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第1話 プロローグ

 突然だが、私は生死の狭間をさまよっています。

 この日は夜更かしで寝坊すると学校に遅刻しそうになって、信号を無視した挙句に車に撥ねられた。

 100%、自業自得の結果なのは承知している。

 私の名は黒井白子(くろいしらこ)

 現在、高校二年で現役の女子高生。

 友達からは名前の白黒をもじって、オセロと呼ばれていた。

 意識を取り戻して覚醒すると、一面青空で花畑が敷かれた空間に白いローブを纏った女性が胡座をかいていた。


「おっ、目覚めたか。ちょっと待ってろ、もう少しで終わる」


 よく見ると、女性はスマホで何か操作しているようで取り込み中のようだ。


「クソがぁ! また失敗か」

「あの……ここはどこですか? もしかして、天国だったりして」

「いや、私の自室だ」


 どうやら、天国ではなく女性の自室のようだ。

 ぶっちゃけると、身体に大きな衝撃と共に宙を舞った感覚があるので到底無事に生きているとは思えない。加えて、白いローブの女性と花畑のセットが目に飛び込むと、ここは天国であの人は女神だなと解釈した。

 このシチュエーション、今流行りの異世界転生でもするのか。

 異世界に巣食う魔王を倒すために勇者として派遣されたり、はたまた乙女ゲームの悪役令嬢に転生したりするのだろうか。


「君を呼んだのは他でもない。こいつを攻略して欲しい」


 女性が先程のスマホを見せると、ソシャゲのRPGだった。

 偶然にも、私も同じゲームをやっていたので、女性に妙な親近感が湧いた。


「あー、それパーティー変えた方がいいですよ。回復役二枚入れるより、短期決戦用にアタッカーを入れた方が楽に攻略できます。ちょっと貸して貰ってもいいですか?」

「ああ、頼む」


 女性からスマホを受け取ると、手際良くパーティー編成して攻略を進めていく。

 基本的なルールはクエストを受注したりして敵を倒すRPGと変わらないが、これは少々特殊なRPGで、攻撃や防御の所作は基本的に出題されるクイズに正解する事で成立する。

 私の場合、暇つぶしで始めたのだが、クイズは日を追う毎に新しい問題が追加されてクイズのマンネリ化もなくストレスなく楽しめているし、RPGとしても申し分ない。クイズのジャンルには文系、理系、芸能、雑学、アニメと言った分野から出題される。

 例えば、文系だとこんな感じだ。


『アメリカ合衆国歴代大統領で第二代大統領の名前は?』

⒈ジョージ・ワシントン

⒉ジョン・アダムズ

⒊トーマス・ジェファーソン

⒋ジェームズ・マディソン


 正答率は62%と表示されて、四択の中から正答を選ぶ。解答時間は5秒間の猶予が与えられる。

 初代大統領の名前と言うパターンもあるが、こちらの正答率は97%となっている。

 学校の授業等で初代大統領の名前を習ったりしているだろうが、二代目大統領となると正答率はやはり初代大統領と比べて下がってしまうのは仕方がない。

 私はこのソシャゲに関して、それなりにプレイ歴は長いので、この手の問題は過去に何度もぶち当たっているおかげで雑学として記憶している。


「2を選択してと。はい、攻略完了です」

「おお、すげぇ」


 スマホを女性に返すと、女性は攻略完了画面を見つめながら感嘆の声を上げる。


「お前、見かけによらず頭が良いな」

「見かけにって初対面の女子高生に失礼な人ですね」


 実際に学校の成績は平均以下なので、あまり強く言い返せない自分がもどかしい。


「まあまあ、そうかっかしなさんな。私は褒めているんだぜ」

「ところで、ここは貴方の自室らしいですけど、たしか私は車に轢かれた筈ですが……」


 女性が私の肩を軽く叩いてなだめると、労いの言葉を送る。

 それより、自身が置かれている状況を確かめるために私は女性に怖々と訊ねる。


「私がお前さんの魂を運んだ。とりあえず、転生先をどうすっかなと相談するためにね」

「じゃあ、貴方はもしかして女神様的なポジションの人ですか?」

「その通り。一応、女神をやっている。あ、これ名刺ね」


 フレンドリーに一枚の名刺を手渡すと、名前と役職を示す『魂管理部課長アリス・ケッテンダー』と印字されている。


(やはり、この人は女神だったんだ)


 転生先をどうするか相談すると言っていたが、いざ自分が転生される立場になると緊張してしまう。

 勇者か悪役令嬢か分からないが、最近では平凡な村人等に転生してスローライフが主流だ。

 怪我したり痛い思いは車で轢かれただけで十分なので、転生するならスローライフも悪くない。


「実はさ。現在、転生先はどこも満席状態だから、君を生き返らせて元の世界に戻そうと思う」

「えっ?」


 満席って、まるで飲食店に長蛇の列ができて席が埋まっているから諦めてくれと言わんばかりの突き返し方をされるとは予想外だった。

 仮に生き返らせてくれたところで、車に轢かれた私が五体満足に動かせる保証はない。


「ちなみにですが、転生を選んだ場合はどれぐらい待たされたりしますか?」

「んー、軽く一万年かな。一万年近くここで待機になるけど、それでもいいなら……」

「待って下さい!」


 私の問いにアリスが指を数え始めると、衝撃的な答えが返ってきた。

 こんな花畑しかない空間に一万年もいるのは気が狂いそうだ。

 リスクを負って元の世界に帰るか、一万年も待ちぼうけを食らうか究極の二者択一を迫られる。


「……まあ、私を手助けしてくれたし、特別に生き返っても怪我や後遺症もない状態で戻してあげるさ」

「本当ですか!?」

「神様、女神様に二言はない」

「ありがとうございます!?」


 ドヤ顔のアリスに私は感謝の意を示すと、迷う事なく元の世界に戻って生還を選択する。


「じゃあ、早速行くよ」


 アリスが魔法のような呪文を唱え始めると、私の足元から奇妙な魔法陣が浮かび上がる。


「あっ……やべ、間違えた」


 最後に不吉な言葉を残して魔法陣が完成すると、私は意識を失った。


 次に目が覚めると、車に轢かれた横断歩道の前で倒れている私を心配して歩行者が声を掛けてくれた。


「君、大丈夫かい?」

「あ……はい」


 私は気の抜けた返事をすると、スマホを取り出して時刻を確認する。


(やばい、学校に遅刻する!)


 妙な夢を見たが、今はそれどころではない。

 私は一礼してその場を立ち去ると、急いで学校へ向かった。

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