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三週間後。僕達は、高級ホテルから出て格安アパートに引っ越した。
モモちゃんは文句一つ言わず、僕についてきてくれた。
引っ越しそばを食べた後、狭いソファーでくっつきながらバラエティーを見ていた。
「あ、言うのが遅くなったけど新しい仕事見つかったよ。早くお金貯めて、もっと広い所に引っ越すから。だから、それまで我慢してね」
「えぇっ!? もう仕事見つかったの? 嘘でしょ? ゲームと現実、ごちゃ混ぜになってない?」
「それくらいの区別つくわ……。研究施設の夜間警備の仕事なんだけどさ。今、人手不足みたいで面接一分ですぐ決まった。タイミング良かったみたい」
「おめでと………」
「頭がガクガク揺れてるけど、大丈夫?」
妻は、涙目で僕の胸元にすがりついた。
「くっつける時間……減っちゃうね……」
「ハハ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。基本的に残業もないみたいだし。前の仕事より、よっぽどホワイト。二人の時間は、そこまで減らないから」
「夜勤でしょ。幽霊さん出るよ?」
「ホラー大好きだから、むしろ大歓迎!」
「変態さんも出るよ?」
「勤め先は、超一流企業の『バブルフィーダ』だよ。セキュリティ万全だし、そんな変な輩はそもそも侵入出来ないって」
「………簡単なお弁当作るから、持って行ってね。お腹すいたら軽く摘まめるように………」
「ありがとう」
モモちゃんの頭を撫でようとした。
ビュッ!
その瞬間。凄まじい速さで腕を背中側に捻られた。
「いだだだだだだだぁーーー!!!! 痛っ……。なんでぇ!?」
「貴様は、そんなんで本当に警備なんて出来るのか? ビルの中は、血に飢えたモンスターだらけだぞ。油断するな!」
「……あ、うん。気を付けるよ」
「よしっ! そろそろ一緒に風呂でイチャイチャするぞ。油断するな! 気合い入れろ!」
「はいっ!!」
僕達は、軍隊の行進のように風呂場に向かった。
でもーーーー。
この時のモモちゃんの言葉が、あながち間違っていなかったことを僕は後日、嫌というほど思い知ることになる。
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深夜一時。
【バブルフィーダ施設内 第八隔離エリア】
静かな部屋。
私以外に誰もいない。天井から、声がする。パパの声だ。
「何か欲しい物ある?」
『…………』
「そう……。何かあったら、パパに教えてね」
『はい』
「じゃあ、次の悪者退治もお願いね」
『はい』
ビーーーーーッッ!!!!
目の前のドアが、開いた。少しだけ外が、見えた。私が知らない外の世界。
産まれてから、ずっと私はここにいる。この白い部屋にいる。部屋の外は危険だから、絶対に出ちゃダメだとパパに言われている。いつものように私の部屋に悪者が入ってきた。
私は、悪者が嫌い。
パパが、悪者が嫌いだから。
私が彼らを退治しないと、世界はもっとダメになってしまうとパパが前に言っていた。
この悪者は私を見ると、
「あなたを倒せば、ここから出られる。あなたを殺せば……」
『……?』
意味が、分からない。でもこの悪者も前の悪者と同じことを言っていた。
私は、少しだけこの悪者と話をすることにした。
『ここから出て、どうするの?』
「えっ! 何、これ!? 言葉が頭に響いてくる」
『ここから出て、どうするの?』
「……………そんなの決まってるじゃない。家族のとこに帰るの! あなたにもいるでしょ? 心配してくれるパパやママが」
カゾク?
ママはいないけど、私にはパパがいる。まだ一度も会ったことがないパパ。いつも声だけ。
パパは、家族?
分からない。
「ごめんなさい。あなたには、悪いけど。私は……。私は……もう帰りたいのよ!!」
悪者は、いつものように首に大きな注射を突き刺した。中の緑色した液体を流し込む。
十秒もしないうちに悪者の体が、だんだんと大きくなる。
「だがら………死ん…デ……」
私を襲おうと向かってきた。鋭い歯。爪。尖った耳。
『やっぱり……。悪者は、みんな一緒』
私を傷つけようとする。仲良く出来ない。
ピギュッ……。
私は、思い切り悪者の顔面を殴った。すると悪者の頭から、ブリュッと脳ミソが飛び出て、目玉や良く分からない血の塊が、部屋に散らばった。
あ~ぁ。また、部屋が汚れちゃった。
「良くやった!! さすが、パパの娘だ」
『パパ……。パパは、私の家族?』
「あぁ。もちろん」
パパ……?
なんで嘘をつくの。




