とある朝「」
ラブストーリー。そんなものは、まやかしだ。
田舎暮らしから上京してきて一か月、俺はすでに出鱈目な生活をしていた。スーパーの袋に入れた食べカスが残った弁当箱。潰れたビールの空き缶。丸まったティッシュ。俺は泥にまみれるようにのそのそと生きていた。うっそうと立ち込める悪臭すら感じなくなったのは鼻孔がやられているせいか。廃棄物しかないこの部屋を居心地が悪いとは到底思えなくなっていた。
カーテン越しに射す光のせいで嫌々ながら目を覚ました。片目を瞑りながら目を開けるが、再び両目を閉じると顔を炬燵に突っ込んだ。鬱陶しい鳥の泣き喚く声を聞かないよう耳を両手で塞ぎ、うずくまるように再度眠りにつく。
携帯の着信音が鳴り響いた。灰色の画面を開くと一件のメールが届いていた。件名には久しぶり、という一言だけ。中身を確認しようとしたが、手を止めた。再び炬燵に潜り殻に閉じこもったのだ、コウモリのように。
灰色の空に、灰色の画面。突然始まる恋など存在しない。