18
竹林を抜け、小高い丘の頂上に今も家族ごっこを楽しむ母親(仮)と娘(仮)がいた。
深夜二時。他には、誰もいない。
「海ちゃん。こんな時間に呼び出して。私に話って何?」
『ママはーー』
「…………」
ヒュッ。
風のように走った幼い娘は、躊躇なく母親に向かって白い拳を繰り出す。
パシッ!
常人の反射速度を超えた狂拳。それをニコニコ笑いながら眼前で止めた母親。
「海ちゃんは、反抗期?」
『やっぱり……。ママは、普通の人間じゃない。パパを騙してる』
「そうだね……。海ちゃんだから話すけど、本当は私、殺し屋なの。今まで数えきれない人を殺してきてる。鈍感なタツ君は、そんな私の正体を知らない。海ちゃんの言う通り、騙すのはとっても悪いことだよね」
『………本当の事を言うのはダメなの? パパは優しいから、それでママを嫌いにはならないよ』
「うん。それは、分かってる……。タツ君が普通の優しい男だったら、とっくの昔に話してた。私達が殺し屋同士じゃなかったら」
『パパも殺し屋なの?』
「そうだよ。だからね、真実を話したら同じ殺し屋のタツ君なら、私の置かれてる危険過ぎる状況が理解出来るはず。一年中、毎日毎日。夜も寝ないで、私のナンバーを狙う世界中の殺し屋から私を必死に守ろうとするはず。とっても彼は、優しいから……。そして近いうちに彼は、私の為に死ぬことになる。それは、耐えられない………。タツ君が、私の為に傷ついて血を流すのは…我慢出来ないの……」
両膝を地面につき、幼い娘に抱きつきながら、涙を流す母親。その母の頭を優しく撫でる娘。
『ママ……もう泣かないで。ママの秘密、私も守るから』
「それじゃあ、海ちゃんも悪い人になっちゃうよ?」
『いいの、悪くて……。素晴らしい世界を見せてくれたパパには、私も死んでほしくないから……。絶対に』
……………………。
………………。
…………。
ボロアパートに帰り、同じ布団の中で眠る三人。
母親(仮)は、世界中の殺し屋から命を狙われる最強の殺し屋。
父親(仮)は、ランキング圏外の鈍感過ぎる殺し屋。
娘(仮)は、世界を滅ぼす生物兵器。
「タツ君……大好き……」
『パパ……あったかくて、良い匂い…』
「………ぅ……ぅ……」
家族ごっこでもいいーーー。
こんなに幸せなら。
そう思える優しい夜だった。




