第八話:入学初日・中編
「へぇ、アンナさんは魔術について勉強しているんだね」
「うん。…昔から興味があって、お父様と関係があった神父様が教えてくれたの」
「いいな~。僕は農民だからさ、周りに魔術を使える人はいなかったから教えてもらうことが出来なかったんだよね~」
アンナさんの話に僕は羨ましいと思って答える。図書室までの道のりで僕はアンナさんといろいろな事を話すことが出来た。話す事が苦手だと思っていたアンナさんも結構普通に話してくれて今ではあったころのつっかえつっかえな話し方じゃなくなっていた。多分知らない人と話をするのが苦手なんだろうね。
「アンナさんはどんな魔術を使えるの?」
「基本的なエレメンタル系統なら、後は一部の中級魔術も一応」
「中級魔術を!?」
アンナさんの言葉に思わず僕は少し声をあげて聞き返してしまった。けどそれもしょうがないと思う。中級魔術は一応素質がなくても頑張れば使える魔術だ。だけどまだ入学して初日だと言うのに。確か中級魔術は一年の後期に習い始めると聞いていたけど…。
「使えると言ってもまだ、成功率は低い、よ?」
少し声を上げたせいかアンナさんは少しビクビクしながら言う。そのしぐさが小動物みたいでかわいいと思ったけど直ぐにその思いを彼方に吹き飛ばして答える。
「それでも十分だと思うよ。僕なんて中級どころか下級魔術だって使えないんだし。誇っていいと思うよ」
そもそも魔術の詠唱すら知らないからそれ以前なんだけどね。
「あ、ありがとう」
アンナさんは少し俯き気味に呟く。よく見ると顔が赤くなっている。多分だけど褒められることに慣れていないのかな?耳まで真っ赤だし。あまり踏み込まない方がいいのかな?
そう思っていると丁度良く図書室に到着することが出来た。図書室は一棟丸々使用しており中にある本も種類や数もとても多い。何でも国中の本の半分近くが治められているらしいけどこれ燃えたら大惨事だよね?いいのかな?
早速中に入ると天井まで届く勢いの本だなが目に飛び込んできた。入ってすぐのところは天井まで吹き抜けの構造になっているようで最上階である三階までよく見ることが出来る。
「あら、新入生ですか?」
壮大な光景にアンナさんと一緒に呆けているとふと声をかけられた。声からして女性の様で周りを見れば図書館の入り口付近にあるカウンターからこちらに声をかけたみたいだ。恐らく司書か何かなのだろう。
茶色の髪を長く垂らしおっとりしている様な表情をしている。人によっては母性を強く感じる事もあるだろうと思わせる女性だった。
「はい、新入生です」
「あらあら、入学初日から図書室に来るなんて勉強熱心なのね」
僕の言葉に女性はニコニコと笑みを浮かべながら対応してくれる。確かに周りを見た限り、というよりここに来るまでの道のりで新入生らしき人とそんなに出会わなかった。あまり人気がないのかもしれないね。
「私はここで司書をしているミレイユって言うの。気軽に読んでくれて構わないわ」
「僕は二組のシャルルと言います。農民出身のため性はありませんが…」
「お、同じく二組の、アンナ・ド・ギュイ。と言います…」
「シャルル君にアンナちゃんね。早速だけど図書室を利用するなら会員登録を行ってね」
ミレイユさんはそう言ってペンと紙を渡してくる。紙には名前、組等簡単な情報を書き込む欄と図書室での注意事項が書かれていた。
「図書室にある本は貸出できるけどそのまま返さない人が偶にいるからこうして会員登録しないと貸し出しや一部の場所へ行けなかったり閲覧禁止の物もあるの」
「成程、分かりました。なら会員登録をします」
「わ、私も」
僕は迷わずに即答する。本の持ち出しは出来ないと思っていたからこれは朗報だ。これなら寮に戻ってもいろいろと知ることが出来そうだ。
僕は早速紙に情報を記入していった。




