②
七美には黙っている。
七美の両親に結婚の報告をしたあの日。帰りの飛行機待ちをしていた国際空港で、パパさんから電話があったことを。
『青井君。今、君の後ろに黒シャツの男が見えるだろ?』
「はい……。見えます」
『彼はね、雇った有名な殺し屋だよ。指を鳴らせば、その三秒後に君はあの世行きだ』
「…………」
『そんな哀れな君が助かる為に、俺の最後の質問に答えてくれ』
「はい」
『どうして、俺達夫婦がいつも仮面を被っていると思う? 運命を決めるラストクエスチョンだ』
「……そう……初めは………あの仮面は……素顔を隠す為だと思っていました。神華は敵も多く、素顔を晒すのは危険だ。仮面を被っていたら、影武者も用意しやすいでしょうし。でも……違う……。根本的に違った。あれは、そう……あなた達が仕掛けたトリックで。そもそも……あの仮面の男、アイツ自身が全くの偽物。別人だ。『仮面=あなた』だと俺たちは無意識に刷り込まれていた。もしかしたら、あの仮面夫婦は死刑囚で完璧な父親と母親を今も演じているだけ。あなた達に命令されて」
『……それが君の答え?』
「はい。この会話、あなたと俺の今、この電話だけが真実だと思う。だってさ、電話だけはあなたの口調が若干違うし、自分のことを『俺』って言ってるじゃないですか」
『……………』
突然、肩を叩かれた。振り向くとそこには。
四十代くらいの男女がいて。ジーパン姿で眼鏡をかけた真面目そうな男性と紺色のワンピースを着た可愛らしい女性が立っていた。
二人とも優しく俺に微笑んでいる。
「娘しか知らない。これが俺達夫婦の本当の姿だよ」
「ハハ……。神華の王……。実物は、意外と普通っすね。でも、本当のあなたに会えて良かったです」
「青井君。神華に産まれてしまった不幸な七美に普通の女性の幸せを与えてあげてほしい。神華は関係ない。人の親として君に頼むよ」
「はい! 必ず、七美さんを幸せにします。あっ、お母さんも娘さんは俺が守りますから安心してください!!」
「昔の正義にそっくり。優しいし……強い」
「でもさぁ、俺の方がイケメンだったよな? 零七」
「冗談やめてください。タマ君の方が、何倍もカッコいいです」
「えぇ~~、マジでかぁ」
俺の前で冗談を言い合うご両親に深々と頭を下げる。しばらくして頭を上げるともう二人の姿はなかった。
「ハハ……忍者かよ」
これが最後。もう二度と会うことはないかもしれない。七美の両親。
本物の悪魔には。




