13
悪者退治がパパの予想より早く終わると、暇な時間が私には残る。私の部屋にある暇潰しの道具は、お人形と本が一冊だけ。
あっ!
お菓子の残りが少ないから、大事に食べなきゃ……。パパにまた頼まないといけない。
私は、チョコ味の飴を舐めながら、何度も読んだ本をまた最初から読み始めた。主人公の女の子が、無人島で暮らす話。でも、なぜか最後の数枚が破られていた。だから女の子が青い海を見つめ、何かを言おうとしている場面で話は終わっていた。
『………』
本を閉じ、私は真っ白な床に寝転がった。手足をバタバタ動かす。海で泳ぐフリ。
海ーーー。
見たことない。きっと、私の想像を越えたもの。
『海……見たいなぁ』
パパは、この部屋から出ることを絶対に許さない。だから私は、死ぬまでこの部屋にいるしかない。その事を考えると胸が痛くなった。たまに目から涙も出る。
これって、体の病気かな?
今度パパに言って、お医者さんに診てもらわないと。
『……………』
天井には、黒いスピーカーとこの部屋の空気を浄化する装置が設置されている。
部屋の前方には、鉄の扉。本気を出せば、あの扉くらい破壊出来そう。破壊したら、外の世界を見れる。
ねぇ…パパ………。
本当に外の世界は危険なの?
『はぁ……はぁ…』
気づいたら、私は鉄の扉を破壊して、白い部屋を裸足で飛び出していた。
ビーーーーーーーッ!!
ビーーーーーーッ!!
今まで聞いたことのない不快な音が、頭に響いた。天井に設置されたスピーカーから、パパの声が聞こえる。足音も。
『パパ……ごめんなさい』
「早く部屋に戻りなさい」
『あの部屋には戻りたくない』
「今すぐ戻れっ!!」
『……戻り…た…く……ない………』
「お前は、俺の言う通りにしていればいいんだ! あの部屋に戻らず、このまま逃げ続ければ、俺達はお前を殺さないといけないんだぞ!!」
『………………』
耳を塞いで、裸足で走り続けた。
はぁ………。
はぁ……………。
出口はどこ?
迷路みたいで……分からないよ。
分からない……。
どうしよう……。
『はぁ…はぁ……はぁ…』
狭い通路の角を曲がると、男の人が立っていた。
「もしかして、この警報の犯人はキミ? 初日から大忙しなんだけど。こんなに夜間警備って大変だったんだ」
『……私を殺すの?』
「すごいっ! 頭に直接、キミの声が響く。いやいや、僕はただの警備員だよ。人殺しじゃない。キミを捕まえるだけ。手荒なことはしたくないから抵抗しないでよ」
『お願いします。私の邪魔をしないでください。お願いします。お願いします。外の世界……見たいだけなんです』
「…………………」
私を追ってきたパパとその仲間に通路の前後を囲まれた。もう私に逃げ場はない。
「キミさぁ……今、何か持ってる?」
『………』
「ここから逃げたいんでしょ? だったら、僕が手伝うよ。でもさすがにタダってわけにはいかないからさ」
私は、左右両方のポケットの中を探った。最後の一個。後で舐めようと思っていたチョコ味の飴が出てきた。それを男に震えながら手渡した。
「うん! これで大丈夫だよ。その腫れた足じゃ、もう走れないよな~」
そう言うと、私をおんぶした。
「お前、いったい何してる? 早くそいつを俺達に渡せ。そして、お前は持ち場に戻れ」
「嫌です。僕は、この子を外の世界に連れていきます。絶対に」
「そうか。……………分かった。じゃあ、その出来損ないと一緒に死ね」
『…………やっぱり…わたし』
「大丈夫だって! だから少しの間、目を閉じてて」
パパ達の怒鳴り声と無数のバンバンバン。
血と煙の臭い。激しく揺れる体。
初めて感じた人間の温かさ。
…………………………………。
…………………………。
…………………。
何でもする。だから最後に一度だけ。
お願い。
奇跡よ。
私達を外にーーー。




