Story 初恋 × 元遊び人①
俺が選んだカードは……
¨ジェレミー・ブリアック¨
とりあえず、気が合いそうで友達として、仲良くなれそうだし、あの中だと、妥当な選択だと思う。
……恋人っていうのが、どうにも、想像できないんだけど、この選択が、どういう風に影響するのかも分からないし、まぁ、様子を見ながら、大人しくしておこう。
光に包まれたはずの、俺は、気がつくと自分のベッドで眠っていた。辺りはまだ薄暗い。
(……夢、だったのかな)
ぼんやりと考えながら、俺はまた、夢の中へ戻っていった。
翌朝、見事に二度寝してしまい、マリーにまた、叩き起こされ、髪も服も適当なまま、馬車に放り込まれた。
怒りのマリーに制服のボタンすら、付けてもらえなくて、リボンとかも、よく分からないけど自分で付けた。
髪は髪質がふわふわしているのが幸いして、適当にとかせば、なんとなく落ち着いたが、結ぶのは、洋服よりもっと難しくて、こちらも適当に紐で縛った。
馬車通りで下ろされると、前を歩くオレンジ頭が見えた。どうやら、ヤツは遅刻の常連らしい。
「よー!ジェレミー、おはよー」
声をかけずに、後ろを歩くのも気まずいので、一応挨拶はしておく。
「んあ?レイチェルか、はよ…って!ええ!?」
ジェレミーは、俺を見て、真っ赤な顔をして、口をパクパクしている。
「おい!レイチェル!なんて、格好しているんだよ!」
「んだよ、朝から、うるせーな」
令嬢がうるせーとか言うな、こっちに来い!と言われて、通りの木の陰に連れてこられた。
「いいか!とりあえず、ちゃんと服を着ろよ!」
真っ赤な顔で、横を向きながら、注意してくるジェレミーに言われて、よく見ると、俺のワンピースの前ボタンは、段違いになっていたり、所々ばかっと空いていて、下着まで見えていた。
「あら」
「あら、じゃねーよ!おっっ、お前馬車の中で何していたんだよ!」
「え?寝坊しちゃって、侍女にちゃんと着せてもらえなくてさー。自分でやったら、上手くいかなくて。参ったなー、なんで女の服ってこんなに面倒なんだよー、とりあえず全開にしてやり直すか……」
「待て!こんな人目のある所で、バカなことはすんな!」
「じゃこのままで……」
「いいわけないだろ!ちょっと、クソ、もう知らないからな!貸してみろ」
ジェレミーは、段違いの場所を、上手く調節しながら、穴が開かないように、ボタンを留めてくれて、ついでに、リボンまでちゃんと結んでくれた。
「へぇー、上手いもんだね。ジェレミー慣れてんな」
褒めたつもりだったのに、なぜかジェレミーに睨まれてしまった。
「レイチェルは、恥ずかしいとか、そういう気持ちねーのかよ」
「んー、うち、両親忙しくて、ほとんど一人だったから、いつも、適当だったんだよね。確かに、その辺の感覚ないのかも」
そう言うと、ジェレミーは、なんだか気まずそうな顔をした。
気を使わせるつもりはなかったので、明るく言ったのだが。
「そうか、うちは、小さい妹が二人でいるからさ、着替えとかは、慣れてるから……その…」
「うん、ありがとう!助かったよ。ほら、もう遅刻だけど行こう。悪かったな、時間遅くなっちゃって」
「あぁ、俺は、別に。いいよ、いつもだし、朝は、なかなか起きれねーんだ」
時間は過ぎていたが、一応、急いでいる体で、二人で小走りで、校舎へ向かった。
「ったく、今日いたのが、俺だったから良かったけど、気を付けろよ」
「うん、寝坊しなきゃ大丈夫なんだよね」
「あー、それに関しては、俺も強く言えないわ」
二人で笑いながら、教室の前で別れた。
ジェレミーは、普通に良いやつだ。実に、良い友人になれそうだ。
(友人?あっ……なんか、選んだんだっけ……)
カードを選んだ記憶はある。夢でなければ、何かあるのだろうかと思ったが、普通に友人として過ごした感じだった。
(んー、こりゃ恋が始まりそうもないね)
仕方ないので、情報収集といこう。
わが社の優秀な部下、リュカに、ジェレミーについて聞いてみた。
「ジェレミー・ブリアック様ですか。そりゃ、知っていますよ。派手な外見で、ちょっと怖そうで目立つ方ですが、誰にでも気さくに接してくださると、生徒の間では評判が良いですね。特にオーブリー様と仲が良くて、お二人とも剣術の大会では、ルシアン王子に次ぐ腕前ですね」
(なんか、もう、友人でいいんじゃね)
「どうして急に、ジェレミー様を?まさか気になるとかですか?」
「内緒」
リュカはずるいとか、ひどいとか叫んでいたけど、そのまま置いてきた。
なぜなら、俺は職員室に呼ばれていたからだ。
「えー!空き教室の掃除ですか!?だってまだ…2回目なのに…!」
なんと、遅刻常習者は、ペナルティがあるらしく、俺は教師から、お掃除係りに任命されてしまった。
回数をアピールして粘ったが、2回目からは、逃れられないそうで、泣く泣く引き受けることになった。
放課後、指定された教室に行った。
今は、物置になっているが、今後使う予定というとこで、荷物の移動と、清掃を任された。
「マジかよこれ…、ゴミ屋敷じゃねーか」
長年使われていない、学習用具だか、箱だか、教科書だか、もう色んなものが、うず高く置かれていた。
「おいおいおいー、先生達、ここに適当にぶっこんだんだろ!ふざけんなよー!」
モップを振り回して、全部叩き落としてやりたい衝動に駆られたが、引き受けたことは、キチンとやる性分なので、黙々と作業を始めた。
頭の上に、箱を乗せて、片手に、でっかい地図を持って、移動していたら、階段でジェレミーとばったり会った。
「え!?レイチェル?何してんの?」
ジェレミーは慌てて、箱を持ってくれた。
「ジェレミー……、聞いてくれよぉ、うちの担任、鬼でさ、私、お掃除係にされちゃって、今一人で荷物運んでんの」
「嘘だろ、これを、令嬢一人に任せたの!?鬼過ぎるだろ」
「出来るところまででいいって言われたけど、こういうの、ちゃんとやらないと気がすまなくて」
「ふーん、レイチェル、そういうところ、真面目なんだな。よし!俺も手伝うよ!というか、遅刻魔は俺の方だし」
そう言うと、ジェレミーは教室に行って、手際よく、箱を分け始めた。
「予定とかないの?大丈夫?」
「いや、へーきへーき!」
さすがに、全部は終わらなかったが、重いものは、ジェレミーが担当して運んでくれて、俺は掃除を担当して、最初よりは、見違えるほど綺麗になった。
「やったぁー!これなら、先生喜んでくれるね!」
「………レイチェルさ、ペナルティとか言って、体よく仕事押し付けられたワケじゃん。よくそういう風に、思えるよな」
「そりゃ頭にくるし、大変だったけどさ。私、人に喜んでもらうの、好きなんだよね。それに、汚いところが綺麗になるって気分良いし」
「…………」
いつも、ペラペラとよく話すジェレミーが、やけに静かになってこちらを見ていた。
「ジェレミー?」
「え!?いっっいや、なんでもねー」
何だか、慌てた様子で、そっぼを向いてしまった。
「そうだ!ジェレミー今日手伝ってくれたから、お礼しないとな」
「いーよ、そんなの」
「なんでも言って、体力には自信ないけど」
ふと、考え込んだジェレミーが、じゃあ…と言った。
「今度の休みの日、うちに来ないか?」
「いいよ、予定ないし」
じゃ決まりといって、ジェレミーとは、そこで別れた。
教師に報告に行くと、大変喜んでもらえた。もちろん、ジェレミーの名前も出して、二人でやったことも伝えた。
(休みの日の予定なんて久しぶり!っていうか、友達の家に行くなんて、初めてじゃね)
俺はもう、カードの事とか忘れて、純粋に友人との交流を楽しみ始めた。
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