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転生して女の子!?恋なんて絶対無理!  作者: 東雲草
オーブリー・ベルトラン編
15/30

Story 完璧な男 × 元祖モテ男 ①

 俺が選んだカードは……


 ¨オーブリー・ベルトラン¨


 ………正直、何故このカードを手に取ったか分からない。

 今まで、ほとんど話すこともなかったので、どういう性格かも分からない。

 ただ、ぱっと見た感じ、常識がありそうというか、ちゃんとしていそうな感じがしたので、その方が良いかなと……。


 ただ、怠惰な俺と、気が合うのかは分からない。向こうから願い下げというパターンもありそうだ。それならそれでいいと思った。


 眩しい光に包まれた俺は、目をつぶった。

 遠くで、誰かの声が聞こえる。


 なんだか、とても……怒っているような……。


「おい!聞いているのか!!」


 これは、担任の声だと気がついて、ぱっと目を開けた。


「え?」


「え、じゃない!この点数は、何も勉強していないという事だな!」


 ここは、職員室だった。俺の前には、この間やったテストの解答用紙が並んでいた。

 その全てに赤で、0点と書かれていた。


(なんじゃこりゃ!!の◯太のテストじゃないんだから!)


「そっ……そんな間違いです!私、ちゃんと答は書いたはずです。正解に自信も……」


「じゃあ。ここの公式を答えてみろ!」


「そんなの簡単……!」


 バカにするなと思ったけれど、全然思い出せない、昨日まで頭に入っていた知識が、すっぽり抜けていた。


「……えっ……嘘……」


 俺は補習とか、居残りとかが大嫌いだった。面倒だし、女の子との時間を邪魔されたくなかった。

 この世界の勉強も、要領をつかめば大して変わりがなかったので、今まで苦労せずに、こなしていた。


 なのにー!


「すみません……記憶が………」


 記憶喪失で担任は許してくれなかった。

 ばっちり、毎日の居残り授業のスケジュールを立てられた。

 担任とワンツーマンという、訳ではなく、空き教室で、一人でひたすらプリントをするというもので、絶対眠くなるし、全くやる気が起きず、心の中でひたすら泣いていた。

 しかも、次回のテストでも満点を取るように言われてしまった。


 俺はリュカに、泣きついた。お昼休みを返上して教えてもらったが、不思議と何も頭に入らない。


「これは……、重症ですね。僕より頭の良い方に教えてもらった方が良いかもしれません」


「そんなぁ……、何でこんなに、急にばかになってしまったんだーー、もう終わりだー、何をしても落第人生かよーー」


 その時、俺は閃いた!

 以前、オーブリーに、遅刻した際の補習授業を、まとめてもらった用紙をもらったのだ。その時の完璧さといったら、素晴らしかった。


(うむ、彼しかいないな……)


 俺は早速、オーブリーとジェレミーのクラスへ行った。

 仲の良い二人は、クラスでも、机を並べて話をしていた。


「あれ?レイチェル、どうかしたのか?」


 顔を覗かせると、先にジェレミーが気がついて、声をかけてくれた。


「……やぁ、今日はとても良い天気で良かったね」


 適当な事を言って、気まずい思いで、そろーっと、クラスへお邪魔した。


「ちょっと、そこのオーブリー君に話があるんだけど……、ちょっといいかな?」


「え?俺に?」


 まさか、自分が声をかけれれるとは、思っていなかったようで、オーブリーは驚いた顔をしながらも、俺の手招きに付いてきてくれた。


 廊下の隅まで、軽く引っ張ってきて、わけを話して、俺は拝み倒した。


「頼むよ!この間のテストの範囲でいいから、また、まとめたやつを作ってくれないか?」


「べつにいいけど、そもそも、なんで全て忘れてしまったんだ?」


「えーと、それは……」


「だいたい、基本的な事が抜けているのに、テスト範囲だけ暗記して、ちゃんと理解できるのかよ」


「まーそのー、何というか、そうだよね」


(とりあえず、その場だけしのごうと思っていたのに、完全に見抜かれている)


「えーと、貴族のお前に昼飯奢るって言っても、あほみたいな話だから、何か雑用でもあったら、何でもするから!」


「雑用ね……」


 労働の対価としては、ないに等しいもので、こんな条件でやってもらえるとは思えなかった。


「頼むよー。この間、作ってもらったやつが、すごい分かりやすかったんだよ」


 しばらく眼鏡の奥で何か考えていたオーブリーだが、ため息をついて、俺の顔を見た。


「分かった。じゃ、今日の放課後からだな。遅れるなよ」


「え?」


「え、だと?まさか、本気で俺の作ったやつを丸暗記して終わらせるつもりだったのか?」


「や、そういうわけでは………」


「俺が教えると言うことは、ちゃんと責任持って最後まで指導するという事だ。基礎から覚えて一人で出来るようになるまで許さない。それでないと俺はやらない」


(そんなに、堅苦しくなくても……)


「どうするんだ?」


 ここへ来るまで、色々と逃げ道を考えたが、もうオーブリーしかいなかった。


「あーはい。やりますやります。よろしくお願いします」


(しまったなぁ……。こんなに熱い男だとは……。俺、熱血とかそういうの、苦手なんだけど)


「なんだ?なにか、不満がありそうな顔だな」


「そんな、オーブリー様!滅相もございません!よろしくご指導くださいませ」



 その日の放課後から、空き教室にこもって、オーブリーの指導が始まった。


 まずは基礎から、簡単な問題を作ってもらって、それを解くという繰り返しをして、分からないところは、詳しく解説してもらい、少しずつ、理解できるようになった。


「すごい!さっきまで、全然頭に入らなかったのに、何となく分かるようになってきた!」


「何となくじゃだめなんだか、まぁ今日はそれでいいよ」


 向かい合わせで座っているので、ふと、まじまじとオーブリーの顔を見てみた。


 艶のある黒髪は清潔に整えられて、陶器のような綺麗な肌に、眼鏡の奥の、エメラルドのような緑の瞳は、男らしくキリっとしていた。


「なぁ、オーブリー」


「なんだ、どうした?」


「お前って、モテそうだな」


 オーブリーは、突然関係のない話をされて、びっくりしたのか、解答を採点中だったのに、間違えて机の上に丸をしてしまった。


「おい……急に!何を言い出すんだよ」


「だってさ、羨ましいんだよー。お前みたいなやつ。頭もよくてイケメンで金持ちだろ!揃いすぎてて、対抗しようとする気も起きない」


「なんで、令嬢のレイチェルが、俺に対抗しようとするんだ。お前女が好きなのか?」


「………好きだよ。大好きだった。でももう好きになったらいけないんだ」


「それは……、同性だからか?」


「まぁ、それもあるけど………、俺の罪ってやつだよ。だから、今度はちゃんと、一人の人を幸せにしてあげたい」


 オーブリーは、わけが分からないという顔をしていた。


(そりゃそうだ、余計なことを喋りすぎた)


「ごめん、今のくだらない話忘れていいよ。よーし!あともう少し頑張るぞー!」


「ああ……」


 ついつい、脱線したくなるのが、俺の悪い癖で、オーブリーの何か言いたげな視線を感じたが、プリントに集中している顔をして、気がつかないふりをした。


 そうして一週間、毎日基礎を勉強して、やっとプリントの問題がまともに解けるようになった。

 教師に前回のテストについては、認めてもらえたが、来週のテストで満点を取らないと、またプリントを出されることになり、今度は次のテスト範囲の勉強に取りかかっていた。


 オーブリーは引き続き、予習にも付き合ってくれることになった。


「本当助かるよ。もう、このまま、頭がおかしくなって死ぬのかと思ったほどだったから、オーブリーのお陰で、ここまで解けるようになって、本当良かった」


「大袈裟だな、むしろいきなり出来なくなったのは、何だったのか。こっちも、基礎を教えたら、どんどん自分で出来るようになったし、全然手がかからなかったぞ」


 不可解な記憶喪失で、俺の頭は完全にイカれたかと思ったが、とりあえずは、元に戻ったようで安心した。後は、来週のテストに向けて頑張るだけだ。


「それで、レイチェル、雑用の件なんだが……」


「あぁ、いいよ。もちろん。掃除当番とか?何回でも変わるよ」


「いや、掃除とか雑用ってわけじゃないんだか」


「何かお願い?私に出来ることなら……」


 オーブリーは、何か言いにくそうに、咳払いをした後、俺の顔をじっと見てきた。


「なっ……、何だよ」


「レイチェル、俺と付き合ってみないか?」


「え?付き合うって…?」


「……だから、男女のお付き合いだよ」


 オーブリーが何を言っているのか、耳を疑った。


「……お前、この間の話聞いてただろ、こんなおかしな女と、よく付き合おうなんて思うな」


「べつにそんな事は何も気にならない。それより、レイチェルが言っただろう、俺がモテそうだって」


「え?あぁ、言ったけど……」


「確かに、顔や家柄を見て、近づいてくる令嬢はいるけど、その、俺の性格が悪いのか、長続きしないんだ」


「え……マジで……」


「正直、自分でもどこをどう直したらいいか分からないんだ。俺と付き合ってみて、忌憚のない意見を聞かせてほしい」


 オーブリーの顔は真剣だった。きっと、悩みに悩んでいるのだろう。あんなに完璧に見える男でも、人間らしい感情があるのだと気づかされた。


「……分かった。色々良くしてもらったし、今度は私が助ける意味でも力になるよ」


 こうして、俺は、オーブリーとお試しで付き合うことになった。


 人助けくらいの軽い気持ちだったが、やがて、足元から埋まっていくことを、この時の俺は考えもしなかった。





 □□□


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