もしも願いが叶うなら?
「あ、流れ星」
君とふたりで歩く、コンビニ帰りの夜の道。
夜空を見上げて、君がはしゃいだ声を上げた。
「え、どこ?」
鈍臭い僕は遅れて空を見上げ、けれど不動の星しか見つけられない。
「もう流れちゃったよ」
君が苦笑する。
「そっか、残念」
そう返した言葉の吐息が、白く空にかすんで消えた。上げた首とマフラーの隙間から冷たい夜気がすべり込んできて、思わず身震いする。ホットドリンクのペットボトルをぎゅっと握りしめた。
「お願いごとできた?」
君の横顔に視線を戻して訊ねる。君はもう一度苦笑した。
「早すぎて無理だよ。流れた! ⋯⋯と思ったら消えちゃうんだもん」
「一瞬だもんね」
「そうそう! なにお願いしよう、って思ってる間に消えてるもん」
「その上、三回も念じるなんて無理だよね」
「そんな瞬発力あるんだったら自力でどうにかできるよね」
「そりゃそうだ」
そんな芸当やってのけるだなんて、普段からよほど執念深く願っていることでもないと無理だ。
そしてそんな人間は、それに向かって少なからず努力しているものだ。流れ星に願わずとも、叶う確率が高いに決まっている。
ふたりでけらけら笑いあった。そう考えると夢がないね、と君は少し残念そうだった。
「ねぇ、もしも願いが叶うなら、なにをお願いする?」
君はコンポタージュの缶を頬に当てて暖を取りながら、悪戯っぽく問いかける。
「⋯⋯君は?」
さっき君が言ったように、急に言われても願いごとが思いつかなくて、逃げる。
質問を返されて、君はうんうんと唸りながら、
「えー、うーんとね、あ、宝くじが当たりますようにってお願いする!」
輝くように笑った。それこそ、星にも負けない眩しさで。
「あぁ、いいね」
「あとね、世界旅行! 九龍で美味しいもの食べたいし、ヴェネツィアでゴンドラ乗りたいし、イエローナイフでオーロラ見たい!」
「素敵だね」
「あとね、テーマパークで連泊して、アトラクション制覇!」
「楽しそうだね」
「クルーザーにも乗ってみたいなぁ!」
「酔いそうだけど」
「酔い止め飲むから大丈夫!」
ピースサインをする君。そんな君の素敵な願いを、僕はどれも応援したくなった。
「僕のお願い、今決まった」
なぁに、と君はにこにこと首を傾げる。僕は、すっかりぬるくなったペットボトルを握りしめる。
「君の願いが、全部叶いますようにって願うよ」
流れ星じゃないけれど、叶えられるものは手伝うと決めた。
2020/11/04
「流れ星を見たい!」が願い事なら、三回唱えなくても叶いますね!