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「体調は、どう?」
「うん。元気……」
「学校さぁ……色々あったけど大丈夫だよな?」
「大丈夫だよ。今も二川と番条が、学校を元通りにしてくれてるから。退学にされた生徒も徐々に戻ってきてる」
「それなら良かった。やっぱり、この学園は、会長の七美がいないとダメだしな」
「………その事なんだけど、私ね。会長の仕事をしばらくお休みすることにしたの。その間は、二川が会長代理。なんだか……少し疲れちゃったから」
「そっか……。分かった。じゃあさ、ゆっくりしよう。七美は、今まで頑張り過ぎてたし」
「……………………」
「…………………………」
「タマちゃんは……私のこと……恐い?」
「恐くない」
「悪魔になっても?」
「恐くない」
「どうして?」
「七美は、七美だから。神華の悪魔が出てきても。それは俺が愛した七美本人だから。恐くないよ」
「やっぱり……バカだよ。タマちゃんは」
「かもな。よし! 気分転換にさ、散歩しない?」
「…………」
「どうした?」
「今は、タマちゃんとこうやって一緒にくっついていたい」
「七美、愛してるよ~」
ふざけながら、七美を抱きしめ、その胸に顔を埋めた。
俺は、誤魔化した。この動揺。
「ありがとう。大好き……」
頭にポタポタと七美の涙が落ちてきた。
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卒業式。
学園は、数十本の桜に囲まれ、春に包まれた。最後の校歌が、第一体育館から聞こえてくる。
あんなに嫌だった校歌。なんだか今は最高に耳に馴染み……。
俺は一人、教室に残っていた。ぼんやりと三階の窓から体育館を見下ろしていた。桜の花びらが、俺の前をひらひらと横切り、春の匂いだけを残していく。
「卒業おめでとう。青井君」
「会長……。卒業おめでとうございます。ところで、会長は出なくていいの? みんな体育館に集まってる。会長を待ってるよ。早く行った方がいい」
「それは、青井君も同じでしょ? こんなところにいたら卒業証書もらえないかもよ」
意地悪く笑う。
「面倒臭いんだよ、あぁいう式……。校長の話もバカみたいに長いしさ」
「ハハ、確かに校長先生の話は長いよね。僕も苦手だな。………青井君は、卒業したらどうするの?」
「とりあえず、県外の中小企業に就職かなぁ。バカな俺に内定くれる、有難い会社があったから。………会長は?」
「……ぼくは…神華の人間だから……決められた茨の道を目隠しで進むだけ……」
「そっか………。あの、俺さっ!!
会長には全っ然、関係ないんだけど近々結婚する予定なんだ。狭いアパート借りてさ、そこで二人で暮らす」
「………結婚?」
「うん。ソイツとは、ずっと一緒にいたいから。俺には勿体ない出来た女だよ」
「…………結婚なんて出来ないでしょ。悪魔と結婚して、君に何のメリットがあるの?
リスクしかない。今、彼女の前から去っても誰も文句は言わないよ。むしろ、感謝してるくらいだし……。青井君は、良くやったよ。きっとさ、その女も一人のほうが気楽でいいって言うよ」
颯爽と教室を出て行こうとする会長。
「待てっ!」
ガシャンッ!! 倒れるイス。
俺は会長の左手を。白く細い腕が、壊れてしまうんじゃないかと思うくらい強く握っていた。
心臓がドクッと大きく跳ねて。
「随分弱気だなぁ。今日の七美は」
「私は、一人でも生きていけるから……大丈夫。だから、これ以上優しくしないで……」
その小さな体を後ろから抱きしめた。
「七美、結婚しよう。世界中の人間から嫌われ、唾をかけられ、否定されても……それでも死ぬまで二人でいよう。だからさ、一つだけなんだけど。別に大した事じゃないんだけどさ、結婚の条件があるんだ」
「…………」
「未来が見えるお前には、もう分かってるだろ?」
俺達は、結婚した。七美は、俺の条件を涙を流しながら受け入れてくれた。
卯月さんと心には、大袈裟ではなく、本当に死ぬほど殴られた。それでも最後は二人とも許してくれた。
七美のご両親は………。海外の別荘でこの話をした時、二人とも無言だった。無言で始まり、無言で終わった。
正直、それが一番恐かった。まぁ……あまり深く考えないことにしている。
「これからも宜しく、七美」
「はい! 不束者ですが、宜しくお願いします。魂日さん」
「今まで通り、ちゃん付けで良いよ?」
「はい! 分かりました。魂日さん」
「……………」
七美は、神華…。悪魔の仮面を脱ぎ捨て。
俺の妻『青井 七美』になった。




