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私は、彼の秘密を知っている。
彼と同棲を始めてから初めての冬。息も凍るような寒い夜だった。昨晩から降り続く雪で交通機関は完全に麻痺した。そんな視界ゼロの猛吹雪の中、その雪道を彼は高熱で動けない私をおんぶして病院まで歩き続けた。
「タツくん…」
「大丈夫だよ、モモちゃん。もうすぐ病院に着くからね。ほんとに、あともう少しだからさ。頑張って!」
その時、周りに異質な敵の気配がした。
ヒュッ!
「…………っ…」
飛んできたナイフが彼の左足に刺さった。一瞬、グラッと傾いた体。それでも彼は、私を背負い直すと何事もなかったかのようにまた歩き出した。
「…降ろして………」
このままじゃ、二人とも殺られてしまう。私が時間を稼ぐから! だから、タツ君だけは逃げて。
でも……。
私の意思に反して、弱りきった体は全く動かない。
ヒュッ!
ヒュッ!
容赦なく、彼の体に突き刺さるナイフ。
だけど、なぜか私には掠りもしない。
その時、気づいた。彼が、ナイフの軌道を先読みしていることに。
少しずつ。
着実にーーー。
彼の思考と動きが、洗練されていく。
ヒュッ!
ヒュッ!
ヒュッ!
負傷した彼は、私を背負ったまま最小限の動きで見えない敵の攻撃を確実に躱していく。
彼はランキング外のはず……どうして……。
気づいたら、彼の周りを黒い靄が慕うように踊り狂っていた。
「あなた………」
遂に我慢が出来なくなり、姿を現した敵の群れが、私達を襲ってくる。
「モモちゃん。キミは、絶対に僕が守るから」
数分後。
私達の背後で横たわる、顔が潰れた赤黒い雪だるま達。
あの猛吹雪の夜以降、私を襲う殺し屋は激減した。私達を襲ってきたのは、海外マフィアが雇った殺人クラブのメンバー。有名な彼らを一夜で皆殺しにした噂は、日本だけでなく世界中に広まり、現役の頃よりも私は周囲から恐れられた。
でも、真実はまるで違う。
だって私は、何もしていないから。
「あっ!? 着いたよ、病院。はぁ~~~……良かったぁ~」
「あなた……。私が大好きなタツ君だよね?」
「え? あ…うん……。その蔑んだ目、やめて」
「ジィーーーーー」
私だけは、知っている。
彼の本当の姿をーーーー。




