事でもできたのだろうか、)

少し躊躇ってしまったが、出ない訳にも行かないので、電話を手に取る。

「もしもし―」

「あ、もしもし。今、時間大丈夫?」

その電話は、同じ会社で働く女性からの電話だった。

(僕なんかに何のようだろう、)

しかもわざわざ、社用の電話ではなく、個人の電話に。

「ハイ。大丈夫です。」

一応、彼女の方が歳上であるので、断る訳にもいかないので、イエスと、答えた。

「ほんと!?じゃあ、今から、お昼ご飯食べに行かない?」

明らかに、電話越しの声のトーンが上がったのを感じた。

(別に僕でなくても……)

そのふとした考えを呟いてしまったのか、

「あなたじゃないとダメなの!」

と、念を押す彼女を少し怪訝に思いつつ、指定の場所へと向かう。

仕事の方はほとんど終わっていたから、少しぐらい休憩しても平気だろう。


その場所には、彼女が座っており、お弁当を食べていた。

「あ、こっち。」

ひらひらと手を振りながら声をかけてくる。

向かいの席に座り、道中コンビニで購入してきた袋を机の上に置く。

「あの、何で僕なんかを呼んだんですか?他にもいっぱいいたでしょう?」

真っ先に、疑問が口をついて出た。

彼女は、上司からも、部下からも慕われており、昼食なんかも、よくいろんな人と食べに行っているのをみかける。

そんな彼女が、何故、僕を呼んだのかが全く分からなかった。

「あら、理由がないとダメなのかしら?」

きょとんとした顔が、彼女の年齢より幼く見えて、なんだか可愛らしかった。

「いえ、あの、そういうわけじゃ、」

「―見てられなかったのよ。」

その言葉に一瞬、今度は僕がキョトンとしてしまう。

「あなた、少しぐらい息抜きをしなさい。生き急ぎすぎよ。だって、私が見る度に何か仕事を押し付けられているみたいだし、断るにも断れないみたいだったし、」

―代わりに私ができたらいいんだけど、それもそれで問題が起きそうだし…

彼女は、僕に、やさしい、あたたかい視線を向けていた。

「たまには、こうやって胸の中に溜まったものを出していかないと、この世界じゃあ、やっていけないわよ。」

彼女が年上と言ったって、そんなに離れているはずでもないのに。

彼女の声を、言葉を聞いて、自然と、ボロボロと涙が零れていた。

「…?????」

自分でも不思議なくらいに、涙がこぼれていた。

こんなに、まだ残っていたのか。


それから、数え切れないほど愚痴を言って、涙を流した。

休憩時間なんてとうの昔に過ぎているのに、彼女は止めもしなかった。

ただ静かに、聴いてくれていた。

「ありがとうございます。おかげで、スッキリとしました。」

「そう。それなら良かったわ。」

ニコリと微笑む彼女。


僕の声は届いた。

小さなか細い声を、彼女は、見つけてすくい上げてくれた。


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