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冷やし上手な彼女  作者: カラスヤマ
秘密
6/66

#悪魔

僕は、この悪魔がいる屋敷が大嫌いだった。いつもいつも弱い僕達をイジメるからーーー。


それでも父さんは、悪魔にお金を借りる為、今日も屋敷に行く。父さんの工場が潰れそうだから………仕方ない。どこの銀行も父さんには、お金を貸してくれない。


早くお金を何とかしないと、父さんと一緒に死ぬしかない。………でも、死ぬのはそこまで恐くはなかった。この前死んでしまった母さんに天国で会えるから。


家で待つように言われたけど、僕は隠れて父さんの後を追った。父さんは、門の前で土下座をしていた。………泣いている。


そんな父さんの姿が、すごくショックだった。


「お願いしますっ! 話だけでも聞いてください!!」


父さんの丸い背中が震えている。


門が少し開いて、中からサングラスをかけた大男が出てきた。そして、その男はサッカーボールのように思い切り父さんを蹴った。きっとコイツには、父さんが人間には見えていないんだろう。


「いつもいつも門の前で……。邪魔なんだよ、クズがっ!! 死ね!!」


思い切り蹴られた父さんが、地面に血の混じったゲロをした。

僕は我慢が出来ず、うずくまる父さんの前で、泣きながら男を睨んだ。


「へぇー、こんなガキがいたのか……。ハハ、お前に似てバカそうなガキだなぁ。おい、ガキ! そのゴミを早く持って帰れ。これやるからよ」


目の前にヒラヒラと一万円札が舞ってきた。


父さんを馬鹿にされた悔しさと怒り。悲しみ。


「ころ…す………。殺すっ!!」


………………………。

………………。

…………。


帰り道。

父さんは、男に殴られ気絶した僕をおんぶしながら、何度も何度も僕に謝った。


「ごめん…な……。ほんと…ごめん………こんなダメな親父でさ……」


その温かく、大きな背中に僕の涙が染みていく。



父さんは、次の日も屋敷に行った。僕は、怒られるのを覚悟で昨日と同じように隠れてついていく。また、殴られるかもしれない……。正直、死ぬほど恐かった。


屋敷に着くといつもと違い、門が開いていた。黒い車が門の前に停まっていて、屋敷の中から僕と同じくらいの年齢の女の子が出てきた。


色のない目。生きているけど、死んでいるような……そんな感じ。


「お嬢様、お嬢様。お願いします! お父様に会わせてくださいっ!!」


「……………」


両膝をつく父さん。女の子には、明らかに無視されている。


恐いあの大男じゃないから、殴られないだろう。僕も父さんの隣に立ち、


「お願いします……。お願いします……」


自分と同じ年齢の女の子に何度も頭を下げた。



「すごく臭いわ……あなた達……」



それだけ言うと、車に乗って僕達の前から消えた。


ーーーーやっぱり、この屋敷には悪魔しかいない。本気で、そう思った。


それからしばらくして、諦めていた銀行の融資を奇跡的に受けられるようになった為、父さんはこの屋敷に来なくなった。


でも僕は、毎日のように屋敷まで足を運び、遠くから観察した。また、あの女の子が出てきたら、頬っぺたを思い切り引っ叩いてやりたかった。これは、復讐。

どうやら僕は、相当根に持つタイプらしい。


その日は運が良く、この前のように高級外車が門の前に止まり、中から綺麗な服に身を包んだあの女の子が出てきた。相変わらず、無表情で何を考えているか分からない。僕は慌てて、女の子まで走った。


その時ーーーー。鼓膜が破れるような爆音がした。


一瞬で大破した車は、今も黒煙を吐き続け、燃えている。女の子を守ろうとした黒服が誰かに撃たれ、血を流して倒れていた。


あの女の子は…………怯えながら、泣いていた。


強引に女の子の手を引っ張り、後からきた白い車に押し込む男二人。


素人でも分かる、典型的な誘拐だった。


女の子を誘拐した車が、物凄い勢いで僕の方に向かってくる。


「…………いい様………天罰だ……」


屋敷にいるのは、悪魔だけだと思っていたのにーーー。


ほんの一瞬、僕のことを見た女の子の目。僕と同じ悲しい色をしていた。



だからっ!!


落ちていたレンガを拾い、僕は道路に飛び出した。

思い切り車の窓ガラスに当ててやった。


砕け散るガラス。宙に舞う体。驚いた運転手がハンドルを切り、壁に激突した。


ほんとーーーバカなことをしたよ。


僕は、それから数日間。生死の境を彷徨うことになる。




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