4. 雨の日の出会い
「頼むよ!!俺サッカー部が忙しくてさ、お前、帰宅だろ、俺の分もやっておいてくれよ」
クラス委員をやっていた時、委員会での集まりで、他のクラスの代表のやつらから、そんな声が聞こえてきた。
見ると、この間、道場に来て、突然話しかけてきたやつが、もう一人のクラス委員に仕事を押し付けられていた。
サッカー部と言っているやつにも、見覚えがあった。
「いいよ」
「わりー!助かったよ、雪ちゃん!」
口を出そうか迷っているうちに、押し付けた男は行ってしまった。
どうしても、気になって声をかけた。
「……あのさ、アイツ、知ってるんだけど、もう、サッカー部辞めてるけど……」
そしたら、こう言われた。
「知ってるよ」
「え?いいの?」
「あいつ、最近彼女出来たんだよ。一緒に帰りたかったんだろ、きっと。そんな事、ここで言い訳にしたらカッコ悪いだろ」
「ったって……」
「いーの!俺、どうせ暇だし。そういうの、応援してあげたいんだよね」
そう言って、笑った。
その笑顔が、やけに頭について離れなかった。
□□□
今朝は朝から雨が降っていた。
いやね、雨なんて、最悪ー。
女の子達がそう言って話しているの聞いたとき。
俺は雨を好きでいてあげようかなと思った。
みんなに嫌われているなんて、可哀想じゃん。
そんな事を思ったのは、いつの事だったか……。
サロンでの地獄のランチの翌日、雨のせいで、馬車がぬかるみにハマって動けなくなり、なんとか、抜け出せたが、完全に遅刻してしまった。
傘をさして、小走りに校舎まで向かっていると、同じく遅刻したらしく、馬車通りから校舎へ、向かっている生徒がいた。
傘がないらしく、鞄を頭に乗せて、歩いていた。多少顔まわりは防げるが、このままだと、校舎に着く頃には、びしょ濡れになってしまうだろう。
ふと、記憶がよみがえる。前に確か、人に傘を貸して、自分がずぶ濡れになって帰った事がある。冷たい雨は、思ったより体を冷やすので、翌日熱が出て、大変な思いをした。これから授業なら、なおさら濡れるのはまずいだろう。
(あー……もう、仕方ないなぁ)
「おい、待って!」
「あ?」
声をかけると、めんどくさそうに、その生徒はこちらを振り向いた。
オレンジ頭で長身の男で、顔は鞄でよく見えない。
「ほら!持って」
傘を顔の前に持っていって、手で持つように促した。
「え?アンタは?」
「一緒に入るんだよ、一本しかないんだから。びしょ濡れで授業受けるよりマシでしょ!ほら、背が高い方が持つ!」
「あっ…あぁ。すまない」
強めに押して、やっと言うことをきいた。
「あなたも遅刻ね、馬車が止まったの?」
「え……?あぁ、まあ。そうだ」
無言で歩くのも気まずいので、適当に話しかけてみた。同じクラスのやつではなさそうだ。
「その、すまない。俺のせいで、アンタ濡れちゃっただろ」
「ん?あぁ、こんなの濡れたうちに入らないって、大丈夫大丈夫、気にしないで」
「……全く、朝から最悪だぜ。こんな雨なんて」
「そうかな、私は雨好きだけど」
「あぁ?マジで?」
「だってほら、こういう思いもよらない出会いがあるでしょ。もしかしたら、これに恩を感じて、あなたが私の宿題を代わりにやってくれるかもしれない!そしたら、ラッキーじゃん!」
「そりゃねーな」
俺は、即答かよ、ちょっとは悩んでくれーと言って笑った。
「アンタ、面白いな。名前は?俺は、ジェレミー」
「んー、レイチェル」
ちょうどその辺りで、校舎に着き、ジェレミーはお礼を言って、先に中へ入っていった。
俺も遅れて教室へ入ると、すでに午前の授業は終っていた。
重要な内容だったらしく、遅れた生徒だけ集められて、簡潔に居残りでやるはめになった。
まぁ、お陰で、昼はアンジェラに捕まらずに、リュカに、ノートを見せてもらって、予習にあてれたのだけど。
□□□
居残り授業の教室へ入ると、早速声をかけられた。
「おっ、レイチェル。今朝はありがとうな」
特徴的なオレンジ頭が見えて、今朝の男だと分かる、ちゃんと顔を見ていなかったが、ずいぶんと男らしい顔のイケメンだった。
「あー、ジェレミーだっけ。いいよ。気にしないでって言ったでしょ」
とりあえず、話しかけられたので、ジェレミーの近くに座った。
「なんだ、ジェレミー。知り合いか?」
ジェレミーの隣に座った男が、話に入ってきた。
眼鏡をかけた、いかにも頭が良さそうな男だが、ガリ勉クンというより、こちらも、品の良い顔をしていて、良いところのお坊ちゃん感が出ている。
「そう。今朝、傘に入れてもらった」
「なんだそりゃ。お前、男なら走って行けよ」
「いや、だって、距離あるじゃねーか。俺は、レイチェルの好意をありがたーく受け取ったの、なっ!レイチェル」
仲良さげな二人から、いきなり話を向けられて、聞いてはいたけど、ビクッとした。
「あ、うん。そうだね」
「それがさ、レイチェルのやつ、恩を感じたなら、宿題をやってくれって言い出して、変わったやつだろ」
「ちょっと!仮の話でしょ!別にいいよ。宿題なら、ちゃんと担当がいるから」
変に受け取られたら、面倒だと思ったから否定しておいたが、二人は担当の方が気になったらしい。二人して不思議そうな顔をしていた。
「あ!優しいお友達ってやつ?おほほっ」
笑ってごまかしたけど、なんだか、訝しんだ目で見られている気がする。
大して興味がなかったけど、話をそらすために、そちらは、ご友人ですか?と横の男にパスを投げてみた。
「あー、こいつは、幼なじみの、オーブリー・ベルトラン」
一応話の流れだし、こちらも挨拶しておく。
「ん?バルザエック家の令嬢か、うちの遠縁にあたるな。幼い頃、会ったことがあるかもな」
世間は狭いものだ。どうやら、オーブリーと親戚らしい。全く記憶にないけれど。
そんな話をしていたら、教師が来て、居残り補習が始まった。
□□□
翌日、昨日の出来事を、特に何も考えず、リュカに話した。
「ついに、全員と話をしたんですね。さすが……ただ者ではないと思っていましたけど」
「は?何の話?」
「昨日、出会ったお二人ですよ。これで、ルシアン王子と、ご友人の方達全員と接触された事になります。いいですか、ルシアン王子のために選ばれた、公爵家の令息達と紅一点のご令嬢です。幼い頃より、友人として引き合わされ、仲良くされていたグループです。他の人間が入ることなど今までなかったのに!すごい事ですよ!」
リュカは、自分のことのように、興奮して小鼻を開いて、鼻息まで荒くなっている。
「あのさー、ルシアン王子とその一味?そうやって持ち上げすぎじゃない?別にみんな普通に話してくれたし、他人を拒むような雰囲気はなかったよ」
「恐れ多くて、誰も近づけないし、僕なんかには、雲の上の方々なんですよ!今、貴族の話題は、紅一点のアンジェラ様です。アンジェラ様が誰と婚約するのか。それで持ちきりですよ、」
(まー、そういうゲームだからね)
「普通に考えたら、王子なんじゃないの?それで集められてたわけでしょ」
全然興味ないけど、一応、リュカの話に乗ってあげた。
「そう思いますよね!僕もそうなんですけど、意外と別の方もあるというか……」
(リュカは情報通で助かるんだけど、よけいな事にも興味持つタイプなんだよなー)
「いや、でも、そこにレイチェルさんも加わるんですね。うん、面白くなりそうだ」
「殴るよ、本当」
そんな可愛い顔で言われても、迫力ないですよと、リュカに笑われた。
(きー!嫌なやつー!)
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「レイチェル!良かった、今日は暇そうね」
授業の終わりまで何もなかったので、てっきり平和な一日かと油断していたら、帰り際、廊下でアンジェラに、ガッチリ腕を掴まれた。
「…アンジェラ、人を捕獲するみたいに捕まえるのやめてくれる?」
「みんながうるさいのよー!レイチェル連れて来いって!ね!ね!これからお茶しましょうよ~」
(なにこれ?またアンジェラの引き立て役のイベントなのか?)
「ちょっと、そういうのは一味で適当にやってくれないかな」
少し冷たい言い方しちゃったかなと見ると、またアンジェラは目に涙を浮かべていた。周囲の視線が痛すぎる。おい、あの子アンジェラ様を…、みたいなのが聞こえてきて、もう俺は諦めた。
「あーもういいよ、分かった!煮るなり焼くなり好きにして」
「もう!大好きー!レイチェル」
俺より背の高いアンジェラが、腕に絡みついてくっ付いてきてそのまま連行される。
地球人に捕まって連れていかれる宇宙人って、こんな気持ちだったのかななんて、よく分からないことを考えて、俺は現実逃避することにした。
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