声。
声がするーー。
始めは、囁くような声だった。でも今は、耳をどんなに塞いでもその声が頭にハッキリ響き、離れない。
『本当のお前を見せろ』
「本当って、なんだよ!! 意味が分からない……」
『本当のお前を見せろ』
「だから………何なんだよ……。親父……もう……勘弁してくれ。俺の頭から出ていってくれ……」
水を浴びたような汗。マラソンした後のように息が荒い。
俺は、自分の眼前に立つ死んだはずの親父を見た。
『あの女を殺せ』
「………七美…のことか? ………ふざけるな……。俺に出来るわけがない。こんなに愛しているんだから……」
『俺達、親子を不幸にした』
「ちが…う……」
『アイツらは、悪魔だ』
「違うっっ!!」
『………………』
「七美はさ、親父が作った借金を全部返済してくれたんだよ?………それなのに、勝手に自殺したのは、親父じゃないか……」
『アイツらが殺した者達の血が染み付いた汚い金だ。そんなものただの』
「金は、金だろっ!! もう………消えてくれよ…………頼むから………」
俺の家には、一つも鏡がない。だいぶ前に全部、割って捨てた。俺は、歪んでいく自分自身を見るのが恐い。親父が残した憎しみに囚われていくのが、恐くて恐くて……。
本当にいつか、七美を傷つけてしまうんじゃないか……。憎しみに支配され、殺してしまうんじゃないか……。それを本気で考えてしまう自分が、恐い。