エピソードゼロ
寂れた廃墟の中、息を殺して二人で潜む、拠点を制圧するまで待たなければならない。
しかし、ただ待てば良いというわけではない。制圧を阻止しに来る奴を、迎え撃つ必要がある。
足音が近づいてくる。敵が来たのだ。
「ショウ、来るぞ……」
ヨウが僕に語りかけた。
分かったと、目線で相槌を打つ。
もうすぐ戦闘が始まる……銃を部屋の入り口に向かって構える、緊張が高まる中、急に足音が消えた。
その時、何かが投げ込まれた……と同時に画面が真っ白になる。閃 光 手 榴 弾 だ!!
「くそっ!!!」
何も見えないため、伏せることしかできない。そんな最中、銃声が響き渡った。
(やられる!)
と思ったのも束の間、被ダメージは無かった。全て外したのか? 次第に、視力が戻ってくる。目に映ったのは敵の死体だった……。
ヨウがやったのか……?
「お前……効かなかったのか?」
「いいや、効いたぜ」
「ならなんで?」
「適当に撃ったら当たった(笑)」
相変わらずふざけた奴だ。
「早く、次の拠点に行こうぜ!」
気づけばCは制圧完了していた。
「了解」
次の目標はA、あそこを取れば2-1で僕らのチームの勝ちになる。アルファは視界が開けているため、スナイパーの僕からしたら、絶好の場所だ。
「このバギーに乗ってくぞ」
ヨウが、拠点を取ることによって、出現したビークルに、先に乗る込む。言われてから、僕も続く。
これから僕らは、アルファに直接行くわけではなく、敵を狙撃するために、崖の上に向かう。俗に言う、『芋る』ってやつだ。
「おい、あれを見ろ!」
指先を方角を見ると、戦闘ヘリが、アルファに向かって来ていた。
「ショウ、バギーに付いてるLMGで、ヘリを狙え」
「こっちに来ちゃうぞ」
ヘリにとって、乗り物は格好の的、特に芋ってる奴がいたら、真っ先に殺しにくるだろう。
「大丈夫だ、考えがある」
ヨウが僕に言った。
コイツのことだ、いつもみたいに、僕が考えもつかない馬鹿げたやり方で、驚かせてくれるんだろう。
ヨウを信じて、LMGを着弾予測して、空を飛ぶ戦闘ヘリの、かなり前方に向けて撃つ。
ダダダダダっと、アサルトライフルよりやや遅めの間隔で弾が放たれる……。
さすがに空中の的を当てるのは難しかったが、いくつかの着弾反応を確認できた。すると、ヘリがこちらに気づき方向転換して、こちら向いた。
「こっちに気づいたぞ!」
「よし、逃げるぞ!」
迎え撃つと思っていたのに、帰ってきた言葉は撤退宣言。
僕はヨウの発言に拍子抜けしながら車に乗り込む。
何か策があるんじゃなかったのか? と懐疑に思い、尋ねてみる。
「それで、考えってなんだ?」
「お前の狙撃でパイロットを殺す。」
ヨウが、エンジンを掛けながら答えた。
ヘリに乗ってる人間を撃つなんて、上級者のテクニックで、僕はやったことなんて無かった。
「無茶言うッ――」
僕が批判の言葉を出しきる前に、車が猛スピードで前進した。
その瞬間、戦闘ヘリから放たれたであろうミサイルが、ドドドドーンと、さっきまでいた場所に着弾し、爆発音が響いた。
「やらなきゃ死ぬぜ?」
ヨウがニヤリと笑いながら言った。
「ふざけてる……」
僕は呆れながら返した。
ヨウの言う通り、やらなきゃやられる。
こちらには対空ミサイルなど無く、ヘリを壊すことは不可能だ。
このピンチを乗り越える方法は、パイロットを狙撃するしかない。
意を決し、ライフルをヘリに向けるが、車が左右に揺れ的が定まらない。
「揺れると照準が定まらない!」
「次の攻撃が止むまで待て!」
ヨウが答えてすぐに、敵のミサイル第二波が来た。
ヨウが蛇のようにくねくね運転をし、ミサイルの直撃を躱す。
しかし、近くに落ちたミサイルの爆発に車体にダメージが入る。
車から煙が上がり、次の攻撃には、耐えられなさそうだ。
「いまだ!」
ヨウが声を上げて、車を直線的な動きにする。
僕は、ヘリの操縦席にスコープを向けて、敵を視認する。
照準を敵の頭に当たるように合わせて、引き金を引く。
ダーーンっと、音とともに、弾が発射されるが、敵には当たらず、やや逸れた場所を通り過ぎた。
「外れた!」
「くそっ……!」
ヨウがハンドルを大きく切り、車が旋回する。
それと同時に、ヘリの攻撃の第三波が来る。
かろうじで避けるが、車のダメージが酷く、動かなくなった。
周りに隠れる場所も無く、次の一発で決めるしかない。
「次が最後のチャンスだぞ!」
ヨウに返答はせず、銃身向ける。冷静に、照準が重なるのを待ち、そして、放つ。
弾が飛び出し、パイロットの頭を吹き飛ばした。
『敵をキル』
キルログが流れ、確かに相手を仕留めたことが分かった。
「やった!!」
僕は喜び声を上げ、ヨウの方向くと、指を前に出し静止していた。
「こっちに来てるぞ……」
「へ?」
間抜けな声が溢れ、前に顔戻すと、パイロットが死亡し、コントロールを失った鉄の塊が、勢いよく向かってきていた。
「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」
ヘリは地面と衝突し爆破。
僕らはその爆発に巻き込まれ死亡した。
『あなたは事故死しました。』
画面に死亡ログが表示される。リスポーン画面にいく前にマッチが終了して、
『あなたのチームの勝利です。』
という文字が、軽快な音楽とともに現れた。
どうやら、味方がアルファをちゃんと取ってくれたみたいだ。
「勝ったな」
ヨウが、ボイスチャットで語りかけてくる。
今日の試合は僕たちの勝利だ。